あまいひとときをアナタに「師匠、これどうぞ」
夕食後の片付けを終え台所から戻ってきたプロデューサーに、道流は小さなプレゼントを手渡した。二人きりになれる彼の部屋で渡そうと決めていたのだ。
「時間が無かったんで少し簡単なやつになっちゃったんスけど、気持ちは沢山込めたんで!」
そう伝えるとプロデューサーは嬉しそうにありがとうと受け取り、隣に座った。
悩み抜いて決めたシンプルなラッピングは、とても似合っているものに出来たと思う。穏やかに笑う横顔を見ながら、達成感をひっそりと噛み締める。
「この間のカカオラーメンがそうかと思ってた」
「あれは皆が食べられる限定ラーメンなんで」
自信作だったんスよと付け加えれば、美味しかったよとまた笑い返される。と同時にプロデューサーの表情が少しだけ曇った。眉を下げ、困った様な焦った様なものへと変わる。
「どうしたんスか?」
まさか苦手だっただろうか? と少し焦る。
「いやぁ……被ったなって思って」
そう言い終わると同時に電子レンジの音が聞こえてくる。
ちょっと待ってて、と立ち上がり台所へと向かって行く。マグカップを二つ持ち戻ってくると、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「俺からも、どうぞ」
テーブルに置かれたマグカップの中身はホットチョコレートだった。真ん中に浮いているマシュマロとミルクが綺麗に溶け合っている。
「師匠が作ったんスか?」
「俺がと言うより、電子レンジが、かな?」
だから手作り料理じゃない、セーフ! と、真面目にこちらに訴える仕草に思わず笑ってしまった。プロデューサーはあの時自分とした約束を、ずっと守ろうとしてくれている。
「ありがとうございます、嬉しいッス!」
言葉にすると、召し上がれ、と嬉しそうに笑う。
「いただきます」
フーっと息を吐き冷ましながら口に含むと、優しい甘みがじんわりと広がる。一口、二口と進めていくと体も少しずつ温まった。
「……美味しいッス」
「本当?」
プロデューサーも自分のものに口をつけると、安心した様に良かった、と小さく呟く。
「甘さもちょうど良くて……もしかして、作るの練習したんスか?」
「失敗しないレシピを信用しきれなくて……」
不安だったんだよ、とプロデューサーは照れている様で少し赤くなっていた。
「どれくらい甘くしてもいいのかって考えた時に、道流の好みとか良く知らないんだなって思ってさ」
なんでも良く食べてるし飲んでるし、しみじみと頷きながら口にされる。その時の自分の姿を思い返されているのだと思うと、少し気恥ずかしい。確かに好みを聞く事は多々あれど、自分から伝える事は少なかった。
「でも」
渡したプレゼントのラッピングに優しく触れながら、プロデューサーは続ける。
「これから道流の色んな事知っていけるって思ったら、嬉しくなったんだ」
だから色々教えて貰えたら嬉しい、とはにかんだ笑顔で伝えてくれる。
それは自分も同じだと道流は思う。
プロデューサーが自分の為に準備してくれていた事。こんなにも優しく沢山笑う事。どれも新しく知る事ばかりだ。
だからそれが自分も嬉しい。
「勿論ッス。それに、師匠の事も沢山教えてください。まずはチョコの感想聞きたいッス!」
「そうだった、俺も食べよ」
ありがとう、と言いながら包み紙を丁寧に剥がしていく。これもまた新しい発見だ。
また来年も同じ様に交換をするのだろうか。それに来月のホワイトデーはどうなるんだろうか。
けれど、それもまた一緒に考えていければ良い。次は何を作ろうかと来年の楽しみを考えながら、彼の優しさに口をつけた。
「これ、いくらでも飲めそうなくらい美味しいッス」
「本当? おかわりするなら次はお酒入れて作ろうか?」
「……酒、飲んじゃうんスか?」
「ん? まぁ体も温まるし、少しなら寝る時に良いかな……って……」
「………」
「……入れないで飲もうか」