【クリ想】後夜祭 三人での昼食のあとプレゼントを受け取って、夜を恋人と過ごして、北村想楽が目覚めたのは正午を回った頃だった。
時計を見ずとも、窓の外が賑やかだから昼頃まで寝てしまっていたことは分かっていた。きっと古論クリスは早起きして海に行き、そのまま帰って来てはいないだろうーーそう思っていたから、探ったベッドの隣にクリスの腕を感じた想楽は思わず目を見開いた。
「……クリスさんー?」
「はい」
本を閉じる音がしたかと思えば、寝そべる想楽の視界にクリスの顔が訪れる。
「おはようございます、想楽。よく眠れましたか?」
「うんー……」
クリスの声にも、顔にも眠気はない。緩慢に視線を向けるとクリスの手元では本が開かれており、脇に置かれたメモ帳にも何かが書きつけられていた。読書や書きものに向いた机なら別室にもあるのに、と疑問が湧いてから、すぐに想楽はクリスがベッドで読書をしていたのだと気がついてクリスの腕を取る。
「起こしてもよかったのにー」
「気持ち良く寝ていたようですし、今日は一日オフですから」
腕を伝った想楽の手がクリスの手に行き着くと、クリスは本を閉じて指を絡めた。十一月もまもなく終わる頃の空気に晒され続けたクリスの手は冷ややかで、握りしめると温度の差がよく分かった。
「もう誕生日じゃないんだから、僕に合わせる必要はないんだよー?」
想楽の誕生日だった昨日一日は、実に楽しい日だった。雨彦とクリスが選んだ食事とプレゼントはどちらも好ましく、そのあとはクリスと二人きりで過ごしたことも想楽の希望した通りだ。いつもより丹念な性交渉に満足しきった想楽は服も着ないまま眠りに落ち、日付が変わって今日は誕生日を終えた平凡な一日のはずだった。
握られた手は離れそうにもない。同じ温度になりつつある手のひらをすり合わせたクリスは目元を緩ませると、布団の中で想楽に体を近づける。
「誕生日が終わっても、想楽の時間は続きます。ーーそれは、祝うべきことですから」
頬の色ひとつ変わらないクリスの微笑に、想楽の体の方が熱くなっていく。
「お祝いなら、他にも何か必要なんじゃないかなー?」
それだけ言って唇を小さく尖らせれば、クリスはすぐに理解してキスをひとつ。
溶け合うような唇のふれあいが、想楽がその日はじめて受け取ったプレゼントだった。