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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺りん(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *


     涙の粒を拾う。
     貝殻のように美しく指先に伸びていた爪は割れ、いつもりんを守っていた男の筋張った手には無数の刀傷。青白い顔(かんばせ)から溢れるもう数えきれなくなった涙を指先で弄ぶように受け止め、乾いた血の上をそれは滑り血で赤黒く染まった着物の上へと落ちていく。
    「殺生丸、さま」
     泣くな。
     頭を撫でてやりたくともこれ以上は腕が上がらない。
     全く、西国の大妖怪が子に産まれておきながら、数百の刻を生きながら、それでも尚この有様か。殺生丸はどこか他人事のように無様に転がる己の隣でさめざめと泣き続ける娘の赤らんだ目元に触れた。
     痛みはない。
     戦いの最中には感じていたはずだが、こうして全てが終わり再びりんの吐息を感じられることを知ったその瞬間、全ては忘却の彼方。動かぬ身体のことも、砕けた手指のことも、千々に引き裂かれた毛皮のことも、全てどうだっていい。
    「……りん、」
     焼けた喉を鳴らせば絞り出されるは獣の唸りにも似た声音。
     今頃あの姫どもは大慌てでこちらへ向かって来ていることだろうか? 旅の最中、方々でさぞ耳が痛くなるほどに聞かされたことだろう。父たる殺生丸という妖怪がどれほど無慈悲で冷酷で──己の欲のためならば手段を選ばぬ外道であると。
     目に易く浮かぶ光景だ。弟どもが大声で喚き散らしながら頼んでもないのにそんな噂は嘘八百であると叫ぶ様が。真実を知りたくば誰かの口から聞かされものを真なるものとせず、自分たちの目で見てこいと。手に取るように分かるのだ。立場が逆であればきっとそうしただろうから。
    「りんは りんはここにいます」
    「怪我は……ないか」
    「はい。殺生丸さまがずっと、ずぅっと 守ってくれたから」
     夢と記憶の海の中でただただ揺蕩うだけの日々は終わった。
     もう彼女を守る胡蝶の繭はどこにもない。時代樹から引きずり出されたりんは再び大妖怪の血を継ぐ真なる妖怪・殺生丸が持つただ一つの弱みとなる。遙か昔より絡まり合った妖怪同士の因縁の最中に取り込まれてしまうのだ。眠りに落とすことでその悪意から遠ざけていたが、今この限りでその安寧は崩れ去る。
    「私は……お前を、また」
    「ううん、いいの殺生丸さま。全部わかってます」
     力なくずるりと落ちかけた殺生丸の手をりんは両手で包み込み、愛おしそうに頬を寄せた。姫君のような絹糸の髪ではない。どこにでもいる村娘のさらりとした長い髪が溢れ落ち、再び零れ始めた涙と一緒に殺生丸の手の甲を撫でた。
    「……りん」
    「はい」
    「笑え そんな顔よりも……お前には 笑顔が似合う」
     屈託のない路傍に咲く花のような。
     初めて出会った時に見た──土にまみれた草木の中でひっそりと咲く、確かな一輪の花のような笑顔こそが。それこそがこの殺生丸の愛したお前にはふさわしいと。
    「難しいこと、言わないでよ殺生丸さま……」
     ふにゃりと少女の顔は歪む。
     止まることのない涙を流したまま、不恰好な笑顔を浮かべたりんの顔を見た殺生丸もまた、安堵したように力なく微笑んだ。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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