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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定・過去作( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    おわりのはじまりの巻

     玄関に実家で持たされた大量の紙袋を床へ下ろして、出久は壁に手をつきながら片足ずつ赤いスニーカーを脱ぐ。いつのまにか出久のトレードマークみたいになっている赤いスニーカーを、以前ロディは「デクが赤って意外だよな」といって、出久が発言するよりもはやく、呆れた顔をして「ああ、オールマイトか」とひとりで一問一答し、納得していた。理解が早くて助かった。
     そんなことを思い出しながら、ヒーロー活動よりも疲れた体で大量の紙袋を持ち直し、部屋に上がる。今日休みが取れたので、昨日は仕事終わりのその足で実家に帰っていたのだ。そして夕方にこのセカンドハウスに帰宅したわけである。
    ダイニングテーブルにどさりと紙袋を置くと、持たされた品が視界にはいる。青色の蓋がされたタッパーには大根と手羽先の煮物、ホウレンソウのおひたし、ポテトサラダ、から揚げが入っている。昨晩の内に母親が作ってくれていたらしい。出久が滅多に自炊しないことを知っているので、実家の食卓でしっかりとおふくろの味を堪能させてもらったのに、さらに作り置きまで用意してくれた。付箋で作られた日付と何日以内に食べてねとぺたりと貼られているそれを見て、出久は苦笑する。大人になったと思っていても、母親にとって出久は何歳になっても子どもらしい。
    他にも出久が好きなスナック菓子や、お隣さんにもらったというオレンジ色がまぶしい蜜柑、安売りしていたから買いすぎちゃってとおそらく出久に渡すこと前提で購入した洗剤や柔軟剤などなど、食べ物から生活用品までどっさり母親は持たせてくれた。
    「これを今から整理するのか……」
     大量の紙袋を持つのは日ごろ鍛えている出久には苦ではなかったけれど、移動の際、周りの人に迷惑がかからないようにと抱えていたので、気疲れした部分がある。母親の気持ちが嬉しくて、渡されるものすべて受け取った出久にも否があるので、頑張って持って帰ってきたわけだが、やはり疲れるものは疲れる。整理は明日にしちゃおうかなあ、なんて思いながらとりあえずタッパーは冷蔵庫に、と一つだけ紙袋を手に取りキッチンに向かった。そして気づく。
    「キッチンが綺麗になってる気がする……」
     コーヒーを淹れたガラスジャグを昨日の朝使ってそのままシンクに置いていたはずなのにない。それどころか、シンクに水滴がひとつもない。首をかしげながら、タッパーを紙袋から取り出し、紙袋をゴミ箱に捨てようとして、ゴミ箱の中に見慣れない黒いビニール袋があることに更に気づいた。滅多に使わないが、念のために買って一向に減らない消臭袋だ。ちなみに出久に使った覚えはない。極々稀に、ロディが気が向いたときに料理を作ってくれて、その時に生ごみを入れるくらいで――――出久の血の気が引いた。
     紙袋をゴミ箱に押し込んで、出久は勢いよく振り返った。持っていたタッパーは調理台に置き、バタバタと遠くもない冷蔵庫の前に慌ててたどり着き、ばっとその扉を開く。そうして、冷蔵庫の中心に綺麗に並べられた四つのタッパーをみて出久は絶望した。
    「う、うそだろロディ……なんで連絡くれなかったの……!!」
     両手で顔を覆って、うめき声混じりの声を上げる。もちろんひとりごとだ。静かな部屋にやけに響いたその声に、出久は自身が受けたショックの重さを知る。この部屋の合鍵はロディにしか渡していない。つまり出久が作ったり用意していないのであれば、よほど勇気と世話好きな侵入者じゃない限りは、ロディが作った料理がこのタッパーには入っているはずで。
    震える手でタッパーを取り出すと、タッパーの中には明らかに手作りな、シーフード入りのスパニッシュオムレツ、マッシュルームとイカの炒め物、タコと茹でじゃがいものオリーブオイル和え、そして黄色いお米が鮮やかな、
    「パエリア……!!」
    思わずガクッと膝をついた。ごく稀にロディが作ってくれる料理のなかで、出久が大好きなやつだ。確定である。これはロディが作ってくれた料理だ。
    もしかして、もしかしなくても、昨日連絡なしでこの部屋にきたロディは、出久の帰りを待って作ってくれていたのではないだろうか。それで帰ってこなかったから、ちょっと食べて、出久用に冷蔵庫に入れて置いてくれたんじゃないだろうか。だってドアポケットにワインまである。流れで開いた野菜室に入っている果物はもしかして、サングリアとか、お酒を作るのを楽しむためのものなのでは。一緒に飲もうと思って、色々作って、待ってくれてたんじゃ。
    「ええ……待ってよ……ロディ……」
    昨晩は冬のボーナスが入ったから母親をちょっといい店に連れて行った。その間にロディはひとりこの家で出久を待っていたのだろうか。連絡もせず。
     もはや半泣き状態だ。ロディの気持ちを考えると胸が潰れそうで、出久は冷蔵庫の前で手をついた。ていうかロディはいまどこに。もうフライトに行ってしまったのだろうか。なんてメッセージを送ろう。電話は間に合うだろうか――ぐるぐると冷蔵庫の淵に額をこすりつけ、長時間開けすぎだとピーピーと電子音で文句を言ってくる冷蔵庫を無視しながら考える。
    と、そのとき。玄関からガチャリと鍵が回る音がした。冷蔵庫に寄りかかっていた体を立ち上がらせ、大急ぎで走って玄関に行けば、出久の勢いに驚いた顔のロディとピノがいる。ロディの手にあるのは白いビニール袋。薄く透ける袋の中に缶ビールが見える。ぶわりとこみ上げるものがあって、出久はロディの自身と比べて随分と細い身体に抱き着いた。
    「ロディ!!」
    「おお!? なんだ、帰ってきたのかよ。そんで、なんで泣きそうなんだ、デクお前……つーか離れろよ……」
    靴を脱いだロディに抱きついたままの出久を、ロディは引きずりながら廊下を進む。出久の突撃を回避したピノは慣れた様子でロディの隣を飛んでいる。
    「だ、だって! ロディ、ご飯たくさん……! 僕昨日……!」
    「え? ああ……そういうことか」
    リビングに続く扉を開いたロディは、開けっ放しの冷蔵庫をみて、出久がこの状態になった理由に合点がいったらしい。こら離れろ、と言ってベソをかく出久をべりっと引きはがし、空きっぱなしの冷蔵庫からタッパーを取り出し、悲鳴を上げ続けていた冷蔵庫をしめ、手に持ったそれを調理台に置いた。そこにすでに置かれていた別のタッパーを見て、嬉しそうに「お、うまそう。親御さんの?」と口元を緩めるので、出久はどうしたらいいかわからなくなる。
    「昨日から実家に帰ってて……」
    「デカい事件もなさそうだったし、夜勤か実家かなって俺も検討ついてたって。罪悪感でも感じてんならお門違いだぜ、ヒーロー」
     肩をすくめて、ひょいと両眉を上げたロディが薄く笑う。
    「まず俺はお前にくるって連絡してなかったろ。その時点でデクが罪悪感を感じる必要性は皆無だっつーのに、なーに泣きべそかいてんだ」
    「でも、」
    「あのなあ。俺が連絡しねえでここくるとき、そもそも俺とデクが鉢会う確率は半々だろ。デクがいないときでも好きに合鍵使えって言ったのはお前だよな? 来た時点でちょっと暫くこの家あける予定があったんだなってくらいわかったさ。昨日帰ってこないかもなってのも。なにせカーテンしまってたからな」
    「あ、」
     昨日の朝、仕事にでるときわざわざカーテンを閉めていった。夜帰ってこないからだ。そのカーテンを見てロディは出久が昨晩帰ってこないことを理解したらしい。名探偵だろうか。
    「そんでそこの料理は、お前が帰ってこないってわかった上で作った。確かに一緒に食えたらいいなと思って作ったが、別に気合入れて作ったわけじゃねえっつーか、必要に駆られて作ったっつーか」
     煮え切らない出久をどう立ち直させるか考えているのだろう。ピノをてっぺんに乗せた頭の後ろをロディが左手で書きながら、天井を見ている。言葉をきっと探しているのだ。
    「どういうこと?」
    「昨日フライト終わりにそのまま機長の別荘に呼ばれてさ、スタッフで昼からバーベキューしたんだよ。そんで結構材料余っちまってな。でもみんなホテル泊だから持って帰るわけにも行かねえだろ? 結果、俺がホテルじゃなくて日本の友だちんとこに泊まってるってみんな知ってるからこっちに食材が回ってきってわけ」
    ほら、あのクーラーボックスで持ってきたと指を刺す。荷物多くて大変だったとげんなりするロディに、気づかなかったと出久が言えばロディが気づけよとすかさずツッコミをいれてくる。確かにゴミ箱の近くに大きなクーラーボックスがあった。キッチンの変化に気を取られすぎて気づかなかった。確かに気づかないのはおかしな存在感であった。
    「で、持ってきたはいいけどデクいねえし、でも海鮮ばっかだから足速いよなって思ってさっさと調理しちまったの。だから必要に迫られてってこと。今日もデクがここ戻って来なかったらひとりで食っちまうつもりだったしな。だからわざわざ罪悪感感じるなって。なんなら一緒に今日食えてラッキーなくらいだ」
    うつむき気味の出久の頭を、ロディがぽんぽんと軽く叩く。聞き分けのない子どもあやすみたいな、そんな素振りに出久はやっと顔を上げる。出久の身長だって伸びたけれど、それでもやはりロディの方が身長は高い。見上げたロディの顔が、へらりと笑う。
    「昨日作ったやつだけど、まだ傷んでねえよ。温めて食おうぜ。親御さんのも食べていい?」
    慣れた様子で食器棚から皿を取り出しながら、ロディがそんなことを言う。好きだなあ。詰まりそうな息を自覚しつつ、出久は「うん、食べよう」とうなずいた。



    一日たっても、ロディの料理はとてもおいしかった。テーブルにのった料理の数々はあっというまになくなって、もう少しずつしか残っていない。
    「で、なんで連絡してくれなかったの?」
    ダイニングテーブルを挟み、器用に箸を使って出久の母親が作った煮物をうまい、と言いながら食べるロディに、自身も食べながら出久は問いかける。
    ロディが面倒くさそうに出久をみた。まだこの話題を続けるのか、という顔だ。続けるよ、という意思を込めてまっすぐとロディを見るとはあ、とわかりやすいため息をつかれる。
    「遠征の可能性もあるだろ? 任務中なら連絡しても意味ねえし、予定入ってんなら予定優先だし、実家帰ってんなら親子の時間だろ。そんなところにわざわざ連絡いれて自らお邪魔虫なれってかい? まさか、やるはずねえだろ」
     左の手のひらを上にむけ、目を閉じながらおどけた調子でロディが身振り手振りをつかって言葉を紡ぐ。それに出久は眉根を寄せた。
    「僕がロディが来てくれるの嬉しいの知ってて、それ言ってる?」
    「……知ってるけど、いま列挙したことより俺を優先する必要も義務もまったくねえだろ、つーかデクだってこの状況じゃ優先しねえだろ」
    「優先は確かにできないかもしれないけど、連絡くれたら、今日のもっと早い時間にここに帰ってこれたよ」
    「だからデクの行動を知らねえんだから、そもそも連絡する選択肢がなかったの」
    「連絡してくれたら僕の行動わかるじゃないか」
    「今回みたいにお前がいないときにここに来たりって結構あるだろ。なんで今日はそんなに食いついてくるんだよ」
    「料理だめになっちゃいそうだったろ。これまでだって、連絡欲しかったよ」
    「サプライズだよ、サプライズ」
    「そうかもしれないけど、それだけじゃないだろ?」
     まるで喧嘩みたいな言い合いに発展しているのはわかっていた。ポーカーフェイスで、軽い調子で話し続けるロディの機嫌が悪くなっていっているのもわかっていた。それでもやっぱり、いままでも気になっていたのだ。連絡をロディが出久に入れないことがある理由を。そして、なんとなくだけど、ロディが連絡を寄こさないことがある理由は、出久がロディを口説こうと行動を起こすと毎度はぐらかされることに繋がっている気がしているのだ。
    だから、聞きたかった。険悪なムードになったとしても、そろそろこの煮え切らない状態を抜け出したかった。
     ロディが出久と目を合わせないまま、ぱくりとオムレツを頬張る。もぐもぐと口を動かして、喉仏を上下させた。そして吐き捨てるように、言葉を落とした。
    「っつーか、俺が理由でデクの行動を変えさせるとか、俺が嫌だわ」
     時が、止まる。どこに隠れたのか、ピノはいつの間にか姿が見えない。
     うつむき気味だったロディの目が、じわじわと開かれていくのがやけに出久の瞳に鮮明に映った。まるでいま自分の口から飛び出した言葉は、いうつもりがなかったような、音が聞こえて驚いたような、そんな表情だった。
    「ロ、」
    「あとそれでお前が罪悪感感じてんのもな。めちゃくちゃ嫌なわけ」
     名前を呼ぼうとして、蒼褪めた顔を一瞬にしてひっこめ、軽薄に笑ったロディの手が出久の額の前に伸びてきた。そのまま人差し指でピン、とはじかれた。デコピンだ。
    「あだっ!」
    「そんな痛くねえだろ。よし、これでこの話おしまいな。サングリア飲もうぜ。シナモンなかったからビールと一緒に買ってきたんだ。昨日だったらシナモン無しだったぜ」
     まるで今の空気を払拭するように、ロディが明るく話しだす。いままでの出久だったら、そのロディに合わせてそうだね、と言っていたかもしれない。でも、今、ロディの本音がきっとこぼれたから。巧妙に隠され続けているその尻尾を逃したくないから。テーブルの料理は、もう空っぽだ。
    「ロディ、ピノは?」
     きっと、目つきも鋭くなっているんだろう。真剣な声色になっている自分を自覚しながら、出久はロディを見る。
    「寝てるよ」
     ロディはやっぱり出久を見ない。
    「ピノ、出して」
    「やーだね」
    「出して」
    「んじゃ、10万ユールな」
    「出すよ。出すから、ピノ出して!」
    「おいおい、ガチすぎんだろ……落ち着けってデク」
     煙に巻こうとするロディを必死に捕まえる。ロディの頬が引きつったのがわかった。このままじゃ逃げ切られる。出久は手に持った箸をぎゅっと握りこみ、息を大きく吸った。
    「僕は! 君にわがままを言いたいです!」
     そして吸い込んだ酸素と一緒に、思いを吐き出す。ロディがぎょっとした顔で出久を見た。やっと、見た。
    「文句だって言いたい。寂しいときも寂しいって言いたい」
     止まらない言葉を止める気もない。ロディが目に見えてうろたえていた。
    「そして、君にもいってほしいんだよロディ」
     ロディがまるで切り付けられたような顔をした。そんな顔をしてほしくて言葉を繰り出しているわけじゃないのに、なんでそんな顔をするんだろう。ぎゅっと体のどこかが痛みを覚えるが、出久はしゃべり続けた。
    「言ったところで何も変わらなくても、それでも言ってほしいし言いたいんだ」
    「友達にそんなの言われたらうぜえだけだろ」
    「友達ならね。だからそうじゃない関係になりたい。僕は君と恋人に」
     唇を引き結んでいたロディがやっと声を出した。だから、出久はこの話のゴール地点を提示しようと、息を吸う。すると、はっと目を見開いたロディが、テーブル越しに体を乗り出し、ぱんっと出久の口に両手を押し付けた。
    「ハーーーイ! ストップストップストップ! それ以上言うなよ!? いいな!?」
     口をふさがれたのだ、と理解し、出久はロディをにらみつける。普段操縦桿を握るその手を掴み、引きはがした。
    「なんで! 最後まで言わせてよ!」
    「うるせえうるせえ、ピノが起きんだろ」
    「これだけロディが元気なんだから起きてるよね!?」
    「寝てるって言ったら寝てる!」
    「なんで言わせてくれないの!? もうわかってるよね!? ロディも同じ気持ちだと思ってるんだけど!」
    「俺は!」
     いつか、そう、ロディかこの部屋にきた最初の夜に同じような会話をした。でもあの時と違うのは、ロディとふたりで重ねた日々があること。そして、ロディの本音の尻尾が見えていること。ロディがテーブルにある空っぽの皿を見つめる。くしゃりとゆがんだその表情に、涙がこぼれるのではないかと思った。
    「俺は……」
     絞りだされたその声の続きを出久は待つ。でも、その言葉の続きは訪れなかった。顔をあげたロディが、いつも通りの顔をしていたからだ。
    「なんでもねえ。片付けるぞ」
    「ロディ……」
    「か・た・づ・け・る・ぞ」
    「……うん」
    皿やタッパーを片付けだしたロディに、出久は引くしかなかった。その夜は以降、普通に会話して、おやすみといって寝て、次の日出久は朝から仕事をして、ロディはその出久のあとに家を出て。まだまだ時間がかかるのかな、なんて、仕事中に見かけた飛行機雲を眺めながら思ったりして。だから、こんなことになるとは、思ってなかったのだ。

    それから、ロディから来日の連絡が、一切来なくなった。
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