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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸と十六夜

    ##犬夜叉

    *


    「あぁもう、どうしようどうしよう……ごめん殺生丸! 少しだけでいい、ただ抱いてるだけでいいから翡翠を見ておいてくれ!」
     戻ってくると言ったはずの法師さまは戻ってこないし、琥珀は薪割りに行ってしまったし、かごめちゃんも楓さまのところに行っちゃったから。だから少しの間でいい、少しだけ見ておいてくれ!
     とまぁ、つまるところ殺生丸に拒否権などない様子でまくしたてられ、妖怪はやわらかい受け物を退治屋の女から受け取った。
     喃語ばかり口にする赤子のことを知らない訳ではない。珊瑚、琥珀、金と玉の名を持つ娘たちに翡翠。よくもまぁ人間にしては大層な名をつけたものだが、そんなことはどうでもいい。お願い、と赤子を押し付けてきた母親は確かに大忙しらしく、飛来骨を握りしめて家を出て行った。外れに妖怪が出ただとか村人が叫んでいたからだろうか。
    「……解せぬ……」
     請われれば殺生丸は妖怪を始末してもよいとまで思っていたのに、どうしてこうなるのか。
    「あ、殺生丸さま」
    「……」
    「さっき珊瑚さまが妖怪退治だって出て行ったけど……翡翠、こんなところにいたんだ」
    「……やる」
    「だめですよう、せっかく寝てるんだから。珊瑚さま戻ってくるまで殺生丸さまが抱っこしててください」
    「……」
     りん、お前までそんなことを言うのか。
     殺生丸はくらりとめまいすら起こしそうになりながらも、摘んできた薬草を置きながら少女が「かごめさまたちもまだ戻ってこないみたいです」と言うのを聞いてさらにちょっとした苛立ちを覚える。この殺生丸に子守を押し付けるとは、と。
     しかし妖怪の腕に抱かれる将来妖怪退治を生業とするであろう赤ん坊はどうしたことかひどく安心した様子で眠ったままだ。妖気を察することができないのか、それとも時折村にやってくるだけの殺生丸の妖気に警戒心を抱いていないのか。ともあれ、翡翠と名付けられた男子の赤子はぶぅぶぅと鼻を鳴らし、涎を垂らし、殺生丸の袖を汚しながらすやすやと寝息をかいているのみ。
    「翡翠、珊瑚さまに抱かれててもすぐに泣くのに。殺生丸さまはやっぱりすごいですね」
    「警戒感のない子どもだ」
    「安心しているんですよ。お外、風が気持ちいいです」
     くい、とりんは殺生丸の空いた腕を引く。
     ぽかぽかと昼下がりの陽気が降り注ぐ中で娘の後について家屋を出た殺生丸はその眩しさに少しばかり目を細めたが──そこで 思い出す。



    「犬夜叉と。お館さまは仰りました」
     煩わしい人間の女が口ずさむ言葉が脳裏に蘇る。
     あの日もこんな昼の陽気の中だった。屋敷から抜け出した人間の女が生まれたばかりの半妖を抱き、形見の刀を握りしめたまま鬼のような形相をしていた殺生丸にあろうことかその赤子を差し出してきたのである。
    「殺す、とは思わぬのか」
    「……それは……」
    「父上を死に追いやった貴様とこの汚らわしい半妖を 私が殺さぬとでも思ったのか」
    「……殺生丸さまはとても 気高い方と聞いております。このような無力な女子どもを殺すような方ではないと」
     貴様に父上の何が分かる、と叫びそうになりながらも殺生丸は拳を握りしめ、差し出されたままきゃあきゃあと甘えようとする赤ん坊を見下ろした。半化け、半妖、薄汚い物の怪のなりそこない。それがあの父の血を引き、殺生丸の弟であるとどうして受け入れられようか。
     しかしながら十六夜というその女はぐいと殺生丸に赤ん坊を押し付け、「抱いてやって」と言い寄った。
    「馬鹿なことを」
    「いずれ争い合うとしてもどうか今は……この子を 愛さずとも 抱いてはくれませんか」
    「……」
     ふにゃふにゃの白い耳を生やした半妖は火鼠の衣に抱かれて小さな小さな手を伸ばす。
     母親ではない誰かの腕に抱かれても泣く様子はなく、それどころか垂れ落ちた殺生丸の長い髪を触り、口に含み、満足そうに笑み、そして眠る。父と、そして殺生丸と憎らしいほどに同じ色の髪をした子どもはその瞳に映る妖怪が兄であるとは理解していないだろう。父を知らぬ哀れな、けれどその父を奪った赤子。
     殺してやりたい気持ちはあれど、この女と子どもを今ここで殺すことは父も望んではいないだろう。
    「きっとお館さまに似た……優しい子になりましょう」
    「……」
    「あなたのような立派な……「黙れ」」
    「まだこの餓鬼に殺す価値などない。覚えておけ十六夜。この殺生丸、貴様がいつ死のうともこの半妖をどうすることもない。殺しはしない、だが 生かしもしない」
    「……えぇ。この子は一人で生きていくことになるでしょう。だけどどうか……覚えておいてはくれませんか? 今ここに お館さまの血を継ぐ……犬夜叉という 半妖がいたことを」
     儚く笑う十六夜は殺生丸の腕のなかで幸せそうに眠る愛しき我が子の髪をふわりと撫でた。
     あれはそう、今と同じ暖かな昼下がり。



    「殺生丸さま?」
    「……赤子は同じ か」
    「?」
    「お、殺生丸じゃねぇか。お前来てたのか……って。なんでい。なんでお前が翡翠抱っこしてんだ」
    「くれてやる」
    「えっ あっ おい、おい!」
    「……間抜け面はお前と同じだな」
    「……は?」
     家先に立ち尽くし赤子を抱く兄という奇妙な組み合わせを見つけてしまったのが犬夜叉の運の尽き。
     突如として間抜けだのと言われただけでなく翡翠を押し付けられた半妖はわぁわぁと呻きながら、二百ほどの年を遡った頃のかわいさなどどこへ消え去ったのか、腕の中で泣きわめきはじめた赤ん坊を持て余しはじめた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429