運命であってくれよ(仮)乱太郎は、誰にでも優しくて情深く、同じ地平でまっすぐ人の目を見れるやつだ。
だが、俺はそれが時々つらい。
初めて会ったときから、乱太郎は俺のことを自分と対等に扱ってくれた。俺がそれまで生きてきた世界と違って、乱太郎は損得や優劣で他人を品定めしないやつだった。
俺はその感覚に衝撃を受けたし、すぐに「コイツと友達になることが自分に必要だ」と理解した。
乱太郎と友達であることが、俺の担保になった。俺自身にとって。
だから、は組の連中とも友達になれた。乱太郎と友達でいる俺、だからこそ、どんな生まれ育ちのヤツとも対等になれると信じられたし、実際なれた、友達に。
乱太郎のことが特別好きとか、憧れてるとか、そういうことじゃない。前の俺とは違う、新しい価値観を広げたままでいるために、乱太郎が必要なんだ。
でも時々不安になる。
もし乱太郎と友達じゃなくなったら、それでも、他人と対等な立場で付き合っていく今の感覚を保てるのだろうか、と。
土井先生とはそういう風にならない。土井先生は俺のことを自分に似てる境遇だからって大事にしてくれてる。俺は土井先生の"特別"だと思える。
理由があって、贔屓されて、愛されて、絆がある。俺がどんなに道を踏み外しても俺を見捨てないでくれるだろうと思える。
でも乱太郎は……乱太郎は俺以外のやつとも友達で、骨惜しみしなくて、平然と自分の人生を分け与える。
俺は偶然、入学金を払う時に会えただけのクラスメイトで、乱太郎は俺とじゃなく、庄左ヱ門や兵太夫や三治郎と同室になって、つるんでた可能性もあったんだ。
そう考えると、俺は少しヒヤッとする。
乱太郎、俺が死んだら、おまえも死んでくれよ。
ウソ、そんなことは意味がない。
ていうか乱太郎が先に死んでも、俺が後を追うわけもないしな。
そんなことしたって一銭にもならねえ。
ただ時々、そういうくだらない渇望が顔をもたげてくる。
俺の運命と、乱太郎の運命が、切り離せないものであったらな、って。