少しくらいカメラのフラッシュが瞬き、シルエットが浮かび上がる。照らされ影を落とした大きな手が、女性の腰を支え鋭い視線をこちらに向けていた。女性が含みのある笑みを浮かべ差し伸べた指に口づけるように手を取ると、交わった視線から物語が生まれる。そしてそれに飲み込まれていく。
「…はい、オッケー!チェックするんでお待ち下さーい!」
スタジオに響き渡った声に物語は唐突に終わりを迎えた。お疲れ様でした!と笑う表情に先程の面影はない。女性もまた表情を変え優しく笑い、お互いを労る談笑が始まった。
確認しますか?という声にデータを取り込んだ液晶を覗き込む。
あぁ。本当に。
「かっこよかったなぁ…」
酒を飲みきったグラスを机に置きながらプロデューサーはしみじみと呟いた。
「師匠…嬉しいんスけど、そろそろ恥ずかしいッス」
食べ終えた皿を片付けながら恥ずかしそうに道流が告げると、だって本当に良かったから…と先ほどから何も情報が増えていない言葉が返ってくる。これで何度目だろうか、道流は途中から数えるのを止めた。
プロデューサーはいつもそうだった。誰に対しても、どんな仕事に対しても具体的に相手を褒めてくれる。とてもありがたい反面、今日はなかなかに終わらない。たまにこういう事が起きるのだ。
「こういう仕事にも貫禄が出てきたなって思ったんだよ」
「そうッスか?確かに最初はそれなりに緊張してたんで、そう見せないようにって必死だった所もありましたね」
「そうだった?百戦錬磨みたいな顔してたのは覚えてるけど…」
何スかそれ、と笑うとプロデューサーも釣られて笑う。
実のところこういった仕事の中でプロデューサーに見られる事は多くはなかった。けれどその少ない中で道流はいつも少しだけ緊張してしまう、今日もそうだった。
プロデューサーの目にどの様に映るのか、もしかして少しは嫉妬をしてしまうのだろうか?と頭に過るのだ。
けれど撮影の合間に視線を移しても、いつもプロデューサーは嬉しそうに笑っている。自分が取ってきた仕事が形になる充実感からだと思っていたのだが、どうやら仕事をする自分達がここまでやれるのが純粋に嬉しいという事だった。そんな事を言われてしまっては、自分の考えが幼い様で少し恥ずかしく感じてしまった。
「本当に…かっこよかったなぁ…」
と嬉しそうに笑い、机の上で腕を組みその上に顔を乗せると伏せ目がちになる。余程疲れているのか眠気が襲っているようだ。
酒を飲む前にシャワーは終えている。それならばこのまま布団に誘導しようか、と側を離れて布団の準備に取り掛かる。
「…師匠」
「ん〜?」
呼びかけると眠気に負けそうなのか、目を閉じながら間延びした声が返ってくる。
「師匠は…こういう仕事の時に妬いたりはしないんスか?」
何も気にしてない体を取り繕いながら気になっていた事を道流は問いかけてみる。
「…妬かないよ」
変わらずにゆっくりとした返事だったが、少しの迷いもなかった。やはり自分だけが気にしていた様だ。誤魔化すようにそうッスか、と軽く返すとプロデューサーは伏せたまま口を開く。
「そうじゃないと…ずっと、独り占めしたくなるから、しない…」
道流が振り向くとプロデューサーはそのまま寝息をたて始めていた。こぼされた言葉は、きっと明日の本人は覚えていないだろう。
少しの本音を垣間見てしまった道流は、プロデューサーを慈しむようにそっと抱きしめた。