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    mame

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    mame

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    アニメ四話の蜂のくだりの幕間
    CPなし:ゲ・金・銀・干

    「エピペンの成分はアドレナリン……アドレナリンっつったら牛の副臓か……ククク、牛は普通に欲しいが見つからねえもんは見つからねえ……ー」

     後頭部をワシワシとかき混ぜる細い背中を見ながらゲンはやっちゃったなあと短い眉尻を下げた。そんなゲンの隣では金狼、銀狼がわけもわからず蜂の巣を抱えているわけだが、その姿は蜂にさされ腫れぼったくなっている。ちなみにゲンも同じ姿である。
     つい今し方、三人は蜂の巣をとりにいき、見事に蜂に刺されたのだ。

    「千空ちゃんメンゴね……俺たちいまんとこ体調悪くなってないし、ジーマーで大丈夫よ」

     恐る恐るといった具合に声をかけてみれば、冷たい視線が返ってくる。ぎくりと身体が強張る。千空にこんな視線を向けられると心臓が凍ることをゲンは初めて知った。

    「メンタリストテメー、アナフィラキシーショック舐めんなよ」
    「「「ごめんなさい」」」

     肩をびくりと跳ねさせゲンが言えば、声が重なった。ちらりと横目で隣をみれば、金狼・銀狼も姿勢を正している。ゲンにつられたのか、我が事と把握したのか。
     ちゃんと戦利品はあるというのに、なぜ叱られてるのか、きっとふたりはまだ理解できていない。アナフィラキシーショックなんて知るはずがないのだから。それでも謝ったのはきっと理由なく千空が叱ってくることなどないとわかっているからだろう。
     そんなふたりの姿をみれば千空も冷静さを取り戻してきたらしい。はあーと深いため息をついて、三人の前に歩み寄ってくる。刺された患部を細かくチェックしながら、質問を投げかけてくる。

    「刺されて何分経った」
    「え〜……千空ちゃんと違ってカウントしてるわけじゃないからなあ……多分、15分くらいは経ってると思うけど……」
    「少なくても一時間は様子見だ。むしろ今日はもう動くな。いいな」
    「はい」

     腰をかがめて三人の腕を取りながらしっかり一つ一つの刺し痕を見る千空にぴしゃりと言われ、ゲンの口から反射的に強張った返事が出た。金狼と銀狼の緊張している気配も肌で感じてしまう。

    「テメーら、息苦しさとか寒気とかは」
    「ないよ」
    「大丈夫」
    「問題ない」
    「針は残ってなさそうだな。毒は抜いたか」
    「え、毒なんて抜けるの」

     伸びた背筋をそのままにゲンがぱちりと大きくまばたきをすると、千空が短く笑った。ようやく見た千空のいつもの表情に、数分硬い表情だっただけなのに心の底からホッとしたゲンである。千空の指先が銀狼の刺し痕をグッと挟みあげると銀狼から悲鳴が上がった。

    「こんな感じで出来るが、なにせ数が多いかんな。カセキのじいさんと速攻で即席リムーバー作る。テメーらは今すぐ川行って今みてえに毒出しつつ、刺されたとこくまなく洗え。俺もリムーバー出来次第向かう」
    「えー! 川!? もうめちゃくちゃ冷たくなってるの知ってるでしょ千空!?」

     腰に手を当て、千空が顎をしゃくって川の方向を示す。意を唱えたのはもちろん銀狼だ。冬も近く、川の水温は近頃グッと下がった。顔を洗うために手を入れるのもそろそろ躊躇いそうなくらいに。すぐさま金狼から「理由があるのだろう」と低い声で銀狼が嗜められる。それに千空が肯定を返した。

    「川でさっさと毒洗い流して、毒吸って、患部冷やす。冷たい川で一石二鳥だ。いま氷なんてねえからな。ただ低体温なったらまずいからまずはさっと洗い流すだけでいい」

     三人の手首から順に脈をとりながら千空が言うことに三人はこくりと頷く。ガサついた指先がゲンの手首に当てられる。そのままちらりと金狼の腕の中にある蜂の巣が大量に入った籠を見やり、千空は肩を落とした。

    「蜂の巣は大量だな。よくやった」

     その千空の言葉に、金狼と銀狼の強張りが取れたことにゲンも安心した。流石に誉めてもらわなければ、肩車をしてまで蜂の巣に立ち向かったふたりが報われない。
     ようやく腰を上げた千空が真剣な表情で三人を見据え、口を開く。

    「洗ってる最中に小さいことでも身体に変化あったらすぐに言いに来い。どうにかする」

     金狼から籠を受け取り、踵を返した勢いそのままに千空は「カセキ!」と声を張り上げた。そんな千空の背を見送りながら、三人は示し合わすこともせず、すっと歩き始める。行き先は勿論川だ。
     千空のやり方を真似し、道中でも目に見える範囲の刺し痕を摘み中の汁を無心で出しながら歩く。樹々の間をすり抜けてくる風はずいぶん冷たいものになってきた。冬はもう近い。

    「ゲン、アナフィラキシーショックというのは一体なんだ」

     少し遠慮した雰囲気だった。ゲンはそんな金狼に苦い笑みを浮かべながら、ため息混じりに口を開く。

    「アナフィラキシーショックっていうのは、例えば今回蜂に刺されたじゃない?」
    「すっごく痛かった〜」

     銀狼が半べそをかきながら嘆く隣で金狼がこくりと頷く。ジーマーで痛かったねとゲンも頷いてからゲンは羽織の袖の中で手を合わせ、えーとと考えを巡らせた。

    「確か……蜂に刺されたら、体が蜂の毒に反応して毒に対抗するものを作り出すらしいのよ。でもそれが過剰に反応しすぎると、今度は体自体に悪い影響がでるの」
    「今みたいに腫れるってこと?」
    「それだけで済むならいいんだけど、例えば息ができなくなるとか」
    「それは死ぬんじゃないか」
    「うん、最悪そう」
    「ひえ!! 僕たち死んじゃうの!?」

     銀狼が青褪めて飛び上がった。金狼の動きが途端にぎこちなくなるので、ゲンの申し訳なさに拍車がかかる。

    「現時点でバイヤーな症状出てなさそうだから千空ちゃん俺たちから離れたんじゃないかな。多分大丈夫だと思う」
    「ほんとに?」
    「……多分だけど」
    「ゲン〜〜!!」

     ゲンにしがみついてくる銀狼に情けなく笑うと、金狼がその銀狼をべりっと引き剥がしてくれた。肩を一度すくめてから、ゲンは前を見る。茂った樹々の先にあるのはもう何度も行ったことのある川だ。

    「千空ちゃんが俺も行けって言ったの、間違いなく蜂とる時に防護服代わりになるの用意しろっていう意図含んでたんだろうね〜。俺、蜂のいそうな場所を探せってことかと読み間違えちゃった。ミツバチって毒性低いから刺されても大丈夫って前に聞いたことあったし……アナフィラキシーショックのこと頭から抜けてたなあ。ふたりともジーマーでゴメンね」

     川のせせらぎが耳に届いて、冷たいんだろうなあと水温を想像し、ゲンは僅かに頬を引き攣らせる。
     ゲンの謝罪に銀狼がぽかんと口を開けたかと思えば「別にゲンのせいじゃないよ!」と慌てて慰めてくれるので、ゲンは口元に微笑みを浮かべた。いい子だなあと思う。時々ゲスいのが出てくるけれど、銀狼は自身の感情に素直なだけだ。
     一方、静かにゲンの言葉を聞いていた金狼だったが、川にたどり着いたところでようやく口を開いた。

    「貴様らは……旧知の仲というわけではないのだろう?」

     出ていた肌の部分をしっかり刺されまくっているので、まずは足からとつま先を水面に触れさせ、ゲンは声の主を見やる。金狼が眼鏡の奥から酷く真剣な眼差しでゲンを見ていた。

    「だというのに互いの考えを察知できすぎるのだ。今回のことはゲン、貴様の慢心なのかもしれないが、俺たちの無知も罪だった。しかし、千空自身もゲンならわかるという慢心があったのではないか。だから、ゲンを責めなかったのだろう」

     すっと目元を和らげ、金狼もゲンの隣からざばりと音を立て川に足をつける。

    「司帝国との戦いが始まる前にわかってよかったじゃないか」

     そう言いきってから金狼もざぶざぶと刺し痕を川の水で洗い始めた。なぜか銀狼が金狼の隣で誇らしげな表情をしていて、ゲンは小さく笑った。
     いい兄弟だなと思う。氷月に金狼が刺された時、あそこで銀狼が橋を落とす子じゃなくてよかったとゲンはつくづく思うわけで。
     目を伏せ腕を水で洗いながら金狼が唇に弧を描いた。

    「俺たちも貴様らが判断ミスすることがあると学べてよかった」
    「ハハ、ジーマーで反省しまーす」

     ゲンが苦笑すると、後ろから足音が聞こえてきた。ぱたぱたと駆け足で近付いてくるみっつの足音は間違いなく千空とカセキとクロムだ。クラフトチームの時間を奪ってしまったことに肩身の狭い思いをしながらゲンは金狼の言葉を脳内で反芻する。
     そうだね、慢心だった。でも千空はきっと謝ってこない。だから俺もこれ以上謝らないでおこう。
     ゲンはそう心に決めて、一度気合を入れ直した。ゲンがリタイアする地点はここじゃない。そもそもリタイアなんてするつもりないけれど、それでも。
     先ほど蜂の巣を持ち帰った三人をみて顔を一気に強ばらせた千空の顔を思い出す。なにやってんだと呆れられるか笑われるかかなと呑気に考えていたゲンは頭を鈍器で殴られたような心地だった。

    「体調問題ねえか」

     三人の元にたどり着き、開口一番尋ねてくる千空に「大丈夫よ」といつもの軽薄な笑いを浮かべ、ゲンは振り返った。
     ほっとした表情を見せる年下の科学少年の気を揉ませるのはゲンの本意でない。とりあえず今後、蜂の巣採取のとき俺たち三人はリスク回避のため辞退しなきゃなと考え、内心で首を横に振った。申し出るまでもなく千空がメンバーから外すのだろうなと思ったので。

     その後村人全員を集めた千空によるアレルギー講座が開かれた。アナフィラキシーショックに恐れ慄いた村人全員から大丈夫なのかと蜂の巣採取組が質問攻めになるのを意地の悪い笑みで見てくる千空に気付き、やっぱりもう一度謝るべきかなとゲンは考えを改めたのだった。
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