自分なりの選択肢 無免連が巻き起こした大型デモの参加者であるツクリテやニジゲンを抑える凪。抑えながら様子のおかしかった自分の上司である八重の事を考えていた、なにか、どこかこのデモの事を考えているような、そんなふうに見えたのだ。
本当だったら同期である羽紅になにか意見を聞きたかったのだが、生憎いない。なので自分で考えるしかなかった。
「……八重さん、どうしたんだろ」
凪は少し唸りつつ考える。このデモに関して、なにか思うものがあるのだろうか。凪は黙ってデモの状況を見た、創作に対する自由。
凪はどちらかと言うと、今の法律に完璧に賛成というわけではなかった。けれど、かといって反対かといわれると、少し胸が引っかかる。
この感覚がなんなのか、凪は分からなかった。
「……まぁ、そんなこと考えても仕方ないか」
自分の出来ることは、これ以上の混乱でニジゲンが没にならないように防ぐ事、これ以上の被害を少しでも減らすことだ。
自分の上司は、なにか迷っているのだろうか。と考える。もし迷ってるなら、自分はどんな言葉をかけたらいい? あの日、絶望の淵にいた自分を救ってくれた相手、今のこの状況、似たような立場かもしれない。なら、自分はどんな言葉を選べばいいのだろうか。
その時、無線が入った。凪はそれを受け取り声を出す。
「はい、希水」
『あ、凪くん? そっちどうかな』
「八重さん、こっちは大丈夫ですよ」
丁度八重からの連絡だった、凪の声に安心したのだろう。八重がなにか指示を送っているが、その指示がするり、と凪の身体を通り抜けるように消えるような感覚だった。
頭では指示の事は分かっていた、けれど、先程の考えていた事が頭から離れない。凪がずっと黙っていたからか、八重が心配そうな声をかける。
『凪くん? 聞いてる?』
「……ねぇ、八重さん」
『ん? なに?』
凪は少し考えるように目を閉じて、そっと開いたかと思うと口を開く。
「……八重さん、八重さんが何考えてるか俺は分かりません。今日の八重さんなんだかおかしいし。けど、八重さんがもし、その考えてる事がわかった時は……俺は貴方について行きます。だから……忘れないでね、八重さん。俺、八重さんの味方ですよ」
そう、自分が悩むことなどないのだ、自分が復帰した後、自分に対して後ろ指をさして味方など居ない時、唯一自分の味方になってくれた八重に、今度は自分が八重の味方になればいい、と凪は考えたのだ。
そして、指示された所に行ってきます、と八重に言って無線を切った。