Recent Search

    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸とりん*


     それは現つ御神やもしれない。
     茂みに潜り込んで見つけた、煌煌と降り注ぐ白い朝陽の下には少女が未だかつて知らぬほどに美しきひとの姿。村の外れから広がるこの慣れ親しんだ森がいつもと景色が違う、と感じた正体は『これ』だ。その人影が横たわっている箇所だけ樹冠が焼き尽くされたようにぽっかりと失われていたのだ。
     たぷ、竹筒の中で水が跳ねる。
     りんの村に住む者たちではない。行商でもない。どこからどう見ても落ち武者などという存在ではなく──陽光を浴び神々しさすら放つ者は今まで少女が短い命の中で見たこともない類のいきもの。
    「(きれい)」
     幼子の持つ数少ない言葉の中でそれを表現するにもっともふさわしいと思ったのが、美しさを褒め称える言葉。
     遠目で見ただけでも分かる。あれは人ならざる者であると。妖(あやかし)の類であるか、精霊であるか、それとも真なる神であるか。そのいずれであるかはさしたる問題ではない。重要なことは、その美しい人影がひどく傷ついているということ。卯の花よりも白く長い髪は、陽の光が角度を変えるごとに、ぱちくりとりんの大きな目が瞬きをするたびに色を変える。
     姫さまなど見た 2768

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸とご母堂*


     牛車くらい貸してやろう、持っていけ。
    「あの小娘は身寄りもいないのだろう。ならば嫁入り道具なども持ってはおるまい。ここのものを持っていくがよい」
     化粧道具一式から香道具まで。箪笥に長持に美しい反物の数々。
     見目麗しき女妖怪はあれやこれやと家来どもに命じて殺生丸が口を挟むことも許さず慌ただしく貢物を用意させた。鞍には米俵まで積んである。全く、あの小娘を嫁にしたのであれば一度この母の元へ連れてくるのが道理だろう。そんな『当たり前』を指摘したところで聞くような息子でないことはとうに分かっていた。
     かつて父が人間の小娘に心奪われて以来か弱き人の種を嫌悪してきた息子がこうも手のひらを返すとは、とそれでも女はどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。
    「要らぬと言っておろう」
     それに対して息子が口にするのは相も変わらない言葉。
    「ならば小娘を連れてこい。それで免じてやろう」
    「誰が連れてくるものか」
    「……根に持っておるのか?」
     いまだに?
     問えば殺生丸は眉間に刻んだ皺をさらに増やすのみ。
     どこまで知っていたのかは今となって問い正すつもりもないが、今でも気に食わないことは確か。冥道へ 1858

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING琥珀と邪見*


     また難題を。
     燕の子安貝を取ってこいと言われた方がましやもしれない、こんなことでは。否、命じられた『使い』の難易度はそれほど高くはない。ただ単に「着物を買ってこい」と砂金の詰まった巾着を投げつけられただけだ。
     たったそれだけのことではあるが、相手が悪い。
    「(殺生丸さま、そういうところあるよな……)」
     見た目こそ見目麗しい妖怪であるが、蓋を開けてみれば傍若無人と言っても過言ではない男だ。確かに、琥珀には殺生丸に命を守られた恩義はある。それはあれど、だからといって使い走りになったつもりもなくば下僕になったつもりもない。
    「なんだ琥珀、浮かん顔をして」
    「……殺生丸さまご自身のほうがこういうの、向いてると思うんですけど」
    「ばぁか。あのお方が慣れてたらそれはそれで怖いわい。あれくらいでちょうどよい」
    「そんなもんです?」
    「そんなもんじゃ」
     齢数百といえど、あの殺生丸という妖怪は今の今まで女に貢物などしたことはない。
     父が母に贈り物をし、そして十六夜という人間の小娘にも多くのものを与えたことは知っている手前、男は女に貢ぐものだと考えている節すらある。それはいい、それは。 1194

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と十六夜*


    「あぁもう、どうしようどうしよう……ごめん殺生丸! 少しだけでいい、ただ抱いてるだけでいいから翡翠を見ておいてくれ!」
     戻ってくると言ったはずの法師さまは戻ってこないし、琥珀は薪割りに行ってしまったし、かごめちゃんも楓さまのところに行っちゃったから。だから少しの間でいい、少しだけ見ておいてくれ!
     とまぁ、つまるところ殺生丸に拒否権などない様子でまくしたてられ、妖怪はやわらかい受け物を退治屋の女から受け取った。
     喃語ばかり口にする赤子のことを知らない訳ではない。珊瑚、琥珀、金と玉の名を持つ娘たちに翡翠。よくもまぁ人間にしては大層な名をつけたものだが、そんなことはどうでもいい。お願い、と赤子を押し付けてきた母親は確かに大忙しらしく、飛来骨を握りしめて家を出て行った。外れに妖怪が出ただとか村人が叫んでいたからだろうか。
    「……解せぬ……」
     請われれば殺生丸は妖怪を始末してもよいとまで思っていたのに、どうしてこうなるのか。
    「あ、殺生丸さま」
    「……」
    「さっき珊瑚さまが妖怪退治だって出て行ったけど……翡翠、こんなところにいたんだ」
    「……やる」
    「だめですよう、せっかく寝てる 2271