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    アンドロイドネタ。思いの外冒頭がしっとりになったけどこっから無理くり母乳飲ます話になる

    ミナトはアンドロイドだった。元々ボディーガード用だったのが不具合で廃棄され、ソフトだけ家庭用アンドロイドとして改造され──という過去はさておき、今は心の通じるオーナーの元で幸せに暮らしている。
     しかし、ミナトには目下心を悩ませていることがあった。オーナー、もとい御主人様である、アレクサンダーのことだ。
    「……ただいま」
     疲れ切った声が玄関から聞こえる。走って駆けつけると、目の下に隈を作った御主人様がいる。
    「おかえり。お風呂湧いてるよ」
    「ああ、悪い」
     スーツのジャケットを預かって、お風呂場に促す。アイカメラがスーツのヨレを、鼻孔のセンサーが汗の匂いを感知する。今日も今日とて、御主人様は忙しかったようだ。
     水音を聞きながら、荷物の準備をする。新しいスーツに、ワイシャツと肌着類が数セット。今着る用のを脱衣場に置いて、残りは紙袋に詰める。御主人様が持って帰った袋から洗濯物を取り出して、今脱いだ服と一緒に洗濯にかける。
     カバンからお弁当袋と水筒を回収すると、もう一つ、膨れたコンビニのビニール袋を取り出す。空のコーヒーのボトル、カフェインの強いエナジードリンクの缶、手っ取り早くカロリーを取るだけの携帯食の空箱……その光景に、思わずため息が漏れる。
     バスルームのドアが開く音がしたので、ミナトはキッチンに向かった。御主人様が着替える間に、温めていたスープを出す。
    「ミナト、荷物できてるか」
     スーツを着て出てきた御主人様は、さっきよりは多少マシな顔をしている。だけど、サーモカメラで見ればちゃんと温まってないのが分かる。せっかくのお風呂なんだから、ゆっくり浸かればいいのに。
    「うん、玄関に置いてるよ。洗濯物とゴミは貰ったからね」
    「助かる」
    「アレク、君の好きなスープ作ったんだけど、飲んでかない?」
     御主人様の眼が開かれる。紫色の瞳に光が反射して、喜びの表情になる。
     だけど、その顔はすぐに曇ってしまった。
    「悪い。張り込み抜けて来たから、すぐ戻らねぇと」
    「うん。無理しないで。カバンの保温ジャーにスープが入ってるから。時間あるときに飲んで。お茶とおにぎりも入れたから」
    「ああ、ありがとう」
     髪の先がまだ濡れている。拭いてあげたかったけど、もう御主人様は革靴に足を入れていた。
    「また帰れそうになったら連絡するから、適当にしててくれ」
    「うん。……気をつけてね」
     ドアノブを握る御主人様の頬にキスをする。唇で触れた頬はカサついていて、少し肉が落ちていた。
    「いってらっしゃい」
    「ああ、いってきます」
     コートの背を見送って、呆気なく扉が閉まる。鍵をゆっくりとかけると、カチャン、と空虚な音が響いて、ミナトは再び一人に戻ってしまった。
    「……はぁ」
     ここ半月、御主人様はこんな生活を続けている。警察署に泊まり込んで、数日に一度、着替えとお風呂のためだけに帰ってくる。
     御主人様は、かなり大規模な違法アンドロイド製造組織を追っていると言っていた。近々取引があるとタレコミがあったそうで、それからはずっと張り込みと捜査の毎日だ。
     ──仕事だから仕方がないとはいえ、体を大切にして欲しい。自分の居場所をくれた、何より大事な御主人様が擦り切れるのを見るのは辛い。
     こめかみの六角形のライトが点滅する。アンドロイドの本能と、生まれたばかりの自我が混じり合って、「寂しい」という感情を形作った。
    「──おれがしょげてても仕方ない、か」
     踵を返してリビングに戻る。スープは自分で食べて(高機能アンドロイドは食事もできるのだ)、スーツにブラシをかける。その傍ら、思考回路をネットワークに繋げて、「人間 癒やす 方法」や「疲労回復」など、あらゆるワードで検索をかけた。
     ネットの海はすぐに膨大な情報を提供してくれる。それを虱潰しにスキャンしながら、御主人様が1番喜ぶ方法を模索する。

     ──思考回路とは別のところで、思い浮かべる光景がある。少し高めの体温と、穏やかで、子供のような君の寝顔。
     それを見るためなら、おれは何だってできるのだから。
     ゆっくりと、丁寧にスーツを撫でながら、ミナトは情報の海に潜っていった。
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