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    mame

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    mame

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    出ロデ(プロヒ×パイロット)
    自我強め善良モブ視点
    このモブ視点と同じ世界線です(https://twitter.com/mamemane_open2/status/1435895803646644225?s=20

     大通りから道を三本挟んで、さらに二つ目の角を曲がる。そんな、少し――というか結構、人通りが落ち着いた路地に俺の両親が営むコーヒー焙煎所はある。
     両親の趣味であるブルックリンスタイルの落ち着いた色合いの店内には、これまた両親の趣味であるブラックミュージックが音量を押さえて流れている。基本的に五種類のコーヒー豆を常に販売している店で、店内に飲食スペースはないが、テイクアウト用のコーヒー販売はしている。これが結構好評だ。混雑することはないが、まったく人が来ないという日もない。大繁盛と言うわけではないが、店の経営を難なく維持できる程度には利益が上がっている。そんな店である。
     俺は大学四年生で、無事就職も決まり、卒業単位も無事とれる見込みがあって、あとは卒論の準備に本腰を入れるだけなのだが、友達とお祝いだと称して夏休みに連日飲み歩いたせいで激しい金欠に陥っていた。夏休みが終わったところで、居酒屋のアルバイトだけではおそらく来月あるサークルのハロウィンパーティーの金が足りないことに気付いて絶望した。どれだけシフトを詰め込んでも、給料日的にハロウィンに間に合わない。そういうわけで母親に相談したところ、じゃあ給料を現金で払うから連休中、店番してと言われ、現在、俺は店のカウンター内に立っているわけだ。
     当の両親はと言うと、昨日一週間分のコーヒー豆を焙煎してから、ふたりしてウキウキでアメリカに旅行へ行ってしまった。趣味を存分に堪能してくるらしい。仲が良くてなによりだが、体よく店番を押し付けられたのではないかという疑問が今になってわいてきた俺だ。
     昔からコーヒーの知識は両親に叩き込まれているし、店の手伝いもしょっちゅうしているので、店番自体に問題はない。給料も貰えるなら頑張らないわけにはいかない。白いTシャツとスキニーデニムを履き、店に出る時の黒いエプロンをつけ、朝から店内の掃除をし、五種類のアイスコーヒーを仕込み、冷凍していたクッキーの生地を焼いて袋に詰め、俺は表の看板をオープンにした。無駄にあるたくさんある観葉植物に水をやったら、もうあとは客が来ない限り基本的にやることがなくなる。
     オープンして一時間、カウンターの中でぼーっと、そしてこっそりスマートフォンをいじっているときだった。カランカランとベルを鳴らしながら木目の大きなドアが開かれた。
    「いらっしゃいませ」
     慌ててスマートフォンをポケットに突っ込んで、笑顔を向ける。サングラスをかけた客はロングの髪をゆるく首の後ろでまとめ、サイドをヘアバンドで押さえている。身長も高いし、ロング丈のカーキ色のシャツがよく似合っていた。客は店員の俺に視線をやってからサングラスの柄を指で掴み、そのまま額の上に持ち上げ、「Hi」と笑みを浮かべた。俺も笑みを返すが、同時に冷や汗をかく。
    (やべえ、外国人だ)
     グレーの瞳に慄いた。なにせ俺の英語スキルは在学中の大学の入試でギリギリのラインだった。苦手も苦手で、在学中英語関係の講義は一切とっていない。店番は慣れていると言えど、外国人の接客は初めてだった。
     カウンターの前に立った天然物だろう茶髪の髪の毛を持つその客は顎に手を当てながら、キャニスターに収められ陳列しているコーヒー豆を見ている。下唇をつんと尖らせているのは考えているからなのだろうか。質問されたらどうしようと思いつつ、俺は引き攣った笑みを浮かべ、客の行動を見守る。
     客がぱっと顔をあげ、俺の顔を見た。俺の引き攣った笑みに気付いたのか、客がふっと小さく笑う。
    「コーヒー豆を買いたいんだけど……漢字がまだいまいち読めなくてさ。聞いてもいいかい」
    「あっ! はい! 俺でよければ!」
     日本語だー!! 心の中でガッツポーズを決めた俺である。安心感から思っていたよりも大きな声がでて、客は俺の声に目を丸くしていたが「助かるよ」と息を漏らすように笑った。
    「コールドブリュー……じゃなかった、ええと、アイスコーヒーを作りたいんだ」
    「なるほど。ブラックで飲みますか? それともミルクや砂糖を?」
    「基本的にブラック。たまに牛乳を少し入れるくらい、かな」
    「なるほど。じゃあ牛乳に負けない味がしっかりしてる豆がいいですね」
     カウンターの外に回って客の隣に並び、いっしょにコーヒー豆をみやる。身長はあまり俺と変わらないのに、腰の位置が明らかに高い。ちくしょういいな、と内心でうらやんでいるとわずかに隣からスパイシーな香りがして、香水のコーディネイトまでセンスあんのかよと思いを馳せる。しかし店員と客という関係だ。真剣に質問を投げかけた。
    「味の好みはありますか?」
    「アジ……」
     眉間に皺を寄せる客に言葉が足りなかったかと慌てて俺は言葉を付け足す。
    「えーと、酸っぱいのがいいとか、苦いのがいいとか。コクがあるのがいいとかあっさりしてるのがいいとか」
    「ああ、なるほど。酸っぱいのはあんまり好きじゃない。苦い方が口の中がすっきりするっつーか」
    「わかります、質の悪い酸味って口の中に結構残りますもんね」
    「そうなんだよ。それが苦手でさ」
     肩をひょいと竦めて薄く笑みを浮かべたその客は随分フランクだ。その反応に自然と笑みを浮かべながら俺は、じゃあこれかな、とひとつのキャニスターを指さした。客がすっと俺のさした指の先に視線を投げる。
    「これはウチのオリジナルブレンドなんですけど、深煎りのしっかりした味わいで酸味はあんまりないです。甘味も仄かにあるんで、アイスにしてもコクがなくならないしオススメかな」
    「へえ、じゃあこれお願いするよ」
    「かしこまりました。豆のままでいいんですよね」
    「うん、ミルあるから大丈夫だ」
    「何グラムご用意しますか?」
    「一五〇かな」
    「はい、では少々お待ちください」
    「はーい」
     シャツのポケットに両手をぴんと突っ込んだ客が愛想よく返事した。いい客だなあと思う。なにせ日本語を話してくれる。有難い。カウンターの中で測りを使いながら豆を袋に詰めこんでいると、そうだと思う。事前に作っていたアイスコーヒーの試飲をしてもらえばよかったと。母親は試飲はいくらでもしてもらっていいといつも言っているので、なんら問題はなかったのに気づくのが遅くなった。ちらりと客を見れば、スマートフォンをいじっている。先ほど客が言っていたことを思い出しながら、俺は冷蔵庫を開いた。五本ある中の内の一本を手に取り、試飲用の小さな紙コップにそおっと注ぐ。そしてカウンター越しに茶髪の客に声をかけた。
    「あの」
    「ん?」
     顔を上げた客は両眉をひょいと上げ、返事をしてくれる。表情がわかりやすいのはいいなあ、と有難がたがりつつ「これ待っている間によかったら」と紙コップを持つ手を伸ばした。大きな目を一度ぱちりと瞬かせた客は、紙コップから視線を移し俺を見る。
    「注文してないけど」
    「試飲にどうぞ。酸味が苦手って言ってましたけど、同じ酸味でもこれフルーティーな味わいなので、アイスでもお客さんもいけるかもしれないです。お口に合わなければすぐ戻して貰って構いませんので」
    「え、いいのか」
    「はい。俺もちょっと前まで酸味があるの苦手だったんですよ。でもこれ飲んだら大丈夫な酸味とそうでない酸味があることに気付いて……」
    「へえ、じゃあ有難く」
     自分語りするのも押し付けがましいかなと思いつつ、俺がそういえば客は唇の片端をあげ口元に弧を描き、俺から紙コップを受け取った。ちょうどその時、再びドアが開いた。おなじみのベルが鳴る。
    「いらっしゃいま、」
    「お、きたきた」
    「ロディ、どこ行ったかと思った……!」
    「え?」
     急に店内に英語が飛び交い、俺は仰天する。何を言っているかはわからないがいま着た客と試飲の紙コップを受け取ったばかりの客が知り合いなことは理解できたわけで。焦った様子からほっと胸を撫でおろした入って来たばかりの――こちらは日本人らしい客が、こちらを向いて「待ち合わせ場所にしてすみません」とぺこりと頭を下げ、俺を正面から見た。その顔には随分見覚えがあって、俺は息を呑む。ふわふわの髪の毛に童顔のそばかす面。笑顔がかわいらしいその表情。同時に頭に母親の声が響き渡った。
    『どんなお客さんが来ても、態度は一貫するのよ』
     俺はその母親の声に内心で叫び返した――母さん! それは相手が人気ヒーローのデクでも適用しますか! 別にファンではないけどめちゃくちゃテンション上がっちまってるよ、接客できるかな俺!?
     本当なら興奮に任せてポケットにあるスマートフォンをすぐに取り出し写真を撮ってSNSに上げたいところだが、母親の声が頭の中で何度も反響している。ぐっと理性で押しとどめ、俺はなんとか「いえいえ、大丈夫ですよ」と返した。間違いなく顔はこわばっていたが。
     とにかく愛想の良いスタイルおばけのこの客と、デクは連れ合いらしい。じゃあひとりだけに試飲カップを渡してるのもな、と俺は同じように試飲カップに同じアイスコーヒーを注いだ。背後では俺には認識できない英語の会話が繰り広げられている。ギリギリ理解できる範囲で聞き取れたのは、どうやら一緒に歩いていたのに外国人の方がいなくなっていてデクが焦った、という具合だったらしい。じゃあさっきスマホをいじってたのは店の位置を教えていたのかなとぼんやり思う。
    「あの、よかったら」
     会話を中断させるのもな、と思いつつ、そっとデクに声をかけて紙コップを差し出せば、デクが目を丸くする。さっきの外国人の反応とよく似ていた。
    「え、いいんですか?」
    「はい、もちろんです!」
     あまりにも勢いのある返事になってしまい、しまったと思えば、デクの隣に立つ茶髪の客がくすくすと笑いながら日本語で間を取り持ってくれる。
    「試飲だってよ。酸味有るけどおいしいはずだからって」
    「へえ~! ありがとうございます、いただきますね」
    「はい……」
     あ、ありがと~! とそちらに目配せをすると、にっと歯を見せ笑顔を返された。うわ、この人絶対モテる。そんなことを思いつつ、豆を袋に入れる作業を再開させる。
     ちらりとふたりの様子を窺えば、日本語で話してくれていて、俺に気を遣ってくれているんだろうなと想像できた。知らない言語で話されるのは何を話しているのか不安である、きっと外国人で、日本語をしっかり話す彼だからこそそこへ気を遣ってくれているのだろう。
    「おいしいね、これ。確かに酸味あるけど、キツくない」
    「ああ。これなら全然飲める」
    「もう豆かったの?」
    「ああ、一五〇グラム。それくらいでいいだろ」
    「そうだね。買ったのはこの豆?」
    「いや、買ったのはこの店のブレンド。色々話してこれがいいだろってオススメしてもらってさ」
    「へえ、そっちも楽しみだね」
    「ん」
     随分気心の知れた会話だな、と思いつつヒートシーラーで袋の口を閉じる。どういう関係なんだろう。柔らかく笑うデクは、テレビの中で頼もしく笑うデクとは違って見える。その笑みを引き出しているのがこの茶髪の客なのだろう。
     店のショッパーに口を閉じたコーヒー豆を入れて、俺は、うーんと考えた。そして今用意した別の豆のキャニスターを開けた。中に入っているのは今ふたりが持っているアイスコーヒーに使われた豆だ。小さい袋に五〇グラムほど入れ、こちらもヒートシーラーを使って口を閉じた。それも袋の中にいれて俺は満足する。きっと母親もこうするはずだと思った。
    「お待たせしました。九百四十円になります」
    「はーい」
    「あ、僕払うよ」
    「ん、じゃあ頼んだ」
     ショッパーをカウンター越しに茶髪の客に渡しながら会計金額を伝えると当たり前みたいにデクが財布を取り出し、当たり前みたいに茶髪の客がそれを受け入れた。ふたりの空の紙コップを受け取りながら、エッ、そんなことあるか!? と思うが、必死で平静を装う。しかし内心は大荒れだ。もしかして、と考える。
     この豆、デクが払うってことはデクが飲むのか……? じゃあなんでスタイルおばけのこの客が選んでんだ……?
     たどり着きかけてる答えをとりあえず必死に頭の隅に追いやって、俺はオールマイトコラボの財布から取り出された紙幣を受け取った。本当にオールマイトが好きなんだな、と思いつつ、少々お待ちくださいと伝え釣銭をレジを開いて用意する。
    「あれ、なあ。なんか多いけど」
     掌に釣銭を用意し、俺が顔を上げたとき、ショッパーを覗いたらしい茶髪の客がそう俺に問いかけた。きょとんとした表情に、小さく笑って俺は答える。
    「今飲んでもらったアイスコーヒー、気に入ってもらったみたいなんで。家でも淹れてみてください」
    「えっ! いいのか」
    「はい。よかったらまた来てください」
     ぱあっと表情を明るくした客に、思わず俺も頬が緩む。釣銭を受け取るデクもにこにことしていて、店内がなんだか穏やかな空気に包まれていた。しかし、その空気は一瞬にして霧散することになる。
    「Thanks! また来る!」
     ぱちん、とその客が俺に向けたウィンクに俺は固まった。そして釣銭を財布に入れていたデクはというと「ロ、ロディ!!」と血相を変えて突然慌てだす。固まりながらやっと外国人の名前を把握した俺である。
    「ま、前も言っただろ! それ! ウィンク! それ日本人に馴染みないから! 駄目だって!」
    「ええ……日本人がお礼言うときに会釈するみてえなもんだって。反射的に出てくるんだからしょうがねえだろ」
    「でも刺激が強いんだよ~~~! 僕の身にもなって!?」
    「いやいまデクにしたんじゃねえし」
    「そうだけど! 見て! 店員さん! びっくりしてるでしょ!」
    「ええ~? そうかあ~?」
    「あともう一回いうけど! それを見ている僕の身にもなって!?」
    「ん~?」
     わっと騒いで、ロディと呼ばれたその男の肩を掴みぐらぐら揺らすデクを俺は呆然と見つめた。そしてそれを飄々と受け流すもう一人の客のことも。
     そりゃウィンクの文化は日本にはない。だから俺も驚いた。でも、ああ外国人だしな、とすぐ納得できるわけだ。先ほど彼が日本で言うアイスコーヒーを、外国で主流の呼び方であるコールドブリューと最初言ったように。文化が違えば言動は変わる。それくらいは英語が苦手な俺だってわかる。
     もはや俺が驚いているのはデクの反応だ。なんだか涙目にも見えるデクの瞳。えーと、デク。え、俺この光景みても大丈夫なやつかな。
     どうすればいいかわからないままそのふたりのやり取りを見つめていると、茶髪のきれいな髪からピンク色の小鳥が飛び出した。え、と驚いているとその鳥は俺の肩にとまり、表情豊かに笑って俺を見上げた。ずっと隠れていたのか、といまだデクに捲し立てられ続けている客を見やれば、なんだか楽しそうに笑っている。ピンクの鳥が器用に羽を動かし、嘴の前に立てた。まるで秘密だよと言っているかのようなそのポーズに目を見開く。もう一度、まだ騒いでいるデクともう一人の客を見やれば、鳥と同じような表情で、しかしそちらは申し訳なさそうな笑みで俺を見ていて、俺はこの光景を俺の心の中にとどめておくことを心に決めたのだった。
     また、この客とコーヒーの話が出来たらいいなと思ったので。あと、できれば、香水についてもアドバイスを貰いたい。俺にも実はデートしたい女の子がいるので。
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