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    ナナシ/ムメイ

    @refuge774 @mumei_774
    ゲッター(漫画版と東映版中心/竜隼)書いて一旦投げる場所に困ったのでここに。推敲したのはpixiv(https://www.pixiv.net/users/1604747)に。■→推敲格納済
    なにかあればましまろにどうぞ↓
    https://marshmallow-qa.com/refuge774

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    ナナシ/ムメイ

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    ネオゲ本編後竜隼。
    あの世界の竜馬はどうして研究所離れて、二人は五年間何考えて過ごしてあの後どうしたんだろうとか。

    ネタとしては粗方見終わった直後にはあったんですが、データ二回飛ばした(主な理由)り、書こうとしては原作と根本的な軸や核が色々噛み合わなさすぎることに悩んでこんな時間かかり……。
    原典周りから色々設定引っ張りながらネオゲの本編内容ある程度組み込んでるつもりです。

    ■ もう一度、何度でも五年、という月日は短かったのか、長かったのか。

    ……さっぱりわからねえな。なにもかも。
    そう胸の中で独りごちながら、竜馬は縁側で一人煙を燻らす隼人を眺めた。
    黒いスラックスに白いワイシャツ。ネクタイが外されて見える首元に、今はあの十字架の鎖も無い。

    恐竜帝国の再侵攻、そして六年近くに渡っての戦いの決着からしばし。
    あの日、あの瞬間、中天で輝いていた太陽の代わりのように月が静かに秋の夜闇を照らしていた。
    山中にあるこの烏竜館は、今は自分達以外に人もおらず、まだ手入れの行き届いていない庭の草むらからは澄んだ虫の声が響く。
    長い脚を持て余す様に片膝を立てて縁側に腰を引っ掛け柱を背に寄り掛かる隼人の姿に、竜馬は不意にいつか早乙女研究所のバルコニーで手摺に腰掛けていたその姿を重ねた。
    しかし、今はその手にあるものはハーモニカではなく、その唇から漏れるものも旋律では無い。
    整った長い指の先、季節外れの蛍が瞬く様にも思えるゆっくりとした赤い灯の点滅に、竜馬は手元のぐい呑みをあおった。
    トン、と板を打つ音に、月を見上げていた隼人の白い顔が向けられる。長い前髪の隙間から見える涼し気な切れ長の目が。
    どこか、なにか、『こっち』を見ていないような。
    ざわつく自分の気持ちを落ち着かせるように、竜馬は手酌で注いだ酒をまた飲み干した。
    その水面に映りこんだ月まで呑み込んでしまうように。

    +++++

    「竜馬。隼人をな、しばらく預かってくれんか」

    数週間前、いまだ復興が続く早乙女研究所の一室で、竜馬はひとり、早乙女博士と向かい合っていた。
    五年前とは違い、明確な、物理的武力として超常の力を見せた真ゲッターロボは関係者が見守る中、早乙女研究所の深部ブロックへ封印された。
    一度公開されてしまった力は、無かった事にはならない。
    悪用を防ぐ為にもゲッター線自体はネーサーのプラズマエネルギーと並行、協力しながら研究は継続される事にはなったが、だからといって、今の自分達に『あれ』は、いや、『あいつ』は使っていい力とはならない。
    竜馬はそう思い、真ゲッターロボの封印に賛成した。
    竜馬から見ればまだまだひよっこ共――ネオゲッターチームには納得が行かない者もいたようだが、全て片が付いた今となっては、尚更に無い方が良いと、必要であっては困る力だとも思った。
    隼人もそれは賛成していた。ただ、どこか微かに後ろ髪を引かれてでもいるような気配が竜馬には気になっていた。

    「……あいつは、犬猫じゃないでしょうよ、博士」
    思い当たる節が、無いでもない、そうは考えながら、竜馬は苦笑してそう返した。
    「大体、隼人の奴の都合とか、聞いてないんじゃないですか」
    「それは、そうなんじゃがな」
    早乙女も困ったようにそう言って頭をかいた。珍しくため息をついて、書類が山と積まれた机の前の椅子に深く座る。
    遠くからの工事の音とは別に、背もたれを僅かに軋ませる音が妙にはっきりと竜馬の耳に届いた。
    「……なかなか休まんのじゃよ、わしらが言っても」
    ――まるで生き急ぐようだ、と、皆言う程でな。
    ぼつりと落ちたその言葉に、早乙女を見据えていた竜馬の顔の中、片眉だけがぴくりと動いた。
    背を軽く丸め、指を組み、なにか考え込むような数瞬の後、早乙女が立ったままの竜馬に目をやり、口を開く。
    「……なあ、リョウくん」
    まるで、懺悔めいた声。ゲッター線に関してすら、こんな声は滅多に聞かなかった。
    ――そう、大きな犠牲があった時、予感してしまった時以外は。

    「わしらは、いや、わしは……隼人くんを選ぶべきでは、なかったのかもしれん」

    「ははっ、らしくない殊勝な物言いじゃねえか、博士」
    重くなる空気に抗うように竜馬は軽く笑ったが、胸は重く、笑い声は自分でも虚しく聞こえた。
    やはり、どうにも、自分を隠す事は苦手だ。あいつや博士とは違って、とそっと小さく息をつく。
    「……わしらも、年を食ったよ、リョウくん。
    わしには、まるで昨日のような五年でもな」
    そうして早乙女がやった目線の先には、皆で並んで撮った写真があった。
    自分と、隼人と、逝ってしまった武蔵と、早乙女家が並んでの家族写真。

    「――……選んだのはあいつですよ。
    それに、主犯は俺です」
    どうしても、あいつじゃないと嫌で、無理矢理あんな生き地獄に引きずり込んだのは。

    だから……わかりました。

    そんな事を話し、隼人の仕事の区切りが着いたという連絡を貰った今日、竜馬は半ば無理矢理ここまで隼人を引っ張ってきたのだった。

    +++++

    ――そういやぁ、互いに酒が飲めるんだった、と話していて気付いた。

    しばらくお前はここに俺と缶詰だ、と投げ出した直後こそ隼人は文句を言ったものの、昼間は勝手にやる事を探して手が届いてなかった場所の掃除やら修理やらに精を出していた。鮮やかな赤いシャツの代わりに、何の変哲もない白いワイシャツの袖をまくって。
    そうしていれば、五年の空白はあまり感じずにいられたが、それはお互いにだったのかもしれない。
    あいつにはきっとアナログすぎる風呂も素朴すぎる飯も、あいつらしい皮肉は言っても文句らしい文句ひとつ言わず過ごして。
    早乙女家やら研究所の人達やらネーサーの人達やらから半分隼人と一緒に押し付けられたような沢山のお持たせ(相変わらず敵も味方も多い奴なんだなと思った)に混じって、早乙女博士と敷島博士からと渡されたものが酒だった事に気付いた時、ようやく俺たちは時間の流れを再確認した。

    満月に近い月がのぼった夜に、涼しく感じるくらいの風が穏やかに吹いていた。
    障子を開け放して縁側で呑むか、と声をかければ、隼人は口元に薄い笑みを履いたまま、黙って頷いた。

    隼人は、必要さえなければ、昔から物静かな奴だった。
    なにせ気付けば皆から離れて静かに本を読んでいたり、誰に聞かせる訳でもなくハーモニカをひとり吹いているようなところがあった。
    ……それに、どこか、遠くを見てるような気がする事が、最初の頃はよくあった。

    口数も少ないまま、お互いに酒をつぎあって、ちびちびと口に運ぶ。
    お互い、酒を飲めるようになってたんだよなとか、普段から飲むかとか、どんなのが好きなんだとか、そんな事すら、今の俺は聞かなきゃ知らない。
    あの頃は、お互い何を言わなくても、多くをわかっている気すらしていた。
    きっとそうだった、けど。
    詰まるものを飲み込むように口にした酒は、いつも適当に飲むものより上等で、つるりと水のように喉を通り、やたらにいい香りが鼻に抜けた。

    「一本だけ、いいか?」
    ふと流れた静寂の合間に、僅かばかり申し訳無さそうなそんな声がした。
    「構わねえよ、灰皿はねえけど」と返せば、紙巻の洒落た箱とは違う銀色のケースを見せられた。そっと遠慮がちに端に寄って、手品かなんかみたいに手元に現れてたオイルライターが音を立てて炎を灯す。
    俯いて火をつけるその仕草は初めて見る。

    離れている間に酒が飲める歳になって、自分が修行の名目であちこち歩き回ってる間にお前は大怪我でゲッターには長く乗れない身体になっちまってて。

    コン、とぐい呑みが板を打って響いた音に、こっちに目をやったお前の顔は、よく知っているようで何も知らない。

    「タバコなんて何処で覚えたんだよ」
    らしくねえな、と付け足してやれば困ったように眉尻が下がった。

    悔しいくらい似合うけどよ、と胸の内だけで思う。
    なんでか、あの頃の空気に似て――いや、そういう事なんだろうと、内心持ってはいた後悔にすら近い気持ちが重くなる。

    「最初は、お偉いさんの付き合いとかよ」
    ふぅ、と煙を外に流して、目を合わせないまま隼人が言った。
    「……自分から吸い始めたのは長いこと乗れなくなってからだよ」
    お前さんと一緒に死んでやれなさそうでよ、なら、良いかって。
    長い睫毛を伏せて、銀色のケースに灰を落とす。そうしてまた隠された口元で一際赤く火が灯る。
    深くため息でもつくように、細く長く白い煙が吐き出された後、隼人がふと揶揄うんだか本気なんだか曖昧な笑みを浮かべて、こっちを見た。

    良いんじゃねえか、色々片付いたんだし。
    結婚とかしてよ、子供作って幸せになったって。
    戦わなくて済むならその方が良いじゃねえか。道場にゃ弟子だっているんだろ。
    ……俺は、ろくな死に方はしねえから。
    最初からそのつもりだから。
    でも、お前はよ。

    どこか思い切ったように、吐き出すような言葉。
    聞いていて、胸の奥がじくじく痛んだ。
    出会ったあの頃みたいな、ほっといたら何処か消えちまいそうなお前の顔なんか、俺は見たくなかった。

    ――五年。血を流し続けたお前。
    俺たちの中で一番責任感が強くて真面目で繊細な癖に誰もに公平であり続けたから、犠牲を背負い込んで、投げ出しも清算もせず、できず、戦い続けるしか無かったお前。
    ……神様とかいう奴が本当にいるなら残酷だ。
    あんたに近い人間ほど、生きたまま自分の血肉を平気な顔で皆に腑分けしやがる。
    痛くないはずがないのに。つらくないはずがないのに。
    所詮、お前だって人間で、心を無くせやしなくて、背負ったものの大きさに見合う成す為の犠牲を他人より多く払ってるだけなのに。
    ふ、と、肺から空気が漏れるような息をして、目を落とす。

    「……なあ、隼人。
    俺は、お前じゃねえよ」

    そうして、隼人の目を真っ直ぐに見た。

    「本当は、そうしたいのは、誰なんだよ」

    見据えた先、隼人が一瞬目を見開いて、バツが悪そうにふいと目が逸らされた。
    「隼人」
    僅かばかり前のめりになりながら名前を呼ぶ。
    「誰も、お前に幸せになるな、なんて、言わなかったじゃねえか。戦い続けろなんて、言わなかったじゃねえか」
    「……俺にゃ、できないって、だけだよ」
    俺から逃げるんじゃねえよ、と重ねた言葉にはそんな声があって、今度こそ自分が顰め面をしたのを自覚する。

    「どうせお前に会う前から地獄行きは自分で決めてたんだ。死ぬ前から地獄でもいいさ」
    だから、お前のせいでも誰のせいでもなんでもねぇよ。

    挙句淡々と、嫌になるほどしんと静かな声でそんな事を言うから、はぁあああとでかい溜息が口からついて出た。
    「……お前が、ひとりで抱え込んで、そんな勘違いしちまうなら……置いていかなきゃ良かった……」
    諦めろ、って? そんで俺にはお前の思う幸せとやらになって欲しいだと?
    冗談じゃねえ。誰が黙って頷いてやるとでも。
    そう思えばなんだかうっすら腹も立ってきた。

    「なあ、隼人」
    しばらく悩んでた。それは本当だ。
    でも、もういい。俺は腹を括る。

    「……――うちに、来い」

    「は?」
    しっかり腹の底まで息を吸って、どんと構えて聞こえるように言ったつもりが、驚いた猫みたいなまんまるい目とポカンとした声で返ってきて、今更なんだか恥ずかしくなる。
    「……だから、その、嫁じゃねえけど、その……」
    ああ、ダメだ。どう言や良いのかわかんねえ。どうにも格好が付かなくて、酒のせいじゃなく顔も熱い気がする頭をバリバリとかいた。
    自分を落ち着かせるようにまた息をして。
    「……五年前、記憶無かったとか言ったって、ゲットマシンに初めてぶち込まれてビビってたお前みたいな事喚いて戦えなかったの、俺は親父に教えられた事が身になっちゃいなかったんじゃねえかって、自分の情けなさが許せなかったし、その後もお前に全部任せて安穏と息してたんだ。その五年とちょっと分くらい、返さなきゃ男が廃るだろ。
    俺はお前に借りを作ったままなんざ嫌だし」
    煙草を手に、丸くした目をぱちぱちと瞬かせた隼人の顔に滲むように血の色が差して、目線が泳ぐ間に綺麗に通った鼻筋を横切る傷跡がうっすらと白く浮かびはじめた。
    ……まるで、俺の身代わりみたいじゃねえか。顔に傷なんかいつ作っちまったんだよ、俺にゃろくに残りゃしなかったのに。
    一度腹を括れば、それもなんだか気に食わねえ。誰だ、隼人の顔に傷なんかつけたのは。俺の知らないところで勝手に俺の身代わりになんかこいつをしやがったのは。
    「お前は俺じゃねえし、俺にゃなれやしねえ。
    俺は、お前に全部おっかぶってもらいたいなんて、そんな事いっこも望んじゃいねえよ」

    「それで、なんで――」
    「――終わったんだ、隼人」

    「もう良いだろ。
    それ以上、自分いじめなくったってよ」
    にじり寄って手を伸ばし、隼人の指先で長くなった灰をぽとりと落として燻る火を摘んで消す。そのままひょいと取り上げてしまえば、焦るようになにか言いたそうに開いていた口が閉じた。

    「……ムサシも、先に逝っちまった皆も、お前を呪いたかった訳じゃねえだろ」
    ……俺だって、お前は俺と一緒にいない方が良いだろと思ったのによ。
    呟きながらぎゅっと握った拳の中、短くなった煙草がへしゃげる。火が消えてるのを確かめて近くに置いていたゴミ箱に投げ捨ててもちっとも気持ちなんか晴れやしない。

    「お前が大事にして、大事にされる相手なら。お前がお前でいられる相手なら、誰でもよかった。
    けど、でも……ゲッター線にお前が連れてかれるのは許せねぇ。
    それだけはダメだ、許せねえ」
    声に出せば、得体の知れない力だろうがそれがたとえ幽霊だろうがなんだろうがなんだってんだと闘志が頭をもたげた。
    「あれに持って行かれちまうくらいなら、奪われちまうくらいなら――隼人」
    真正面からその目を見て、引きかけていた手に触れる。

    「いっそ、俺にもう一度、奪われちゃくれねぇか」

    「……りょう、ま」
    戸惑い掠れた声に触れた手を優しく撫でればびくりと身体を震わせて隼人が手を引っこめた。名残惜しい。
    「……あの、な……その、なんだ、プロポーズみたいに聞こえるんだが」
    「そう聞こえてもらわなきゃ困るぜ」
    はぁ、とため息つきながら自分も縁側から足を出して腰掛ける。まだ落ち着かない隼人が身を縮めるように足を引き寄せていた。
    膝を抱えるような姿はいつもより幼く見えた。
    まだたかが二十三歳で背負い込んだもののために「大佐」なんて無茶な場所にまで、駆け上がるしかなかったお前。
    皆の平穏の為に、自分のそれは置いてけぼりにして。
    「……あのな、お前、冗談――いや、お前は本気だな」
    「おう」
    神だろうがゲッター線だろうがぶん殴ってでも。そう決めた。
    だから、だけど、どうしてもお前に頷いてほしかったら、口下手ながらに口説き落とすしかないじゃねえか。
    俺はそんな口が上手くねえんだから、お前に馬鹿正直なんて言われたくらい、嘘も世辞も言えやしねえし、誠心誠意伝えるしか知らねえから、つっかえながら言葉を探す。

    「隼人……あのな。
    お前がムサシとか、先に逝っちまった皆を想ってるのも、だからいつもお前の近くにあったあの光に重ねて、きっと自分を見てるもんだってふらふら着いて行きたくなっちまうのも、わかるけどよ。
    ……お前に死なれちゃ、俺は生きていられねぇよ」

    「……死ぬ気なんか――」
    「全部、終わったんたぞ、隼人」
    言い聞かせるように、念を押すように言ってやれば、隼人が言葉を詰まらせた。

    「あいつらをお前の生きる理由になんかするな。
    そんなの、誰も望んじゃいねえだろ。お前があいつらを縛り付けちゃなんねえだろ」
    隼人が表情を隠すみたいに緩慢な動作で膝を引き寄せて顔を伏せる。きっと、言われたくなかっただろう。そう思えば胸がチクリと痛んだ。
    隼人から目を離し、目の前に広がる庭の向こうを見やる。どこまでも深く続くにも思える闇は、自分が抱えていた恐れの鏡にも思えた。

    「……俺は、お前の傍にいたら、いつかお前を縛りつけて食っちまいそうで怖かったんだ。
    けど……お前がそんななら、もう逃げるのはやめだ」

    ――俺が『家族』から離れた、一番の理由。
    お前を自分が縛り付けてしまう恐れ。自分の欲のまま、『お前』という存在を食い尽くして自分と勘違いしてしまう恐怖。
    それだって、お前を失っちまうくらいなら、もう逃げねえ。一端の男として立ち向かってみせる。

    「お前があそこから降りれねえなら、生きる理由が見つかんねえなら、今は俺を理由にすればいい」

    だから
    と、膝を引き寄せている手に触れ、ハッと上げた顔の中にその瞳を見る。
    時に紫がかって見える不思議な色は俺とよく似ていると皆が言っていた。
    今はその底に、深く悲しみや寂しさを沈ませて、きっと俺とは違う色をしている。
    よく似ていながらなにも似ていなかった、同じなのに同じにはなりえなかった、だからこそ、俺は、お前を。

    「――なあ、隼人。俺と一緒に生きちゃくれねえか」

    運命だと思って、覚悟しろ。
    なんて、あの時はそんな言葉にしかならなかったけどよ。
    あれは、俺の運命でもあったんだから。

    精一杯、想いを、願いを込めて触れた手を優しく撫で、離す。
    手の平に、自分より少し低い体温とするりとした肌の感触が残った。
    戸惑い、困るように眉を少し寄せて目を泳がせ、隼人が目を伏せる。
    長い沈黙の後、そっと伺うような声が途切れ途切れに落ちた。
    「…………お前、自分がひでえ事言ってる、自覚、あるか」
    何を今更、と瞬きしながら思いつつ「おう」と返してしっかり頷いてやる。
    「ひでえ我儘しか言ってねえよ。
    お前が忘れたくなくてしがみつきたかった理由取り上げて、俺の都合言ってるだけだ」
    それきり、また困ったような、躊躇うような沈黙に戻るから、そんなに気が長くない俺も困っちまう。
    「……隼人、良いも悪いも言わなかったら、本当にこのまま食っちまうぞ」
    ちょっとばかり強引にその手をもう一度取って、軽く引っ張り意地悪く感じそうに聞いてみる。
    が、ちっともこたえやしなかったみたいで、俯き長く息を吐く音の後、真剣な隼人の顔がこっちを向いた。
    「…………リョウ。
    お前は、それでいいのか」
    そんな問いには昔から俺の答えは決まってる。
    それより、そんなことより、お前がようやくしっかり目を合わせてくれた、それが、嬉しくて、自然顔が綻ぶ。
    「お前を地獄に引きずり込んだのは誰だと思ってんだよ」
    俺はとっくの昔に心だけでもお前と勝手に添い遂げるつもりでいた、あの日から。ずっと。
    伝わればいい。俺の心が。
    あの日から多くが変わってもそれだけは変わらない。
    覗き込んでいた隼人の瞳が揺れた。
    「……馬鹿野郎……」
    顔を逸らし、本当に馬鹿だと言い捨てるように。
    「……俺は、お前が誰かと満足に生きられるなら、それだけで……」
    「そんなら、俺はそれこそお前じゃねえといけねえや」
    これは『俺が決めた運命』だ。俺が、自分で。
    だから、きっと、これだけは、これからも変わらない。
    固めた決意を掌に掴むように、隼人の手を握る。
    俺の運命があるんなら、きっと、お前だ。
    俺はそう信じる。
    「……本当に馬鹿だ、お前は……」
    もう一度、どこか力が抜けたような、声が落ちた。

    「…………リョウ」
    「うん?」
    「……まだ、約束はできねえ」
    「ああ」
    「……けど、ちょっとの間なら奪われても、預けてもいい」
    俺の命、お前に。

    「隼人……!」
    まだ不安なのか自信が無いのか、隼人には珍しい声色がぽつぽつと耳に届いて、その最後の言葉が耳に触れた瞬間、嬉しくなってその身体を抱きしめた。
    一瞬驚き、狼狽えるような気配と手の動きの後に、おずおずと、まるでおっかなびっくり隼人の手が背中に回るから、もっとぎゅうっと抱き締めたくなる。
    初めてそうして触れる隼人の身体は、知らない感触と香りだらけで。

    ――……手始めに唇奪っていいか?
    ……唇だけで済むのかい?
    そりゃ、お前のお許し次第かな。

    今にも暴れ出しそうな衝動を抑え込んで。
    誓いの口付けは、まだもう少し、先でも。
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    Replies from the creator

    ナナシ/ムメイ

    DOODLEアイサガ軸のチェンゲ竜隼。バレンタインとかホワイトデーとかの時期を盛大に逃したけど今出さないと完全に忘れるだろうので。
    適当に色々ぼかしてあるので、「アイサガ隼人の好物はエネルギーバー設定」だけ知ってればチェンゲで読めると思います。(そもそもチェンゲ本編は再会してから時間無さすぎでこんな話やれるはずないのは置いといて)
    好きにしたいだけ今日は元の世界で言うところのバレンタインデーだかなんだか、らしい。
    そんな習慣がこっちにもあるのかと不思議になったが、恋人やら家族やらへの感謝の日みたいなもんがあるって事は、誰かに感謝とか好意を伝えたい人間がそれなりにいたって事だろうし、悪くねぇと思う。

    女からチヤホヤされたいか、と言われれば、性別どうのじゃなく好意を貰えばそりゃ嬉しい。が、好意のフリだけしたご機嫌取りだの媚びだのは昔から遠慮願ってたくらいには興味がねえし、いっそ煩わしい。口にこそ滅多にしねえが。
    もし、愛情の形とか貰えるなら、大事に思う相手からだけで良いし、なんなら貰うより送る方が性に合ってる――それが誰か聞かれたら困るが。

    コートのポケットに突っ込んだままのエネルギーバーを思い出して軽く眉を顰める。
    2064

    ナナシ/ムメイ

    DOODLE寒すぎて五半をくっ付けたかった。(動機に邪念しかないがまた銀婚式夫婦しかやってない)
    白狐の毛皮は秋野さんが前に書いたネタから拾いました。手入れすれば長持ちするんだそうで。
    羽織は戦国時代からとか調べはしたけど色々よくわからんまま書いてるので、なんか違ってるかもしれない。
    (言葉遣いは元が割と現代風混じってラフなとこあるので細かくやってません)
    冬の五半動物というのは人が思うより頭が良い。
    息も白む冬の最中、いつの間にやらするりと入り込んだ猫が書き物机の隣に置いた火鉢に背を着け丸まり、ごろごろと喉を鳴らしていることなどもままある。

    しかしまあ、逆に時折、人であっても動物より頭がよろしくないのではないか、と思う時もある。
    半蔵は暫し席を立った間にどこから乗り込んで来たやら、火鉢の傍で身を縮めていたそれに溜息付きつつ呼びかけた。

    「……五右衛門」
    「なんだァ?」
    「冬の間は山越えが危のうてかなわぬから、滅多に来るなと言うたじゃろう」
    熊かと思うて背筋が冷えたわ、と半蔵は帯に忍ばせた短刀を再びしまいながら呟いた。火鉢の前に黒い毛皮の小山が見えた時には本当に熊かと思い一瞬肝を冷やしたのだった。
    1788

    ナナシ/ムメイ

    DONEネオゲ本編後竜隼。
    あの世界の竜馬はどうして研究所離れて、二人は五年間何考えて過ごしてあの後どうしたんだろうとか。

    ネタとしては粗方見終わった直後にはあったんですが、データ二回飛ばした(主な理由)り、書こうとしては原作と根本的な軸や核が色々噛み合わなさすぎることに悩んでこんな時間かかり……。
    原典周りから色々設定引っ張りながらネオゲの本編内容ある程度組み込んでるつもりです。
    ■ もう一度、何度でも五年、という月日は短かったのか、長かったのか。

    ……さっぱりわからねえな。なにもかも。
    そう胸の中で独りごちながら、竜馬は縁側で一人煙を燻らす隼人を眺めた。
    黒いスラックスに白いワイシャツ。ネクタイが外されて見える首元に、今はあの十字架の鎖も無い。

    恐竜帝国の再侵攻、そして六年近くに渡っての戦いの決着からしばし。
    あの日、あの瞬間、中天で輝いていた太陽の代わりのように月が静かに秋の夜闇を照らしていた。
    山中にあるこの烏竜館は、今は自分達以外に人もおらず、まだ手入れの行き届いていない庭の草むらからは澄んだ虫の声が響く。
    長い脚を持て余す様に片膝を立てて縁側に腰を引っ掛け柱を背に寄り掛かる隼人の姿に、竜馬は不意にいつか早乙女研究所のバルコニーで手摺に腰掛けていたその姿を重ねた。
    8083

    ナナシ/ムメイ

    DOODLERe:ハニー小ネタだけど竜隼。そういえば二十周年なのかと気付いたので、記念的に。
    資料未所持で本編だけ見て書いてるのでなんか違っても許して。

    映像や脚本も良かったし単純にポップでキュートでビビッドで派手で外連味があって面白かったけど、「ダイナミック漫画作品における戦闘シーンのお顔これだー!!」感があってそういう所もとても好きです。
    今度こそ二人共に並んで生きてくれ、みたいな祈りを感じるところも。
    ■ CROSSING《Re:ハニー》前半→ハニーとなっちゃん
    原作は漫画版しかきちんと見てませんが、例えご都合主義でも違う世界と人々であってもあの終わり方は嬉しかったです。
    「友」は少なくとも石川ゲッターロボでは本当に愛した存在にこそ向けられる言葉なので、そのニュアンスで。
    後半→「早見」と「誰か」
    説明めんどくさいから極端に簡単に言うと、Re:ハニーはハニーだったけど同時に石川ゲッターロボだったし、早見は竜馬寄りで隼人混じってたよね?って前提で、なら早見にも相方いてもおかしくないよね?っていう。


    =====


    「あのね、なっちゃん」
    「なに、ハニー?」
    「えへへ、んーん、呼んでみたかったんだぁ」
    「なによ、にまにましちゃって。ほら、片付け終わってないじゃない」
    4187

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