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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    秋到来、の巻

    「なんかさ……そこの道、めちゃくちゃ臭ってたんだけど、ゴミ収集車が事故でも起こしたのか?」
     猛暑続きだった夏の暑さが少しマシになってきたのではというタイミングで、南シナ海で台風が発生し日本列島を横断した。どうやらその台風は、わずかに残る夏の気配も一緒に連れて姿を消したらしく、ここ数日で一気に気温が下がり過ごしやすくなっている。秋の訪れである。
     そんな中、オセオン-日本便の副機長として日本を訪れたロディは、顰めっ面で出久のセカンドハウスを訪れた。そのときの出久といえば、ロディが来ることを前もって知らされていたためロディが好きな日本の惣菜を最寄りのスーパーでいくつか見繕い、夕食としてテーブルに用意しているところだった。そうして合鍵を使って入ってきたロディにいらっしゃいと声をかける前にその表情に驚き「どうかした?」と尋ねたのだ。そこに返ってきた言葉が冒頭のものになる。
     ざっくりと編まれたロングカーディガンをリビングの入り口で脱ぎながら、眉間に皺を寄せ鼻をむずむずと動かすロディに、出久も首を傾げた。
    「ううん、そんな事故なかったと思うけど……」
    「でもとんでもねえ臭いしたんだって。えづきそうになった……」
    「そんなに? 大丈夫?」
    「鼻の中に匂いが残ってる気がする……あ、飯の用意してくれてたのか。俺もちょっとデリ買ってきた。出しといてもらえるか」
    「あ、これ空港の美味しいとこのだね。ありがとう、ロディ」
    「ん、デクもありがとな。とりあえず手洗ってくっから」
     リビングから再び出て洗面台に向かうロディの背を眺めて、出久は受け取ったビニール袋の中へ視線を移す。缶ビールが二本と、惣菜のパックがみっつほど。その縦に重ねられたパックの一番上には、出久が前回食べた時に気に入っていた惣菜が鎮座していて、ふにゃりと口元が緩んでしまう。
     これ美味しいね。これ僕好きだな。そんな何気ない出久の一言を覚えて、また買ってきてくれる、ロディのそういう優しさがじわりと胸にぬくもりを落とす。
     テーブルを見れば出久だってロディが好きだと言った惣菜ばかりを用意しているわけで、なんだかくすぐったくなった。僕ら似たもの同士だね、なんて言ったらロディは何言ってんだと呆れそうだけど、とひとりで出久はくすりと笑みをこぼした。
     ロディが買ってきてくれた惣菜をテーブルへ出し、缶ビールもそれぞれの定位置に置いて、せっかくだからグラスを出そうと体勢を戻した時、ふと視界に入った惣菜に出久は「あ」と声を漏らした。さきほどのロディの顰めっ面が脳裏をよぎる。これだ。
    「ロディ!」
     思わず手を洗って廊下を歩いてくるロディの名前を呼べば、ロディが「ん〜?」と間延びした返事をしてくる。すっかりリラックスモードに入ってしまっているらしく、肩の上にいるピノの目がゆるゆるだ。すっかり出久の部屋に馴染んでくれているふたりを嬉しく思いつつ、それでも今は伝えたいことがあった。
    「これだよ、外の匂いの正体!」
    「え、どれだ」
    「これ!」
     手に持った惣菜をロディの正面に立ち出久が両手で差し出せば、ロディの片眉が綺麗に跳ね上がった。
    「……からかってんのか?」
    「からかってないよ、真剣も真剣!」
     真相に先に辿りついた出久はご機嫌だが、いまいち伝わっていないロディは眉間の皺を深くするばかりだ。ピノも疑わしげな目を出久に向けている。
    「いやこれチャワンムシだろ? ダシ使って作るやつ。良い匂いじゃねえか、外はこんな匂いじゃ……」
    「そう、卵の部分は出汁。よく覚えてたね。匂いの正体はこれ! この丸いやつ!」
    「……これ?」
     眉間に皺をぎゅっと作り、怪訝な表情を隠さないままロディが指差したのは、出久がすでに指差していた黄色の小さくて丸いものだ。出久が両手で差し出したのはスーパーで売っていた惣菜の茶碗蒸し。ぷるんとした出汁の匂いが香る蒸された卵の上に三つ葉と一緒に彩りを添えているのはーー。
    「そう。銀杏って言うんだ」
     ロディの質問にこくりと頷けば、ロディの表情にじわじわと変化が訪れる。顎に手を当て、難しい表情をしていたのが、思い当たる節があったのか、ふっと顔の筋肉が緩んだ。
    「……そういや、歩道になにか木の実が潰れてたな……あれか?」
    「そうそう! 銀杏って生の状態で潰れると、キツい匂いするんだよね」
     出久の住むこのセカンドハウスがあるマンションの隣に、新しいマンションが立ったのはこの春のことだった。そしてイチョウの木が隣のマンションの前に移植されたのもこの春のこと。つまり出久のマンションの前で銀杏の実が転がり始めたのは、急に訪れたこの秋初めてのことだ。この部屋に来日すると訪れるようになってくれたロディも、きっとはじめての体験だろう。ロディの空港からの行動範囲におそらく銀杏が落ちるようなイチョウ並木はないので。
    「これ、ほろ苦いやつだよな……?」
    「そうそう。下処理して食べたら匂いもしないし体にいいんだよね」
     ロディが茶碗蒸しを気に入ったのは先日行った和食居酒屋のコース料理で出てきたときだ。茶碗蒸しを初めてみたらしいロディは、初見時、プリン? とこそっと出久に聞いてきた。当たらずとも遠からずのそれに出久は勘がいいなあと感心したのを覚えている。
     その時にも銀杏が茶碗蒸しの中に入っていて、好き嫌いが分かれるけど大丈夫だろうかと伺っていた出久の心配を他所に、ロディはクセになるな、なんて言っていってぱくぱくと食べていた。だから今日スーパーで秋の味覚! と謳われたポップの奥に並ぶ茶碗蒸しを見かけて、出久は迷わずカゴの中に入れたのだけれど。
    「いや、いやいやいや。たしかにうまい。これはうまかったさ。俺も嫌いじゃねえよ」
    「うん、僕も銀杏嫌いじゃないよ」
    「……でもな?」
    「ふふ」
     なんだかロディのこのあとに続くだろう言葉が予想できてしまい、フライングで息を漏らしてしまった。それを無視して、再び眉間に皺を寄せたロディがわっと叫ぶ。ばさばさっとピノの羽音が廊下に響いた。
    「あんな臭ェの食べようと思った日本人、クレイジーすぎねえか!?」
     茶碗蒸しをカゴに入れた時、まさかこんな展開になるなんてら予想もしていなかった。ロディと居ると普段過ごす日本の生活も新しい色が加わる。楽しいな、と思いながら信じらんねえ! と騒ぐロディとピノをまあまあ、と宥めながら、出久はその細い背中をリビングに向かって押しやった。
     そう、まずは腹ごしらえだ。
     そしてお腹が満たされたなら、もう少しすれば黄金色に色付くイチョウの葉の色についてもロディに語ってあげたい。そして、それを君と見れたらいいなと言えば、ロディはどんな表情を見せてくれるだろう。
     ロディの口説いている判定的にアウトかセーフかわからないが、とにかく誘ってみようと出久は笑みを深くする。ロディと移り行く季節を感じながら日々を過ごしたいのは、出久の本音に違いないので。
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