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    myu_5578

    土沖 20↑

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    myu_5578

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    10月16日のTOKYO FES Oct.2022 かぶき町大集会 12にて頒布させていただいた、ペーパとなります。小説『永遠の愛くらい誓えや』の後日談のような感じです。
    本編が一応沖田の誕生日という設定なのに、出オチに使っただけで全く活かされなかったと悔やんでおりましたら、クソ季節感のねぇペーパーになってしまいました。

    ※少し修正しているので、配布時とは若干文章が異なるところがあります。

    ラムネと指輪とお前「結婚指輪ほしくないですか?」
    「ほしくない」
     えーと不満の声を上げて、沖田は土方の膝の上でゴロリと転がった。七月も三週目に突入して、気温はどんどん上がっている。冷房をつけるかつけないかという瀬戸際だ。人と人とがくっついていれば勿論暑い。
    「つーかお前、今見廻りじゃね?」
     首に伝う汗については何も言わない土方だったが、膝上の男のサボりについて言及する。
    「新婚だから別にいいよって近藤さんが」
     近藤の言いそうなことである。土方は顔を顰めた。
    「言ってくれるんじゃねーかなと」
    「言ってねーのかよ‼︎」
     思わずツッコミを入れると、沖田はうつ伏せになって土方の腰に手を回した。隊服の上着は脱ぎ捨てられている。いつもより装甲が薄くて良い。猫のようにぐりぐりと頭を擦り付ける。
    「おいコラ。書き損じたらどうしてくれんだ。結構大事な書類なんだけど」
    「作戦通りですね。クビになれ土方。そして副長の座渡しやがれ」
    「渡すか‼︎」
    「にしてもあちーなァ。クーラー付けましょう」
    「規定に達してないから、まだ付けれねーんだよ」
    「ブラック企業でィ」
     現在進行形で仕事をサボっているブラック部下は、文句ばかり垂れる。本気で追い出そうかなどと考えていると、開けていた戸から足音が近づいてきた。
    「副長お疲れ様です。うわ、隊長もいたんですか」
    「上司に向かって、うわとはなんだテメェ。ぶっ飛ばすぞ山崎」
     とは言うものの、沖田に動く気は全く無さそうだ。山崎は昼間からイチャつく上司たちにため息をついた。
    「こいつため息つきやがったぞ」
    「生意気な野郎でさァ」
     不穏な気配になってきたので、とっとと用事を済ませて帰ることにする。
    「局長からの差し入れの、ラムネ持ってきました」
    「ラムネだってよ」
    「じゃあ許してやりましょうかね」
     ただ差し入れを届けに来ただけなのに、責められたり許されたり。これ以上いても碌なことがなさそうなので、山崎は早々に撤退した。
     また二人きりに戻って部屋で、ラムネを飲むため、沖田はのそのそと体を起こした。ビー玉を押し込むと、シュワシュワと爽快な音が、蝉の鳴き声を掻き消していく。泡が落ち着いた頃、一気に喉へと流し込んだ。冷たさと炭酸の刺激が心地よい。
    「暑い時に飲むとやっぱうめーな」
    「近藤さん、なんで急に差し入れなんてくれたんでしょうね」
    「こういう時は、どうせキャバ嬢が関わってんだろーよ」
     土方の推測通りであった。スナックすまいるに誤発注のため溢れかえっていたラムネを、近藤が買い取ってきたのである。正しく言うなら、押し付けられ、買取をさせられた。
    「はー美味かった」
     すっかり飲み干して、机の上には瓶だけが残った。沖田はビー玉を取り出そうと、瓶を弄くり回している。その姿に、土方の胸には思わず懐かしさが込み上げてきた。武州にいた頃も、よく近藤がラムネを買ってきたもので、飲む度、沖田はビー玉を取り出して集めていたものである。
    「よし、取れた」
     小さかった少年は、いつもビー玉を取るのに苦労していたが、大きくなった彼の手にはもう既にビー玉がある。成長と変わらぬところを同時に目にし、土方は無意識に口元を緩めた。
    「はい土方さん」
     感傷に耽っていると、自分の名を呼ぶ声とともに、突如左手に違和感が現れた。慌てて見てみると、左手の薬指に若干ベトついたプラスチックの輪が嵌められている。
    「なにこれ」
    「結婚指輪でさァ」
    「ゴミじゃねーか‼︎」
     土方の左手薬指にあるのは、ラムネの口に付いていた輪、言ってしまえばゴミである。呆れながら、取ろうと輪を引っ張る。抜けない。
    「なんでだァ⁉︎」
    「勢いで嵌め込みました。結構ギチギチでしたけど、上手く入ってよかったです」
    「よくねーわ‼︎」
     その後しばらく左手薬指と格闘していたが、どうにも取れない。第二関節より上に進んでくれないのである。何故入ったか不思議なほどだった。土方は手をブンブンと振ったり、輪を回してみたりと、試行錯誤している。元凶の沖田は我関せずと、また膝の上に戻って欠伸を零した。


      **


    「失礼します。報告書の方を……ってあれ? 副長、その指についてるの、何すか?」
     部屋に差し込む光がオレンジ色に染まり始めた頃、一人の隊士が部屋を訪れた。
     指摘された掌を見せつけて、土方はぶっきらぼうに答える。
    「結婚指輪に決まってんだろ」
     怒っているような、諦めたような、不貞腐れたような愛しの旦那様のヤケクソな姿と、鬱血し始めている左手薬指を特等席で見ながら、沖田は笑った。


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    myu_5578

    MOURNING10月16日のTOKYO FES Oct.2022 かぶき町大集会 12にて頒布させていただいた、ペーパとなります。小説『永遠の愛くらい誓えや』の後日談のような感じです。
    本編が一応沖田の誕生日という設定なのに、出オチに使っただけで全く活かされなかったと悔やんでおりましたら、クソ季節感のねぇペーパーになってしまいました。

    ※少し修正しているので、配布時とは若干文章が異なるところがあります。
    ラムネと指輪とお前「結婚指輪ほしくないですか?」
    「ほしくない」
     えーと不満の声を上げて、沖田は土方の膝の上でゴロリと転がった。七月も三週目に突入して、気温はどんどん上がっている。冷房をつけるかつけないかという瀬戸際だ。人と人とがくっついていれば勿論暑い。
    「つーかお前、今見廻りじゃね?」
     首に伝う汗については何も言わない土方だったが、膝上の男のサボりについて言及する。
    「新婚だから別にいいよって近藤さんが」
     近藤の言いそうなことである。土方は顔を顰めた。
    「言ってくれるんじゃねーかなと」
    「言ってねーのかよ‼︎」
     思わずツッコミを入れると、沖田はうつ伏せになって土方の腰に手を回した。隊服の上着は脱ぎ捨てられている。いつもより装甲が薄くて良い。猫のようにぐりぐりと頭を擦り付ける。
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