木犀花 街へ出る途中、金木犀が香る季節になった。匂いはすれども姿は見えなくて、しばし辺りを見回す。木造建ての家の庭に立派な木を見つけて、いつもとは違う道順を行く。
まだ咲き始めの花はそれでもいくつか身を落としていて、革靴で踏まないようにゆっくり歩いた。
「おっ、カラ松おけーりー。今日のフリーハグとやらはどうだったぁ?」
テレビ画面に向かったまま視線だけ寄越したおそ松が言う。
「……フッ。今日もカラ松ガールズたちはシャイガールばかりだったようだ」
「はいはい、あいかわらずゼロね~。んーじゃ立ってるついでに布団取り込んできて」
「おまえが頼まれたんじゃないのか」
「頼まれたけど~。干すのはやったから取り込むのは任せていいっしょ?」
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