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    人格マンション

    できた:ふつうの
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    過去絵を晒す:げんみ
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    或る父娘の話その11

    ##SotN

    Drag/on「お前、その痣って怪我じゃないよな」
    「ん?」

    鮮やかなサベネアのメリードズメイハネの隅の席に、場に似つかわしくない暗い色合いの二人組が座っている。
    一人は酒をあおり、もう一人は武器を手入れし、この日は特に何をするでもなくゆっくりとした時間を過ごしていた。

    「頬のやつ」
    「あぁこれか」

    槍の手入れをしていた女は左頬に触れる。

    「こちらに来てからずっとだ、治る気配がないから怪我ではないのだろうとは思うが…支障もないのでそのままにしていたな」
    「死ぬ前はなかったのか?」
    「あぁ、むしろ昔は右瞼に引っかき傷があったんだ。アイルー…まぁミニオンみたいな子がいて…」

    過去を思い出す女はふっと柔らかい笑みを浮かべる。じくりと頬の痣が蠢くのを見て、赤い青年は頬杖をついた。

    「何で急にその話を?」
    「や、別に」
    「…そういえば、Zhu-yanの頬にも痣?があるな」
    「よく気づいたな」

    今度は朱い青年が頬を撫でる。ミコッテの模様にも似た三本線が薄らと両頬を走っている。

    「生まれつきだ、多分な」
    「私のこれも生まれつきということになるんだろうか?」
    「ただの痣ならまだしも…お前の、出たり消えたりするじゃねーか」
    「あぁ、調子にあわせて変わるといったところだ。体質といったほうがいいか?」

    そんなふうに何気なく話をしていた二人は、各々の諸作業を終えメリードズメイハネを後にする。都市内を突っ切って、ランディングの辺りにやってきたとき、都市を彩る赤石に似た色が二つあった。

    「火竜!Chiroburaまで、こんなところでどうしたんだ」
    「お、噂をすればなんとやらだな」

    飛空艇の横には、大きな翼を畳んだ竜の王者と、その嘴を撫でる男が立っている。

    「街の外でこいつに会ってよ、お前を探してるみたいだったからここで一緒に待ってたんだ」
    「そうなのか…火竜は私に用事があったんですか?」
    『ーーー、ーー』
    「話したいことがあった?なるほど」

    女と火竜が顔を合わせている横で、男はふと視線を逸らす。朱い青年は目があったのに気づいて帽子を目深に被った。

    「久々だなZhu-yan、元気にしてたか?」
    「ご機嫌取りのくだらねぇ会話はよせ」
    「ご機嫌取りはともかく、くだらねぇとは随分な口だな」

    腕を組んだ男がニヤリと笑む。朱い青年はこの男がどうも慣れない。

    「俺はお前と馴れ合うつもりはない」
    「おい、目を話せばすぐ喧嘩をするな」
    「「喧嘩じゃない」」

    口をそろえてしかめた眉で女を見つめる。ぐぁ、と火竜が呆れたように吠えた。

    「それで火竜、その話は本当なんですか?」
    『ーー』
    「話ってのは何だったんだ?」
    「俺たちには話してくれねぇのか?」

    先程までいがみ合っていた二人は、今度は肩を並べて女に食いついてくる。ここで火竜の言葉を理解できるのは女だけだ。

    「いや、話してはいけないわけではないが…話してもいいですか?」
    『ーー』
    「ありがとうございます…では誤解がないように話すとしよう」

    赤い集団はそのまま都市を出て、熱の籠る森を通り抜けていく。

    「火竜がたまたま、小さいころに自分の母親から聞いた話を思い出したらしいんだ。彼の母親は私と火竜のように、人間の女性と心を通わせていて、その血を分けた仲だったと」
    「血を分けた?」
    「ああ。火竜は当時それを仲の良さの例えだと思っていたが、イシュガルドの異端者の話を知って、比喩ではなく本当に血を分けたのではないかと思ったらしい」

    竜詩戦争の傍らにあった、竜の血を飲み堕ちた人間の話。それが血を分けた竜と人間の昔話に重なって、世界と思いが違えばこうも違ったかもしれないと、ふと思った。

    「極めつけには、火竜が母親から聞いたらしい人間の女性の名前が、私が父から聞いていた私の母親の名前と一致する」
    「ほぉ」
    「子供である私と火竜がお互いの言葉を理解できるのも、母親が血を分け合っていたからと考えればあり得ない話でもない」
    「お前の存在を追ってこれたのにも一理あるな」
    「だろう?」
    「お前ら…自分たちが世界一つ越えたからって対応力が高すぎやしないか?」

    男はこの世のものではないものを見るような目で二人を見た。

    「こいつは二つも超えてんだぞ、俺と一緒にするな」
    「別にそんなつもりはないけどよ」
    「そういえばChiroburaは、火竜が私を探していたと知っていたが…どうして知っていたんだ?」
    「え?いや、何かモノ言いたげな感じで鳴いてたから、こいつっつったらお前かなって…なんとなくだ。何言ってるかまでは分からんぞ」
    「…そうか」

    女は火竜を見上げてその鼻先を撫でる。火竜はじっと女を見つめ返した。

    「何だよ」
    「……父も、火竜が話す言葉を聞くことはできなかった。でも、顔や声でなんとなく分かると言って、話をしていることがあったんだ。…似ているなと、思って」

    女がしりすぼみにこぼす。父親の話をすると男が嫌がるかもしれないと思ったようで、俯いてそのまま黙った。

    「…ま、どれだけ嫌がっても似ちまうところはあるだろうな」
    「だが」
    「そんな気にすんな、大したことねぇ。きっと、子供が親に似るのと同じだろ」

    振り返った女の肩に、男は手を置いた。いつにもまして穏やかな顔で、女はそれを見上げて唇を噛んだ。

    「お前たちと過ごすようになって、俺も色々変わってきたよ。ちょっと前は自分さえ良ければそれでいいって思ってたけど…お前らがしんどいとき、俺も何かできたらいいなって思うようになった」
    「…私が、他人でもか?」
    「もう他人じゃない、相棒で…友達だろ?」

    竜と人、死霊と人、人と人、もともとは住む世界すら違った存在が、巡り巡って今、こうして隣り合っている。偶然のようで、必然のようで、運命のようで、奇跡のようで。

    「話せなくても分かり合える、聞こえなくても寄り添える、違ってても肩を並べられる…そういうのは、お前たちが教えてくれた」
    「フン」
    「おいZhu-yan、その“ようやくか”みたいな顔やめろよ?」
    「俺は何も言ってねぇ…」

    青年は腕を組んで男を睨む。それから女の方をちらと見て、満足そうに笑った。

    「Chirobura」
    「ん」
    「…ありがとう」

    嬉しそうに微笑んだ女の頬は赤く染まっていた。
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