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    mame

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    mame

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    ご飯の話をする付き合ってない無自覚の千ゲン(携帯作り軸)④
    続き物です。おわり。
    1:https://poipiku.com/1356905/
    2:https://poipiku.com/1356905/3810517.html
    3:https://poipiku.com/1356905/4001578.html

    「千空、鍋つゆ? 沸騰してるぞい」
    「んなら材料入れてくぞ。キノコ先に入れろ。うまみが増す」
    「あー……ラーメンの時いってたよな、うまみ成分がなんとか……グルタミン……?」
    「よく覚えてんじゃねえかクロム、正解だ。うまみ成分だな。ちなみにキノコに入ってんのはグアニル酸。昆布はグアニル酸。このふたつはめちゃくちゃ相性がよくて合わせっとうまみ爆上がりだ、覚えとけ」
    「はーい、千空先生。鰹節にも入ってなかったっけ」
    「さては相当食うの好きだな、メンタリストテメー。正解だ、イノシン酸な。グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸で三大うまみ成分だ。鍋つゆ沸いたら野菜いれて、もう一回沸騰したら肉な」
    「つみれは?」
    「魚だしな……火はすぐ通るし肉の後でいいんじゃねえか。旨み出してえなら先でもいいが、若干固くなんぞ」
    「先!」
    「あ゙ー、好きにしろ。卵豆腐はあたためる程度な。こっちは固くなんの嫌だろ」
     ゲンは大きく、真剣な表情でこくこくと頷く。
    村人たちに全て配り終わってから、改めて科学チームとゲン、そしてスイカで鍋を食べようとあらためて鍋を作り始めた。お手軽鍋セットではなく火にかけながら具材を投入していく作り方で。ラボの外に構えた卵豆腐作りの火をそのまま囲んでいる次第だ。ラボの中で設計図を引きながら千空が片手間に入れる順番を教えてくれるので、それに倣いながらゲンとクロムで作っている。カセキは火の調節、スイカには応援をしてもらっている。ちなみにコハクはルリと食べると言って橋を渡っていった。金狼と銀狼がコハクの持った鍋を見てごくりと生唾を飲んでいるのが見えた。わかる、ジーマーで早く食べたいよね。あとで取り分けて持って行ってあげるからね、とゲンは涙をのんだ。
     鍋に蓋をして、くつくつと音がたってきたところで千空が蓋をぱかりと開けた。白い湯気がもわりと秋の空に浮かび上がる。夕方前から始めた鍋作り。もうすっかり日が暮れ、鍋をぐつぐつと煮る火の灯りで周りを照らしている。千空がラボから出てきた。手にはなにやら小皿がある。鍋の前に立った千空はその小皿から細かい何かをつまみ上げた。ゲンははっと息を呑む。だって知っている匂いがしたのだ。好きだった匂いだ。随分かいでいなかったけれど。
    「刻みショウガを最後に散らして……」
    「ショ、ショウガ…………!」
    「なんだ、好きだったか。まあ、暫定ショウガだけどな。品種なんてわかったもんじゃねえかた辛味はまちまちだな」
    「バイヤ~、薬味なんてジーマーで贅沢じゃない」
     千空の手からぱらぱらと鍋に落とされた薬味がまるでゲンには魔法に見えた。だって生姜を鍋に散らすなんて、このストーンワールドでおしゃれすぎる。ごくりと唾液を飲み込んだ。
    ショウガを食べる文化がないらしい石神村の三人は物珍しそうに千空が散らすショウガを見ていた。果たしてスイカは薬味は大丈夫だろうか。苦手だったときのためにスイカには皿をわけて食べさせてあげようと、大きな被り物の下できっと目をキラキラさせている女の子を見ながらゲンは小さく笑う。
    星が五人の頭上でちかりと瞬いた。秋の夜空の下、千空の声が高らかに響く。
    「もみじ鍋の完成だ!」
     バランスよく彩られた鍋。色が変わる前の赤い肉はまるで秋の紅葉のようで、鹿肉がもみじと言われる所以に納得したゲンである。
     千空が、食うぞ! と声をかけると同時、大きな土鍋に一斉に箸が伸びた。小皿にとりわけ、まず白菜みたいな葉物野菜からゲンはぱくりと頬張る。ひたひたにしみた昆布が効いた出汁がじゅわりとゲンの口の中で広がった。一緒に涙腺までじわりと熱くなった。
    「これ……これだよ……お鍋……」
    「おい、語彙力どうしたメンタリスト」
    「おいしいし、なんだか身体があったたまるんだよ~」
    「おほー! 卵豆腐だっけ? とろとろじゃないの」
    「肉も薄いのに食べ応えあんな!」
    「で、鍋が食べたかったメンタリスト様としては合格点か?」
    「ひーはーへはいほう」
    「飲み込んでからでいいわ」
    「ジーマーで最高」
     ごくりと飲むようにして卵豆腐を胃に落とし込み、間髪入れず千空に告げれば千空がくしゃりと笑った。なぜかまた涙腺が熱くなったので、ゲンは誤魔化すようにして慌てて肉に箸を伸ばした。
     次々と箸が伸び、みるみる鍋の中身が減っていくので、はっとしたゲンは先ほどの決意を実行するべく二つのお椀に具材をよそい、金狼・銀狼に届けた。感動で泣き出し、しがみ付いてくる銀狼を金狼が剥がしてくれたのだが「こぼれてしまうだろう!」という窘め方だったので、ゲンの心配ではなく鍋の心配だったらしい。
     駆け足で食事の場に戻れば、千空がゲンの空になった鍋に具を取り分けてくれているところだった。ぱちぱちと火が音を立てるその前で、オレンジ色に照らされお椀を持つ千空の姿に、ゲンは何か言いたくて、でもなにも言うことができなかった。ゲンは鍋をつつく四人の姿を少し離れたところで眺めた。
    きっと温かく、おいしいものを食べてきっと色々緩んでしまっているのだ。この穏やかな時間がずっと続けばいいのに、と願ってしまう程度には。司帝国との戦争は絶対にしなくてはならない。この穏やかな時間を守るために―そして、司帝国の人間も守るために。
    司帝国を知っているゲンはわかるのだ。あのままじゃ、司帝国は維持が難しい。司のワンマン、そして力での支配。厳選された若者のみを復活させていっても人数は増えるし、皆昔の世界を知っている者たちだ。必ずどこかで歪みが生じる。だから、石造破壊を止めるのはもちろんだけれど、司帝国もこのままでいいはずないのだ。
    やさしいオレンジ色の火の灯りと、ラボから漏れる電気の光。その二つの灯りを大事にする千空の在り方が、この戦争のキーになる。
    ふう、とゲンは息を短く吐き、気合を入れなおした。残りの距離を裸足で駆け出した。気温が下がり、足の裏は冷え切っている。それでも体の芯は温かい。鍋のおかげなのか、それとも千空のおかげなのか―どっちもだね。
    「ちょっと! 俺の分残ってる」
    「叫ぶな、ちゃんと取り分けてるわ」
    「さっすが千空ちゃん!」
    内心でひとりで笑い、ゲンは鍋を囲む輪の中に飛び込んだ。


       *  *  *


    あっと言う間に空っぽになった鍋。鍋つゆのみになった土鍋を見つめながら、ゲンは腰をゆっくりと上げた。
    「鍋つゆ、もったいねえな~。明日これに魚入れてもうまいんじゃねえか?」
    満腹になったスイカが眠ってしまったので、クロムがそのスイカを抱えたところで言ったそんな発言がゲンの耳にこびりついている。カセキもクロムと一緒に橋を渡っていったのでここにはゲンと千空ふたりのみだ。
    「……千空ちゃん」
    「……いうなよ」
    「……ダメ?」
    「ダメだろ、食いたくなる」
    「ほぼ千空ちゃんが言ってるようなもんじゃん!」
     直箸で唾液入ってるから明日の朝は諦めろ、とクロムの意見を却下した千空だったが、クロムの発言で思い至ったのはゲンと同じだったらしい。なにせお鍋は鍋つゆも最後まで楽しめるのだ。
    「お米、欲しいね……雑炊で締めたい……」
    「あと小麦粉な……うどんとかよ……」
    「うわ、うどん食べたい。ラーメンに使ってた猫じゃらし粉は無理なの?」
    「あれ結構えぐみあんだろ。鍋みたいなシンプルな味には向かねえんじゃねえか。小麦栽培でもできりゃ大勝利なんだが」
    「いつになることやら」
     火を消し、すっかり冷えた鍋を両手で持つ。調理器具は作りながら片付けたけれど、お椀と土鍋とお箸は今から片付けだ。川の水も随分冷たくなったので洗うのが億劫だなあと思いながら、ゲンは肩をすくめた。千空もお椀と箸を集め、歩き出したゲンの横に並んだ。
    「小麦、お米、大豆がありゃ食生活の豊かさが各段に上がる」
    「前ふたつは思ってたけどさ~、大豆も? あ、醤油とか」
     暗い夜道を千空が作った簡易懐中電灯で照らしながら川へ向かう。遠くで梟の鳴き声が聞こえ、夜が更けてきたことを知らせてくれた。
    「芋麹があるからな。作れねえことはねえ。あと味噌もか。基本的に俺たちが知ってんのは米麹やら麦麹でつくってるもんだから違うが、それらしいもんは出来るだろ」
    「あ~~~やっぱ米と小麦いるね~~~」
    「大豆つったら、もやし、納豆、きなこ、豆乳もだな。そんで豆腐」
    「湯葉は」
    「豆腐つくるときに勝手にできるわ」
    「俺湯葉好きだったんだよね、ジーマーで~……大豆見つけたいな~……」
     千空の列挙したラインナップにお腹いっぱいになったはずの腹の虫が鳴りそうだった。背中を丸めながら項垂れると千空がくつくつと隣で笑う。その千空の姿にゲンは頬を緩めた。冷たい夜風が緩んだ頬をかすめていく。
    「今日はジーマーでありがとね、千空ちゃん」
    「別に、こちとら晩飯作っただけだわ」
    「またまた~」
     たどり着いた川はラボの前より随分冷えた。月灯りが寒々と川を照らすので余計に寒く見える。本格的な冬が始まる気配がした。土鍋の中身を繁みに零してゲンは川岸に正座をし、気合を入れて腕まくりをする。千空もゲンの隣に腰を下ろし、ざぶざぶと川で洗い物を始めた。川と体の距離が近づけば、たちまち温まっていた体が冷えてくる。正座して触れ合う足の親指同士をすり合わせて、ゲンは土鍋ざぶざぶと洗いながらため息を吐いた。
    「そろそろ靴はこうかな~」
    「やーっと言いやがったか」
     呆れた声が隣で落とされて、ゲンはそちらを見やる。すると目を丸くしたゲンを鼻で笑う月明りの優しい青で照らされる千空がいた。
    「え?」
    「洗い終わったな? 行くぞ」
    「どこに?」
     洗い物と手についた川の水を雑に切り、千空はさっさと腰を上げ来た道を戻り始めた。慌ててゲンが土鍋を持ってその背中を追いかけると、千空は道を抜け科学王国の拠点であるラボに入って行った。洗い物をガラス板の作業台にコツコツ音を立てながら置いた千空に続いてゲンも土鍋をそっと置いた。千空がゲンに背中を向けたまま、壺を並べている棚の奥からなにか取り出し、そして、洗い物と同じように作業台の上に置いた。置かれたそれを、ゲンは凝視する。だってそれは。
    「え、え、え」
    「多分サイズあってると思うが、ちょっと履いてみろ」
     腰に手を当て顎をしゃくった千空にゲンは言葉がでない。作業台に置かれたそれは、千空の靴と同じデザインの靴だった。つまり、千空が作ってくれたもので。そして棚の奥から取り出されたということは。
    「……俺が履くって言うまで待ってたの」
    「宗教上の理由とかあるかもしんねえだろ」
     靴を見ながら棒立ちになっているゲンに千空はぶすっと言い放った。だっつーのに精神論を朝から語ってくださるからよ……と千空が言葉を続ける。そんな千空の前にある靴へ、ゲンはそっと手をのばした。
     革で出来た、靴。二種類のパーツを縫い合わせたその靴は底が歩きやすいように底が厚くなっている。中を除けば毛皮が敷かれていた。冬使用だ。きっと千空の靴の中にも最近敷かれたのだろう。
     床に置いて足の裏についていた土を払い、ゆっくり爪先から靴の中へむき出しの足を収めていく。ふわりとした中敷きがゲンの冷えた足を包んだ。
    「サイズぴったり……バイヤ~……」
     ゲンの視界の端にある千空の表情が満足げなものに変わった。ああ、本当に君は―。
    温かさにまた緩みそうになる涙腺を叱咤し、ゲンは靴を履くために下がっていた顔をパッと勢いよく上げた。少し身体をひいて驚く素振りを見せた千空にニッと口角をあげ笑って見せる。
    「おいしい鍋で温まったし、足もふわふわの靴であったかいし、なんか今日はゴイスーいい日だな~~! 千空ちゃん、ありがとねジーマーで!」
    「最初から履いとけよ。つか、なんで裸足なんだメンタリスト」
     眉間に皺を寄せながら首を傾げる千空にゲンは笑い声で返事をした。
    さあ、このあともきっとドイヒー作業が待っているのだ。作業のお供は卵ハンターゲンの武勇伝といこうか。

    おわり
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