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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定・過去作( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    ふたりの再会後の夜の話(はじめての飲み)

     ロディと再会したその日、すっかり日本の居酒屋に慣れている素振りで「とりあえず生で」とアルコールを注文したロディに、衝撃を受けながら出久は根掘り葉掘り聞くことになった。
     不躾かもしれないとは思ったがしょうがないだろう。なにせ十年ぶりの再会、かつ、ロディが日本にいて、しかもすでに慣れていた様子というのは、何から聞けばいいかわからないくらい疑問しか出久には芽生えてこなかったのだから。
    「日本にはいつから……?」
    「今年の春から」
     ジョッキをぶつけあってから尋ねた最初の質問のロディの返答から出久は目を丸くすることになってしまったのだけれど。
    「もう半年は来てるの!?」
    「そういうことになるな」
    「えっ、なんで連絡……」
    「いやデクの連絡先知らねえし」
    「ウチの事務所とか……検索したらすぐ出てくると思うけど……」
    「連絡したところで不審者扱いされるにきまってるっしょ。昔の知り合いですって言ってプロヒーローの事務所に電話してヒーロー本人に取り次いでもらえるとは思えなかったし、知らねえ人に色々聞かれるの嫌だし」
    「う、それは確かに……」
    「大体、デク忙しいだろ。日本くるたびお前のニュース見かけるぞ。連絡とれたとして会えるとは思えなかったしさ。今回とった連休も大変だったんじゃねえの」
    「そ、そうなんだけど……いやでも半日とか一日とかは休み普通にあるんだよ! ロディから連絡もらったらそこで、」
    「そう、それ」
     出久も同じくビールジョッキを傾けながら話したり聞いていたりしたのだけれど、正面にいるロディは出久の質問にあっさり答えていった。そして出久の発言に片眉を跳ね上げ、ジョッキの持ち手を握る右手の人差し指をぴっと伸ばし、出久へ向ける。
    「アンタはもし俺が連絡して、相手が俺だってわかったら、オセオンのアイツかって俺のこと思い出すだろ?」
    「いやいやいや! ロディのこと忘れたことなかったよ!? 忘れるわけないだろ!」
     ロディの言い草に慌てて否定をいれると、ロディには果たしてその必死さがちゃんと伝わっているのかいないのか。ロディは涼しい顔で再びジョッキに口をつけて、ぐびぐびと中身を空にした。空になったジョッキを重そうにテーブルに置いてから、メニューに手を伸ばし、大きな瞳を伏せ「そりゃありがたいねえ。なあ、デクは次なに飲む?」と聞いてくる。
     出久とは色の違う睫毛がぱさりと上下する。そういえば、十年前も彼の横顔に睫毛長いなあと思った。そんな風にロディの記憶は、ロディとの思い出はいつも出久のそばにあったというのに、ロディはあまりにもあっさりしている。それに唇を尖らせて不満を伝えつつ「もう一杯ビール飲む」と答えれば、ロディがくしゃりと笑った。まるでしょうがないなとでもいうような表情だった。
    「まあ、忘れてたとしても覚えていたとしても、お人好しなヒーロー様がその貴重な休みを使ってくれるってわかってたからさ。その貴重な休みを貰っちまうのもなって。そんなわけでニュース見かけて頑張ってんな~って思ってたんだよ。一回街中でお前がヒーロー活動してるのも見かけたぜ」
    「うそでしょ……声かけてよ……」
    「いやだからヒーロー活動中だったし。コックピット乗ってるとき部外者が入ってくるようなもんだろ。そんなの話しかけられるかよ」
    「言い得て妙かもしれないけど、すごい例えだね」
     出久もジョッキを空にしたところで個室の引き戸を店員がノックして入ってくる。持ってきたのは追加の鶏のから揚げだった。店員が皿を置いてから空のジョッキを持つとロディは「おかわりふたつ」と流れるように注文する。これではどちらがこの店に連れてきたかわからないな、と少々情けない気持ちになりながら、でも動揺しているから許してほしいとだれに請うているかわからない許しを求める。
    「日本便の副機長って、どれくらいの頻度で日本には来てるの?」
    「大体月に1回から二回。大抵二泊三日から三泊四日だな。もう結構日本語も慣れたぜ。日常会話くらいならたどたどしくはあるけどできる」
    「え、ええ……凄すぎるよ、ロディ……」
     すぐに届いたなみなみと注がれたビールジョッキを受け取り、出久はロディに渡す。サンキューと低く、落ち着いた声が出久の耳に届く。出久がどういたしまして、と答えると、次いでロディは「……だから、まあ」と静かに繋げた。
    「デクに連絡しなかったのは、アンタと会うのが嫌だったとかじゃねえよ」
     下手くそな、笑顔だった。テーブルを挟んでいなければ、手を引いて、ぎゅっと抱きしめていたかもしれない。そうか、と思った。ニュースでロディは出久を見ていたと言った。ヒーロー活動を見かけたことだった。すらすらと出久の質問に答えが返ってきたのは、きっと、ロディが自分自身で自問自答を繰り返したからだ。
     また会いに来るよと言って、それ以来、音沙汰無し。それが、ロディにとって、出久の事実だったのだ。
     ずっと忘れたことはなかったと出久がいったとしても、ロディは今この時までそれを知らなくて。だから、物事を冷静に見ることが出来る彼は、客観的に色々と考えたのだろう。そして着地してしまっていたのだ。出久と会う努力をすれば、出久の活動に支障がでるかもしれないから、やめておこう、と。
     ジョッキの持ち手を握る自身の手の力が、自然と強まった。
     ガラスの淵で、まだ口のつけられていない白い泡が、しゅわしゅわと着実に減っていく。そのビールジョッキを持ち上げ、出久は一気に中身を煽った。ロディが驚いた表情でこちらを見ているのが分かった。この居酒屋に来てからずっと、ピノの姿を見ていない。ロディの本心を、ロディが出久に隠している証拠だ。
     もしかしたら、もしかしなくても、自惚れじゃないと信じさせてほしい。ずっと出久は、ロディに会いたかった。ロディ、君も会いたかったと、思ってもいいかな。だから、ピノを隠して、今までの話を飄々としているのではないか、なんて、そんな都合のいいことを、考えてもいいだろうか。
     ごくごくと喉を通り、食道を経てアルコールが出久の身体の中に落ちていく。冷たい液体が、体を冷やす。反対に、目の周りがじわりと熱くなった。
    「お、おい。デク、そんな一気に飲むなよ、どうし、」
    「ロディ」
     ロディの動揺した声を遮るように、出久は口からジョッキを離し、テーブルに置いた。半分以下に減った液体がジョッキの中で波打つ。出久の呼びかけに、ロディが「お、う」と眉間に皺を寄せながら反応する。そのグレーの瞳をまっすぐに射貫いて、出久は口を開いた。
    「ロディが日本に来るときは、連絡が欲しい、です」
    「え、なんで」
    「僕が、寂しいから」
    「は?」
     あえてゆっくりした言葉で、出久はロディに伝えた。ビールの勢いに任せて言ったのではない。そりゃ恥ずかしいことを言うために、勢いを付けるため一気に飲んだ部分はあるけれど。この言葉は本心だというのが伝わるように。人の本心を見抜くのが得意で、自分の本心を隠すのが上手い出久の友人に、ちゃんと言いたかった。
     目を丸くしてロディが出久をぽかんと見つめている。いま姿が見えないピノも同じ表情をしているのかもしれないと思うと、口元が自然と緩んだ。
    「会えるなら会いたい。僕は、君と過ごす時間が、すごく好きだから。知らずにそれを逃していたっていうのは、本当に悔しいし寂しい。ロディが日本にいるのを知ってて、都合がお互いつかなくて会えないのと、ロディが日本にいるのを知らない状態で過ごしていくのとは、まるで意味が違ってくるだろ。それなら、前者の寂しさの方が、僕は嬉しい」
    「……嬉しい?」
    「うん、寂しいけど、そっちのほうが、絶対に」
    「……相変わらず意味わかんねえやつだな」
     怪訝な顔で聞き返してくるロディに出久が笑みをむけると、ジョッキを持たない反対の手でロディが自身の後頭部をわしゃわしゃと混ぜる。そしてその手を下ろしてから、ロディはジョッキの中身を少しだけ口に含み、肩をすとんと落とした。口の中にビールが入っていなかったら、しょうがねえな、とでも、続きそうな表情だった。それにくすりと出久は笑ってしまう。
    「ロディこそ相変わらず優しいね」
    「はあ~? 今の会話のどこにそういう要素があったんだよ」
    「どこかしこにあったよ」
    「ね・え・よ!」
    ビールを胃に落としたロディがくわっとテーブルの向こうで形の良い口を開く。そしてため息を吐きながら、ごそりとボトムのポケットからスマートフォンを取り出す。そのまま料理が並ぶテーブルの上にずいっと差し出してきた。
     出久が自然と見つめていたロディのスマートフォンから視線を上げ、差し出した本人の顔を見れば、苦笑混じりにひょいと肩をすくめたところだった。
    「次に日本に来るのは、再来週の火曜だ。一応、連絡するよ」
    「うん! あっ、トークアプリと電話番号交換しよう!」
    「そのためにこっちはスマホ出してるんだよ」
    「あっ、だよね!」
     いそいそと自分もスマートフォンを取り出して、テーブルの上に出す。ロディの持つスマートフォンのQRコードを読み取れば、自分の持つスマートフォンの画面に現れる「Rody Soul」の文字と青空と飛行機のアイコン。友達リストに追加する操作をすべくボタンをタップすれば、口がむずむずとする。ロディの連絡先が、出久のスマートフォンに登録された。すぐにトーク画面を開き、自分の名前と電話番号と「よろしくお願いします」と一言添えて、オールマイトのスタンプをひとつ。向かいでロディが持つスマートフォンが振動して、ロディが手を引っ込め、画面をみて、小さく、息を漏らすように笑った。
     既読がついたトーク画面にぽん、とロディからスタンプが返ってくる。ぶわりと背中が粟立った。顔に熱が集中して、「あっひゃ! えっ!?」と意味のない言葉を吐きだし始めた出久を、ロディが肩を揺らして笑いだす。その拍子にロディの身体のどこに隠れていたのか、ピノが飛び出してきてピピピと鳴きながら、出久の肩の上にご機嫌に着地した。ピノが出てきたことに喜びを感じるも、しかし出久はそのピノに感激の言葉を伝えることができる精神状態じゃなくて。
     画面に表示されたスタンプは、デフォルメされたヒーロー・デクのイラストスタンプ。よろしくね! と笑う自分自身のスタンプ。なんで僕に僕を、とか、に大いに動揺しながら、出久が「おっ、お買い上げありがとうございます……」と呟けば、ひとりと一羽の笑い声がさらに個室に響いたのだった。

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