Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    妖怪ろくろ回し

    ☆quiet follow

    殺りん

    ##犬夜叉

    *


     似合わん。
     殺生丸は言い放った。
     酉か、坤か。ちょっとした気まぐれで訪れた地で見つけた珍しい果物を手土産にりんが暮らす村に立ち寄った彼を出迎えたのは、縄を片手にずるずると床に幾重も着物を引きずった少女の姿であった。
    「殺生丸さま、来てくれたんだ! それはなに?」
    「……葡萄だ。……りん、なんのつもりだ」
     似合わぬ紅まで点して、髪まで結って、まるでどこかの姫のような格好で。だというのに彼女は縄を綯っていたのだからちぐはぐだ。
    「あ、これは……その」
    「……察しはつく」
     どうせ殺生丸が不在のうちに下界に『遊び』にきた母の仕業だろう。
     彼女が手に余るほど持つ着物を時折持って来てはりんを人形のように立たせて好き勝手着せ遊んでいることは知っている。
    「ごめんなさい」
    「謝る必要はない」
    「……はぁい。……似合わない、かぁ」
     むぅ、とりんは少しだけ残念そうな顔をする。
    「……巫女はどうした」
    「楓さま? 珊瑚さまに用事があるって。それで、りんはお留守番」
     縄をその場に放り投げ、がさごそと乱暴な手つきでりんは身を巻く帯を取り去り、あれやこれやと美しい着物を脱ぎ去っていく。これ、どうなってるんだろうと言いながらあれやこれやと引っ張って無理やり着物を脱いでいくのだから、やはり母が着せたのだろう。
     どうせ「これだけ粧し込んで出迎えれば殺生丸もきっと喜ぶだろう」なんて悪戯めいた笑みを浮かべてりんにあれやこれやに吹き込んだに違いない。
    「こういうの、かごめさまなら似合うのかな」
    「……似合うはずもない」
     今でこそ巫女装束を身につけているが、あの女は奇怪な着物をまとい、素足の大半を晒して奈落の体内までやってくるような人間だ。
    「珊瑚さまは?」
    「…………」
     もう一人もまた。彼女もまた骨の塊を片手で振り回すような女子(おなご)だ。
    「……だよね。りんたち、お姫さまじゃないもん」
    「……その着物は……父上が遺したものだ」
    「え……」
     見覚えがある。
     西国で織られたそれはまさしく『姫君』のためのもの。
    「十六夜に渡すつもりだったものだ」
    「……いざよい……」
     犬夜叉の母、殺生丸の父が愛した人間、既に亡き月華の姫君。
     聞き覚えのある名前にりんは顔を上げた。殺生丸に贈られた着物姿に戻った彼女は脱ぎ去った触り心地のいいそれに手を伸ばす。
    「父上が死に……意味を喪ったものだ」
    「……そう、だったんだ」
     あの日止まった時間は凍りついたまま動くことはなかったはずだった。
     母が住む御殿の奥に仕舞い込まれた多くは父が十六夜に贈ろうとしていた楚々たるものの数々。次会ったときに渡そうと思う、それまでここに置いておかせておくれ。せっかく着物を持っていったのに人間たちに追い返されてしまったよ、だからしばらく置かせてくれ。全く、せっかく珍しい果物を持って行こうとしたのに竜骨精に邪魔をされてしまった。もう腐って食べれぬから、庭にでも埋めてくれ。
     殺生丸の白い目など感じていないかのように父は二百ほど年を遡った冬の頃、両のかいなを使っても足らぬほどの貢物を全て置いて逝った。そのたびに母は「仕方がないおひとだ」と言いながらもどこか嬉しそうな顔をしていたことも彼は昨日のことのように覚えていた。
    「……捨ててしまえばよかったものを」
     或いは、はじめからそんなものを遺して逝かなければ。
    「でも、捨てたら勿体ないよ」
    「言ったはずだ。もはや意味などないと」
    「…………捨てられなかったんだね お義母さま」
    「……」
     あの母親がそんな感傷に浸る心を持っているかは分からない。
     けれどきっとりんの言葉は正しいのだろう。終ぞ人間の手に渡ることのなかった、愛した男が嬉しそうに集めていたものたちを捨てるのは愚か、触れることすら。だからこそこうして今になってりんにあれやこれやと差し出してきたに違いない。
    「りんには似合わないけど……もらったらだめかな。きっとそのほうがいいよ」
     突き返せば再び昏い倉の中で──それこそ、『終わり』を待つのみとなってしまう。
    「……それはお前がもらったものだ」
    「! それって……」
    「好きなだけ汚せ。好きなように使え。……お前の好きにするといい」
    「……はい、そうします!」
     泥を拭いてもいい。
     野菜を拭いてもいい。
     褥と共に使ってもいい。
     ただ、身にまとい十六夜が君のように笑ってみせるのだけは──やめろ。色とりどりの着物を装った深雪のなか微笑むような姫君などではなく、陽光のもと素足で駆け回るような童(わらべ)のほうがいい。
     父上ならばきっと許してくれるだろう。
     ずっとずぅっと眠り続けるのではなく、こうして想いを知った者が手にすることを。
    「……そんなものより……腐る前に食べてしまえ。足がはやい」
     殺生丸はぐしゃぐしゃになった着物を奪い去ると、いつもより赤い唇をしたおよそ姫君からは遠い少女にたわわに実った葡萄を差し出された両手に乗せてやった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

    recommended works