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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    琥珀ととわとせつな(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *


     父はどのような人となりであったか。
     時代樹からぬるりと『出て』きたせつなは静かに尋ねた。
    「せつな。お前が殺生丸さまの息女だということはおれも知らなかったんだ」
    「そんなことはもういいんです」
    「……信じてほしい せつな。お前が何を聞き、何を見、何を考えているかはおれには分からない。けれど……おれの知る殺生丸さまは今まで会ったどんな人や妖怪よりも気高い方だった」
    「私はこの目で見たものしか信じない」
    「ならばその時代樹の言葉もまた、真実とも限らない」
     そうだろう? と琥珀は表情を緩めた。
     もし殺生丸の娘であると知っていれば。知ったところで彼女を優遇したかは分からない。けれど、あの頑なに閉ざした心の慰みにでも父・殺生丸の昔話でもしてやれたかもしれないのに。
     とはいえ。
     一度『そうである』と言われると最早このせつなという少女の父親は殺生丸以外考えられない。今までどんな育ちをしてきたかは不透明なままだが、あの物言い、態度、そして類稀なる戦闘への才能。妖怪退治という危険極まりない仕事にも怖気付くことなく、かつて琥珀の姉・珊瑚がそうであったようにまだ幼いながらも堂々とした居住まいをしているのだ。
    「お頭?」
    「あぁ、いや。……本当に、せつなは似ている。とわと言ったね。君も、髪の色が殺生丸さまとそっくりだ」
    「えっ 本当?」
    「本当だとも。少し短気なところもね。すぐに手が出るところも……やせ我慢するところも」
    「……それ……褒めてる?」
    「褒められていないな」
     双子だというとわとせつなは揃って息を吐いた。だが琥珀は「そう落ち込むな、殺生丸さまが『そう』だったんだ。仕方がない」と諦めたように苦笑いした。
    「大妖怪、ってもろはは言ってたけど……」
     楓という老齢の巫女が言うには。
     気まぐれが着物を纏って歩いているようなもの。
     琥珀が言うには。
     何を考えているのか全く分からない、けれど時折本当に何も考えていない思慮深き妖怪。
     畑仕事をしていた村人が言うには。
     昔は連れてきた小さな娘っ子に貢いでばかりで楓の家が贈り物でいっぱいになっていた、だとか。
    「本当に殺生丸は大妖怪なのか?」
    「馬鹿を言うなせつな。確かに……殺生丸さまは気難しいお方だったが、その実力は相当のもの。兄弟仲も悪く出会うたびに衝突していらっしゃったが……根はとても慈悲深くお優しいお方だ」
    「……さっきと言ってること、逆じゃない?」
    「……気が短いのも事実でね。風のように気ままで、お共の小妖怪さまにはすぐ拳骨していたし、お怪我をされても絶対手当させてはくれないし……」
     琥珀はやはり苦笑いを浮かべたまま楓が煎じた塗り薬を装束のあちらこちらにしまいこんでいく。お前たちに教えてやれる逸話があればよかったんだが、と言って彼は記憶を掘り返す。初めて出会ったのは、奈落がりんを拐い、琥珀に殺させようとしたあの時だ。
     恐ろしいほどに凍りついた眼差しを今も覚えている。それでも殺生丸は自我もなく、ただただ己の死を望み続けていた琥珀の命など取るに足らぬと息の根を止めはしなかった。──だなんて話を、今まさに殺生丸という父たる男に疑惑に満ちた思いを馳せる子どもたちに伝えたところでいい結果にはならないだろう。それはまた、いつかの話。
    「お頭、もう殺生丸の話はいい。何を聞いても、結局この目で見なければ分からないことだ」
    「そうであはるが……だが、父親だろう」
    「……記憶にない男など父親ではない」
    「…………そうか。お前がそう思うなら……それでいい」
    「あの、」
     突如として声音から元気がなくなった琥珀にとわは慌てて声をかけた。
     せつなの言葉に傷ついたのではなく、もっと他の何か──よくないこと──を考えているような。
    「せつな とわ。お前たちがこれからどうするのか、時代樹の言葉を信じるのか……お前たちが決めることだ。それでも それでもだ、いいか」
     かしこまったように琥珀は二人の姫の肩をがっしりと掴み、瞳を射抜いた。

     決して 父親を手にかけようなど思ってはならない。

    「!」
    「どんなことがあろうとも……殺生丸さまには、あの方のお考えがある。……お前たち娘を不幸せにするようなお方ではない。だからどうか……刃を向けなければならない時が来ようとも、命だけは奪ってはいけないんだ」
    「お頭……」
    「それから、お前たちもだ。育ちが違えば……いいや、育ちが同じであろうとも、姉妹であろうとも意見が対立することはあるだろう。だとしても絶対に 姉妹で殺しあってはいけないんだ」
     やけに熱のこもった説教にとわとせつなは一度顔を合わせ、首を傾げながらも「あ、あぁ」と返事はする。
    「よく分からないけど……その、分かったよ」
    「……刃を向けるなという訳ではないのなら……」
    「どうか、殺生丸さまが誤った道に居られるのなら その目を覚ましてほしい。命が失われれば……もう二度と、相手の声も聞くことはできなくなるのだから」
     殴るくらいはどうだっていい。
     いずれ痛いほどに意味も分かるだろう。分かる時には既に父親に、或いは母に刃を向けた後やもしれない。姉に、妹に、そして従姉妹に牙と爪を剥いた後やもしれない。だとしてもどうか、どうか。
     祈るように琥珀はもう一度だけ「家族で殺しあってはいけないんだ」と小さく呟いた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

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    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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