まったくもう! 理由あって実体化した『タイムプリディクション〜時空の監視者』の登場人物らを前に、北村想楽は動揺を隠すための微笑を顔面に張りつける。
トリガーとバレットは秋山隼人・若里春名の両名に連れられて東京観光へ。葛之葉雨彦は暁ナハトとともに妙なにこやかさでもってどこかへ消え、流れを察したプロデューサーが理人・ライゼと古論クリスを別室へ案内したので、事務所の応接室には真白ノイと想楽だけが取り残されている。物珍しさと怪訝さがないまぜになった表情で事務所をあちこち見回すノイが自分と同じ顔をしているだけあって、向き合っているだけなのに収まりが悪い。
「えーと……」
暁ナハトがおり、トリガーとバレットもいるせいで、『この』真白ノイが『どの』時点の真白ノイなのかを測りかねて、言葉を選ぶ必要があった。
「――バディの人とは、最近どんな感じですかー?」
「は?」
穏当に会話を切り出したはずなのに、ノイは不満げに眉をひそめる。
「どうって……別に普通だけど」
「……そうですかー」
「理人さんはいつもあんな風だし――っていうかあの人、ああ見えてぼやっとしてるから僕のほうがお世話してるみたいになるっていうか。この間なんてジャケット忘れてきてさあ、びっくりしてたら『ノイ、どうした?』とか言ってきて。大丈夫ですかって聞いたらそっちこそどうしたー、なんて言うし……ま、ミーティングルームに僕しかいなかったから何とかなったけど。ほんと理人さんって抜けたとこあって、僕じゃなきゃあの人のバディなんて務まらないんじゃない? 僕が出世したら連れて行ってあげるしかないかー、って感じかな」
「そこまでは聞いてないけどー……うん、そっかー」
ノイが息継ぎをした間に相槌を打っただけなのに、声に含まれる笑みを消しきることはできなかった。
「……ちょっと、なに笑ってんの」
凄みをきかせるかのようにノイの目は細められている。適当に場を収めることもできたが、同じ顔をしたこの相手への悪戯心が湧いて、想楽はノイへと囁きかける。
「理人――さんのこと、大好きなんだなーって思っただけですよー?」
「――は、はあ……⁉ ワケ分かんないこと言わないでよ、僕そんなこと言ってないんだけど⁉」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出すノイを前に、想楽は笑いをこらえるだけで精一杯。
別室に移動した理人が、クリスから海の講座を受けて目を回していることに気づくのは、もう少し後のことだった。