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    Ordet_er_frit_

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    [ホブモル]例のパブで年越しをするホブとモルフェウスのお話。なぜかコリント人もいます。むこうの年越しといえば花火、カウントダウン、そしてキス…。
    イギリスで年越しに歌うAuld Lang Syne(蛍の光)が二人にぴったりだなあ、と。

    ##サンドマン
    ##ホブモル

    Auld Lang Syne 古き友、新しい年 なみなみとつがれたビールの泡が静かに弾ける。
     その向こうから覗くのは百年に一度眺めてきた笑顔。ここはいつものパブ。だが、今日の日付は「その日」ではない。もっと言えば、今年は最後二桁が89で終わる年ではない。
     あと数時間で、その最後の一桁も次の数字に歩を進めようとしている。パブは、友人たちと年越しをむかえようという客で賑わっていた。
    「年越しなんてもう飽き飽きしただろう? ホブ・ガドリング」
     モルフェウスが言うとホブはジョッキを置いて指先でトントンとテーブルを叩く。
    「そうだなぁ、もうざっと——」
     言いながら考えるように指を折っていく。
    「その指一本が百年か?」
    「まあそんなとこだ」
     だがモルフェウスがじっと見つめているのを見て、おっと、というように人差し指を上げる。
    「言っておくが、何百回やったってまだ飽きてないからな」
    「……本当にお前のそのしぶとさには感心する」
     わざとらしく憮然とした表情のモルフェウスにホブはニヤリと笑う。店のテレビでは今年を振り返る映像が流れている。疫病、天災、戦争——何百年もこんな繰り返しなのにまだ生きたいというのは、モルフェウスにとって単純に謎でしかなかった。
    「今年もいろいろあったな。だがこれだけ年を重ねると——」ホブは秘密をうちあけるように狭いテーブルごしに顔を近づけ小声になる。
    「一年なんて一日みたいなものさ。悪い日があってもその次は良い日になるかもしれないと思うだろう? それと同じさ。悪い年があったって希望を失ったりしない」
     そう言うと、今度は背もたれにぐっと背をあずけた。
    「それにしても驚きだったよ」
    「なにが」
    「いや、ここで今日こうやって会えるなんて」もう半分ほどに減ったジョッキをまた手にとる。
    「昨日夢を見たんだ。誰かと話してて、年越しの話になって…一緒に過ごしたい人はいるけど名前も連絡先も知らないって言ったんだが——」
     考えるように言葉を切る。
    「不思議と誰と話してたかも思い出せないんだなあ。誰か良く知っている人だったんだけど」
     まぁいつかの時代で会った人だろうな、と呟く。
    「で、なんとなく今日ここに来てみたら、君が店の前の通りに突っ立ってた」
     微動だにせず見つめているモルフェウスを見る。
    「用事があって通りかかっただけだ」
     目を逸らして言い訳するモルフェウスに疑問を覚えない程度には、ホブの顔も赤くなってきている。
    「嬉しいよ」
     ホブは真っすぐに見つめてそう言った。しばし流れた沈黙は温かかい。モルフェウスの頬も緩む。
    「そういえば夢といえば——」と言ったところで、ホブはモルフェウスからすっと横に視線をずらした。
    「なあ、ところで、さっきからずっとこちらを見てる人がいるんだが」
     その言葉を聞いてモルフェウスの目がすっと細くなったかと思うと、海も掘り返せそうなほど大きな溜息と共にゆっくりと斜め後ろを振り返った。その視線の先でベージュのスーツの男が席から立ち上がった。
    「これはこれは、ご一緒させてもらってもいいかな?」
     呼ばれてもいないのにやってきた男は、すすめられてもいないのに、引きずってきた椅子をドンと置いて、向かい合う二人の脇に座った。
    「やあ、ホブ・ガドリング。私は彼の有能なる——」
    「単なる仕事仲間だ」モルフェウスが冷たく遮る。「なぜここにいる」
     夜なのにサングラスをかけたこの男は、青く燃える炎のような目で睨みつけられても、にやにやと笑っている。ホブは二人をかわるがわるに見た。男は琥珀色のウィスキーが入ったグラスを軽く上げた。
    「どうぞ、私には構わず話を続けてくださいよ」
     ホブは少しの間何か聞きたそうに男を見ていたが、男の登場によって険しい顔で口をつぐんでしまったモルフェウスのほうに顔を戻した。
    「なんの話だったっけ…ああそうだ、夢。このあいだ聞いたんだが、遠いアジアの国では、新年に初めて見る夢に出てくると良いものが三つあるらしい」
    「三つ?」モルフェウスも脇の男は無視することに決めたらしくホブの話に耳を傾ける。
    「ああ、確か一番いいのがその国で有名な山で、次が鷹、あとは——あ、そうだ、茄子」
    「ナス?」思わずモルフェウスが聞き返す。
    「そう、山と鷹と茄子。そのどれかの夢を見るといいことがあるらしい——どうした?」
     それでかと何か納得したように小さく呟きながら天井を仰いだモルフェウスをホブが訝し気に見たが、そのとき
    「カウントダウンだぞ!」店内でだれかが叫ぶのが聞こえた。みなの視線がテレビ画面に集まる。「5、4、3、2……」
     1の掛け声に続いて歓声が狭い店内に響く。隣の者とグラスを合わせる音。テレビから流れる花火の音。
    「ハッピーニューイヤー!」
     ホブもジョッキを持ち上げて叫び、そして彼はぐっと前に身を乗り出した。
     彼の唇がモルフェウスの唇に重なる。だがそれは一瞬で、すぐに何事もなかったかのように席に腰を下ろした。背筋を伸ばし手をテーブルの上に揃えたまま、石像のように見つめ返すモルフェウスを見て、ホブは少し気まずそうにジョッキを置いた。
     静かに一部始終を見ていたスーツの男は、何とも言えない笑みを浮かべながら祝福するようにグラスを小さく掲げると、最後の一口を飲むと立ち上がった。
    「では、私は失礼しますよ。どこかの物好きな国民のために、茄子に追いかけられながら鷹に襲われて山から落っこちる悪夢でも仕込んできますので」
     そう言い残し、盛り上がる客たちの向こうに消えた。
    「悪夢を仕込む?」ホブが笑いながら怪訝そうに眉を寄せる。「彼はいったい——」
    「ホブ」そういうとモルフェウスはすっとホブの顎に手をのばし、そして一瞬迷ってからその頬にそっとキスをした。ホブの瞳が嬉しそうに輝く。
    「いやはや、君には驚かされるよ」
    「仕掛けたのはそちらだろう。私は返しただけだ」
     そう言いながらもモルフェウスの口元に得意げな笑みが浮かんだ。
     窓の外からもかすかに花火の音が聞こえる。
    「来年は、見に行かないか? ここからそう遠くない」
    「来年?」モルフェウスが言った声は、華やかな花火が終わり、歌いだした周りの声にかき消される。
    「この歌、俺たちのためにあるみたいな歌だよな」
     ホブが楽しそうに笑い、客たちの合唱に合わせて歌いだした。古い英語だが、もちろん発音は完璧だ。

      いまここに、我が親友の手がある
      いまここに、我らは手をとる
      良き友情の杯を飲み干そう
      古き昔のために

     木のテーブルの上で、モルフェウスの細い手をホブの温かな手が慈しむように包み込んだ。
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    Ordet_er_frit_

    DONEフォラクレのクリスマス話。ドイツの小さな街にて。
    なお、アンティ…が成功したIf設定です。
    Stille Nacht ~静かなる聖夜~ 雪混じりの冷たい寒風が、クレーバーを嘲笑うかのように吹き抜ける。
     耳が千切れそうな冷たさに、帽子を忘れたことを激しく後悔する。だがクリスマスイブには店も開いていない。
     クレーバーは鼻をすすった。ふと、人前で鼻をすするのはやめなさいと博士に言われたことを思い出す。
     だが、もうここに博士はいない。
     もう一度、派手に鼻をすすると、冷たい空気が脳天を突いた。馬鹿だった。
     だが冷たい空気と一緒に、甘く香ばしい香りが鼻をくすぐった。クンクンと探る。たぶん、これは広場の方だろう。あてもなくフラフラしていた足は、突如目的をもってサクサクと雪を踏みしめた。
     街の広場には、一応クリスマスツリーが立ち、クリスマスのデコレーションがされている。見回すと匂いの元はすぐ見つかった。広場の片隅の小さな移動屋台。暖かい明かりの元、大きな銅鍋の中で、ローストアーモンドがかき混ぜられている。クレーバーは引き寄せられるようにそちらへ歩いていった。店員が、コーン型にした包み紙に、砂糖をたっぷり絡めたアーモンドを入れて客に渡している。前のカップルが嬉しそうに受け取って離れていくと、店員がクレーバーへ視線を移した。
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