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    人格マンション

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    或る父娘の話その6

    ##SotN

    メドゥーサ昼下がりの黒衣森、炎の壁はいつにも増して熱せられていた。隔てんとしているのは、朱く大きな刃を振り回す朱い青年。

    「お前さえいなければ…殺してやる!」
    「待ってくれ、私が何をしたと言うんだ」
    「何もしてねぇさ…何もしてなくても駄目なもんは駄目なんだよッ!」

    女が青年にエンカウントしたのは数分前。グリダニアの青狢門を通りカーラインカフェへ向かっていたところ、向こうから歩いてきた青年が、突如表情を強張らせて近寄って来たものだから何かと思えば、背負っていた大きな鎌を振りかざしてくるのだから当然逃げる。門兵に何事かと声をかけられるもまともに返せず、追われるまま逃げ続け中央森林の南はタムタラの墓所あたりまで来てしまった。

    「せめてわけを話してもらえないか、悪いが私も犬死するつもりはない」
    「お前に語ることなんかねぇ!疾く死ねや!」
    「反撃してもいいのか」
    「あ?!」

    話をするつもりもなさそうな青年に女が炎の壁の向こうから言うと、剣幕はそのままにぴたりと動きが止まる。

    「…何でそんなこと聞く、殺そうとしてくる奴に反撃しねぇほうがおかしいだろ」
    「だが、私は別にあなたを殺したいわけではない」
    「反撃しなきゃ死ぬんだぞ、犬死するつもりがねぇなら余計に」
    「だから話をさせてくれと言っているんだ、仮に私が反撃してあなたを殺してしまったらどうする」

    そこまで言われて青年は高らかに笑う。乾いた笑いだった。女に似て無愛想かと思われたが、表情筋は死んでいないようだ。むしろ鮮やかに見える。

    「俺がお前に?ありえない、俺は『狩る者』だぜ」

    青年がそう言うとあたりを黒い霧が包み込んで、次第にローブを被った人の形のようになっていく。見覚えがある。死霊だ。白くのっぺりとした面がいくつもついたその霊は、青年の周りを水が流れるように飛び回る。しかし暗黒騎士というわけでも召喚士というわけでもなさそうである。

    「…なるほど、そちらも風変わりというわけか」

    ぐるぐると渦を巻くような流れにのせて霊は女に飛びかかる。ローブの下から鋭い爪が覗き、赤い光とともに斬撃が伸びていく。女も火炎を上げてそれを防ぐが、青年もまた鎌を振り回す。二対一は分が悪い。

    「なぁに楽しそうなことやってんだァ!」
    「!」

    額を汗が伝った瞬間声がする。頭上を見上げれば、眩しい太陽の向こうから人影が飛んでくる。女のすぐそばに着地したのは、赤毛の男だった。

    「Chirobura!」
    「水くせえじゃんか、俺も混ぜてくれよ」
    「っ…」

    暫く別行動していたものだから久々に顔を見た。相変わらず顔だけはいい。元気そうで何よりである。しかし男が現れるなり青年は動きを止め、二人の様子をじっと睨みつけるばかりで何もしてこない。

    「…?どうした、話をしてくれる気になったか?」
    「…お前とする話なんかねーんだよ」

    急にしおらしくなった青年はそう言うと、亡霊とともにふっと姿を消した。話に聞くアシエンなるもののように跡形もなくだ。殺意を剥き出しにしていた割にはあっけない。

    「なんだよ、フェアな戦いはしねえってか」
    「…助かった、ありがとう」
    「何もしてねえけどな」

    男はつまらないと言わんばかりに槍を背負い、頭の後ろで腕を組む。黒衣森にいつもの穏やかな空気感が戻ってきて、じんわりと暑い太陽が目立つ。もうすぐ夏だ。

    「で?アイツ誰?」
    「分からない、顔を見るなり跳びかかってきたから逃げていた」
    「ハ?やば、お前人気者だな」
    「いや…」

    女は青年の顔を思い出す。動きが止まって睨みつけてきたときの顔だ。どことなく物悲しかった。何か堪えているように見えた。女はあの顔を知っているように思えた。

    「…彼についてもっと知る必要がありそうだ、情報を集めて、必要であれば何かしらの対処をしなければならない」
    「…俺も何かそれっぽい話があったら覚えておくよ」
    「珍しいな、面白そうだからか?」
    「悪かったって」
    「ふふ、冗談だ」

    クスクスと笑う顔としぶそうな顔。見慣れた。女がグリダニアに戻ろうと足をすすめると、男もその後ろをついてきた。

    「なぁ、何か困ってることないか、欲しいものとか」
    「どうした?心配してくれるなんて珍しい」
    「…俺がしてやれることって、それくらいしかないから」

    随分消極的に思えた。出会ってすぐの強気で傲慢で計算高い彼とは思えない。女は少し驚いて振り返る。すぐそばをついて歩いていた男は見つめられてピタッと動きを止める。さっきの青年みたいだ。

    「そんなことはないだろう、何事も助け合いというものだ」
    「でもお前は強い、俺がいなくても、普通に一人でどうにか出来る」

    不安、という言葉がしっくり来た。男は女を心配し、不安に思っているのだった。根無し草のようにあちらこちらしてしまう女を、同じような男が心配に思うなど、笑ってしまうようではある。でも男にとってそういう存在になっていたということが、女には少し嬉しかった。

    「勿論だ、私はそうやって生きてきた。でも私には護るための強さはない。生き残るための強さはない。あなたがいないと、私は”勝つ”事ができない。分かるだろう?」
    「…それがパートナーってやつだ」
    「あぁ」
    「…俺は、お前に必要か?」
    「あぁ」
    「それは俺が」
    「Chirobura」

    その顔はやめてくれ。そんなつらそうな顔をしないでくれ。そうして自分を追い詰めることは、しちゃいけない。いや、してもいい。でも気づいてくれ。一人ではないのだということに。

    「私には"あなた"が必要だし、あなたには”私”が必要だ。だから私は、きっとここへ来た」

    ずっと一人だったんだ。だから寂しかったんだ。寂しさをごまかすために強くなって生きるのが上手くなって、でも男の隣にもう一人並ぶ背中があって、もっと寂しくなった。手が届く場所にいるのに、どこか隔たりがあるように思えた。
    きっと、彼もそうだ。

    「確かに私は父が大事だ。あの人を護れるようになりたいと願った。あなたの元にたどり着いたのも、初めは私の願いを受け入れた神様が間違えたか何かだろうと思っていた。でもそんなのは私の取越苦労だったというわけだ。父は強い、私がいなくても、普通に一人でどうにか出来る」
    「…」

    所詮エゴだ。どうせそうだろうと、たかをくくっているだけだ。そうであってほしいと、願っているだけだ。こんな自分には価値がないと、そう思うための材料がほしいだけだ。そうしたら、こんなひどい世界に諦めがつくはずだろうから。

    「でも、それでも、私は側に立つ誰かを護りたかった。こんな私の側に立ってくれる、優しくて不器用で寂しがりな誰かを。それが結果的に、あなただったということだ」
    「…そっか」
    「それに、本当に面倒だったなら断れただろう?私があなたに組んでくれと言ったとき」
    「…そうだな」

    心底安心したように笑った。あぁ、その顔だ。いつまでも隣で笑っていてくれ。私ができなかったぶん、あなたが───


    ***


    『zhu-yan、どうして逃げたの?』
    「…あいつは、苦手だ」
    『赤毛の彼?確かに、とても強そうだったわね』

    本だらけの机に突っ伏して、天窓から漏れる光を浴びる。青年はクリスタリウムの博物陳列館にいた。その周りをウロウロと飛び回りながら時折覗き込んでいるのは、黒いローブ姿のような亡霊。

    「違う、そうじゃなくて…アレの父親だろ」
    『でも肉親じゃないわ、彼女の元の世界でのお父さんと同じイロということよ』
    「余計にだ、血のつながりもないのにあんなに…仲良くされちゃ、居た堪れない」

    机の上の本を一冊一冊本棚に丁寧に戻しながら、亡霊は青年の話を聞いていた。この亡霊こそが、青年の唯一の肉親だった。

    『でもあの子にとって彼は他人と言うにはあまりに近すぎるわ、彼を探してこちらへ来てしまうくらいだもの』
    「アレ、俺の…というか、自分のことなんか、見えてないんだろうなどうせ、どうせあいつはそういう奴だよ、大事な人のことしか見てない、俺と同じ、自分なんかどーでも…あーくそ、腹立ってきた」
    『お紅茶でももらってきましょうね』
    「…お願い」

    亡霊がくすと笑ってどこかへ飛んでいく。一人になった青年は顔を上げて眩しい方を見る。ほんのりと舞う塵が光を受けてキラキラと光る。

    「…ぜってー殺してやる」

    ほんのりと紅茶のいいにおいがする。これが全てを奪われた青年の唯一の故郷だった。奪ったのは紛れもなく、同じイロを持つあの女。

    「俺から全部奪っていきやがって、家族も居場所も、俺が持たないもんばっかり持ちやがって、許さねぇ、絶対」
    『そんなに血が上ると顔まで赤くなるわよ』

    顔に影を落とす。白塗りの隙間から朱い髪がこぼれ落ちる。

    「母さん」
    『はいどうぞ、少し熱いかもしれないわ』

    湯気立つ紅茶の中に、その朱色は滲んで溶けていった。
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