祈りーーー俺は、黒曜石が好きだ。
旧石器時代からの置き形見でありながら、今も人の心を魅力し続け、これからも...未来の人間の心を鷲掴みにし切り裂き続けるだろうあの鋭くも鈍く光り続けるその光を、愛している。
ガラスにとても似た性質を持ちながらも、割れ目は限りなく少なくて。
ガラスと瓜二つで、割れやすいながらも。
かの遠い昔から武器として使われ、人を、獣を、殺め続けてきたあの美しさが。
俺は、好きで、たまらなくて。
遠い遠い昔、かの人身御供で有名であるアステカ文明では、人質..,詰まるところ映えの栄誉ある“生け贄”の心臓を抉り取るモノとして使われていたそうだとか。
この石は、どれだけの生き血を吸い込んここまで存在し続けたんだろうな、と。
俺は、そんなことに思いを馳せるのだ。
聞くところによれば、そのアステカ文明が栄えたのはこの『黒曜石』が豊富に採れたおかげだとも言うらしいじゃないか。
.....,.所謂“信じられない情報源”からだけれども。
しかも、黒曜石は人や獣を殺すためだけに使用された訳じゃなく...植物果ては人の命に繋がる食物まで育てる栄養分になったんだとか。
そして、人を人たらしめる...文化や宗教に使われる宝飾物にも使われていたそうな。
そんな魅力の放つ“石”が託された言葉は『摩訶不思議』らしいなw
何でも、人の“負のパワー”を吸い込み生の力と変換してくれる...という。
俺はそこまで調べて、興味を失い;...手に持った現代の依代をポイと投げ捨てて今目の前で煙草を吸い込み紫煙を吐き出す“黒曜石”へぎゅっと抱きついた。
...何でもねぇ顔して、どれだけの“負”を浄化し続けできたのだろうか、とどの口が言うんだと言われても仕方ねぇ厚顔無恥なこのツラを下げて見上げる。
癒してやりてぇ。叶うなら。
叶うなら…届くなら。
最大限の哀れみと同情と、混じり気のない尊敬を込めて。
.,...でも、それは、叶わねぇし、適わねぇ。
俺は、対極に位置する魂だから。
そう思ったところで、届くわけは無い。
分かっていながら、願うんだ。
俺に“愛”なんて分からねぇ。
そんなモン、形の無ぇ信用出来ねぇもんだと思ってる。
それでも。
愛おしい、てのはこういうものなのかと...甘ったるい煙に巻かれて思うんだ。