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    Ordet_er_frit_

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    [コリモル] ネコのモル様とキツネのコリ人(人じゃないけど)です。ネコとキツネがじゃれ合っているだけで特に何も起きません。

    ##サンドマン
    ##コリモル

     右へひとつ、左へふたつ。
     体を柔らかくしならせ、軽やかにジャンプ。着地した慎ましやかな足先が浅い雪に小さな穴をあける。
     冷たさも気にならないくらい気持ちがいい。しばし立ち止まって、低い太陽に向かって目を細める。こんなに気持ちが弾むのは、この先でお宝が待っているからだ。俺の大好物。大きくて新鮮な——
     ──シカの目玉。
     昨日、森でまだ新鮮なシカの死体を見つけたのだ。肉をいただいた後、俺は上手に爪を使ってその目玉を取り出した。他のキツネたちは、目玉なんて食うのかと鼻で笑う。だがあの弾力がある口当たりは最高だ。しかもめったに手に入らない。一つをたっぷり堪能したあと、もう一つを地面に埋めておいたのだ。
     サクサクと黒い足先で雪を踏みながら歩くと、大きな木の下に着いた。はやる気持ちを抑えながら雪と土を掘り返す。だが、しばらく掘ったところで前足を止めた。
     おかしい。
     少し場所をずらして掘る。だがそれも無駄だった。
     ない。ここに埋めたはずなのに、忽然と消えている。
     場所が間違っているはずはない。俺が獲物を埋めた場所を間違えるなんて、夜に太陽が出るくらいありえないことだ。他のキツネが盗ったのか? スラリとした鼻先をつっこみ地面を嗅ぐ。他のキツネの匂いはしない。いや、まて——。
     だがそこで突然気配を感じた。顔を上げる。耳をピンと立てて鋭く左右を見回すと、遠くのネズミの動きも見逃さない俺の目は、離れた木立の後ろに黒い何かが立っているのを見つけた。
     なんだあれは? じっと見つめていると、それはゆっくりと姿を現した。
     ネコだ。全身が夜の闇のように真っ黒なネコ。
     ネコを見たことはある。たまに森から少し下って、人間が通るところまで行くことがあるからだ。俺が前足を揃えて腰をおろしていると人間たちは俺の美しさに寄ってくる。気分が良ければ撫でさせてやるが、一番楽しいのは、近づいてきたところでカッと口を開いて威嚇することだ。俺の豹変ぶりに、あの大きな体の奴らがネズミのように怯えて逃げていくのは面白くてしょうがない。
     でもそうやって遊びながら、たまにふと思うのだ。もしあの二本足の動物だったら、どんな感じだろう。クマにもシカにもなりたいとは思わないが、あの人間というのは自分たちと全く違う世界を見ている気がした。そんなことを考えながら人間を見るのが好きで、俺はしょっちゅう森から下りて行っていた。だからネコだってよく知っている。
     だが、こんな森の奥深くにはネコはいない。
     警戒しながら見つめる。するとネコはこちらへ一歩踏み出した。その時俺は、そのネコが口に咥えているものに気づいた。
     あれは、消えた俺の目玉じゃないか。
     さっと全身の毛が立ち上がる。体を回し、ネコの方に向き直る。
     細くまっすぐに伸びた美しい前足をゆっくりのばし、その長さを見せつけるように前に置く。交差させるようにもう片方。己の肢体の力強さを見せつけながら、ゆっくり歩を進める。だが、向こうも怯む気配はない。それどころか、悠然とこちらに近づいてきた。
     お互いの鼻が触れそうな距離まできたところで、俺は目を細め、低く唸った。だが、ネコは怯えもせず、ポンと目玉を俺の前に置いた。
     少々拍子抜けしながらも、さっと前足で目玉を押さえ、もう一度鋭く唸る。
     さっさと失せろ。
     だが、ネコは黄色い目玉でじっと見つめたまま動かない。
     腹の立つヤツだ。俺は顔を突き出し、ぐわっと大きく口を開けた。
     キツネどうしなら、口を大きく開けたヤツが勝ちだ。俺より一回り小さい。この丸顔野郎に勝ち目などない。
     だが、その途端ネコの口が大きく縦に開いた。真っ白な牙にピンクの口内。その奥には飲み込まれそうな闇が広がっていた。この小さな体からは予想外の迫力に思わず怯む。
     だがそれは一瞬で、ネコは何事もなかったかのように口を閉じた。
     混乱した頭で、俺は考えた。さて、どうしたものか。
     力づくで追い払うか、さっさとどこかへ行くか、ここでネコなど無視して目玉をいただくか。
     しかし先に動いたのはネコの方だった。
     優雅に脚を踏み出し、立ち尽くしている俺に体を摺り寄せてきたのだ。すれ違うようにネコの毛皮が俺の体を撫でる。同時にその下の体温を感じる。お互いの体がぴったりくっついたところでネコは脚を止め、頭を軽くおれの腹に擦りつける。しなやかに動く筋肉を感じた。
     俺の魅力的な体は、いつだって他のキツネたちを魅了する。だが、そんなどのキツネの体とも違う独特の感触に、俺の心臓がどきりと跳ねた。首を回しその体を見つめる。俺の鼻と同じくらい艶やかな黒い毛皮が、その動きに合わせて陽の光を反射する。目の前で、ピンと立った長く細い尾がゆれた。俺はその付け根にそっと鼻先を近づけた。
     息を吸うと、これまで嗅いだことのないような香りが鼻を通り抜け、背骨を走り抜けるような感じがした。得も言われぬ魅力的な香り。思わずその奥を舌先でそっと舐める。
     その瞬間、黒い体がさっと鋭く動いた。その爪が肩をかすめる。
     跳びすさった猫が、体を低くして下から睨む。痛みを感じたところを舐めると薄っすら血の味がした。むっとして俺はネコに飛びかかった。背中に軽く噛みつくが、するりとその体はすり抜ける。脚を狙おうとしたがこれもかわされた。お互いの脚と体が絡まり合う。
     だが、組み合っていると、なぜかだんだん楽しくなってきた。子ぎつねの時みたいだ。しかし、そこでふと思った。子ぎつねの時?——記憶がない。
     一瞬気を抜いたせいで、軽くバランスを崩した瞬間、ネコの前足が俺の体を押し倒す。振り払おうとするが、ネコはそのまま俺の胴に両足を乗せてきた。小さい体の割に力が強い。
     見下ろすネコと目が合った。その顔はどこか勝ち誇ったような満足げな顔をしていた。不思議なことに、その顔を見た途端、たちまち俺の体から緊張が抜けていった。
     ネコがすっと体を伸ばし、俺の肩を舐めた。しっとりとした舌が触れると、さっきの痛みが消えていった。不思議な気持ちで顔を前足の上に下ろすと、ネコは満足したようにゴロゴロと小さく喉をならし、俺の腹を頬で撫でた。そして前足を伸ばし、ふさふさとした冬毛の俺の自慢の尻尾を撫でた。その動きは、どこか人間が俺を撫でる時のようだった。
     そのまま俺の腹に体をあずけて丸くなる。ネコの体の重みと温かさが心地いい。その黒い体を包みこむように俺も体を丸めた。鼻先でそっとネコを撫でると、ネコも気持ちよさそうにゆっくりと瞬きした。
     こんなに満ち足りた気持ちになったのはいつ以来だろう。さっきまで頭を占めていた目玉のことなどすっかり頭から消えていた。
     深く息を吸う。体の奥底から何かが湧き上がるような不思議なネコの匂い。ゆっくり目を閉じ、そして俺はすとんと眠りに落ちた。

     俺は知らない場所に立っていた。
     なにやらひんやりと寒い。だが、このおかしな感じの原因にすぐ気づいた。
     俺は二本脚で立っていた。恐る恐る見下ろすと地面に置かれているのは不格好で大きな足。そして、いつもなら後ろ足で立ち上がっても叶わない高さからそれを見下ろしている。立っているのは平らな石がずっと続いている場所。横にも真っすぐな黒い壁がそびえ、石がない所から光が入っている。これは人間の住むところだろうか。
     だが、体を見回してぎょっとした。——毛がない。俺の自慢の黄金色の毛が。やっと頭の理解が追いつく。俺の体は人間の体になっていた。
     混乱していると後ろから声がした。
    「どうだ? その体は」
     振り向くとそこに黒い影が立っていた。——あの黒ネコだ。
     いや、正確に言うと、それはネコではなかった。人間の姿をしている。だが、俺はなぜかそれがあの黒ネコだとわかった。人間たちと同じようにひらひらしたものを身に着けているが、それも全部黒だ。後ろに腕を組み、ネコを思わせる動きでゆっくり近づいてくると俺の真横に立った。少し下にある顔が見上げてくる。
    「これは……なんだ…?」俺の口から人間の言葉が出る。
     彼は面白そうに俺の全身を眺めてからまた目線を戻した。
    「人間になってみたかったのだろう? 夢を叶えてやったのだが?」
     私にはそれができるからな、と言いながら彼はもう一歩踏み出し、俺の前に立った。俺はぶるりと体を震わせた。「……寒い」
     全身が、羽をむしられたニワトリみたいだ。とてつもなく無防備だし寒い。
    「おっと、これは失敬」と黒ネコ、もとい人間の彼はそう言うと、すっと手を上げた。すると俺の体は何かごわごわしたもので覆われた。
    「感想は?」
     じっと瞬き一つしない彼の目線から目を逸らし、まわりを見た。確かにこの高さから眺める世界は悪くない。この世界で自分という存在が大きく強くなったように感じる。道理で人間たちが偉そうにするわけだ。だがしかし——
     慣れない体勢に疲れてきたのかバランスを崩しそうになり、思わず前足、ではなく手を目の前にあった彼の肩にのせて体を支える。ジロリと睨まれがそれは放っておいて、俺は自分の左右の手を見た。黒く丸っこかった前足の先は、薄いベージュ色で長く伸びた指がついていた。指を動かしてみるとそれぞれが複雑な動きをする。こりゃいい。これなら目玉をほじくりだすのもラクそうだ。
    「どうした」彼が横目でそれを見つめている。
     片手を肩から上げ、彼の顎から上へなぞるように指を沿わせていくと、指先が黒い毛に触れた。ネコの時より固くて長さも不揃いだ。残念。
     だがそれより、さっきから気になることがある。
    「なんというか……耳が、よく聞こえないんだが」
     いつもなら遠くのネズミの足音だって聞こえるのに、なにやらぼんやりとしか聞こえない。彼はフッと小さく鼻をならし、手を軽く上げた。
    「これでどうだ?」という声が今度ははっきりと聞こえた。手を頭の上に持ち上げると、慣れた感触があった。少しばかりほっとする。
    「あと……」首を回し、後ろをみる。さっきからバランスが悪いと思ったら案の定だ。
    「俺の尻尾も」
     大きな溜息が聞こえたのと同時に、ふさふさとした立派な尻尾が現れた。
    「へへっ」左右に振ってみる。ばっちりだ。
    「贅沢な奴だ」あきれたように目を細める彼の首に顔を近づける。親愛の情を示そうと首元を甘噛みしようとしたが、なにか違う。目の前に長い鼻づらがない。だがスンスンと息を吸うと匂いは何とか感じた。薄っすらとなのは相手がネコじゃないからか? ネコの時と同じ匂いとそうじゃない匂いが混じり合っているような香り。
    「どうした、鼻もいるか?」
     彼がぐるりと首を回すと目の前に顔がくる。近い。そうか、鼻の長さがない分近いのだ。ペロリと小さく口を舐める。
    「いや、これでじゅうぶん」
     慎ましやかな鼻先を彼の鼻に摺り寄せる。その時、たまに人間たちがやっていることを思い出した。なるほど、と小さく笑う。俺は小さく口を開け、そっと顔をずらした。

     ゆっくり目を開けると明るい太陽の光が目に入った。はっと体を起こす。何かとても良い夢を見ていた気がする。思い出そうとしたところで、眠りに落ちる前のことを思い出した。俺の腹で丸くなっていたネコがいない。
     その時、小さな鳴き声が聞こえて振り返った。数歩離れたところにあの黒ネコが立ってこちらを見ていた。立ち上がってそちらに行こうとすると黒ネコはすっと背を向けて歩きだした。
     待ってくれ——。なぜか、行ってほしくなかった。黒い後ろ姿を追うが、驚くほどどんどん遠ざかる。耐えきれず短く鳴くと、ネコはぴたりと脚を止めて振り返った。俺も止まる。
     また会えるから安心しろ。なぜかそう言っているように感じた。
     ネコはまた前を向いて優雅な足取りで歩きだした。ピンと立った尻尾が草むらの向こうに消えていく。
     ——お前は私の最高傑作だ。どの姿でも。
     頭の中ではっきりとそんな声が聞こえたような気がして、俺は眩しい光に目を細めた。

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    Ordet_er_frit_

    DONEフォラクレのクリスマス話。ドイツの小さな街にて。
    なお、アンティ…が成功したIf設定です。
    Stille Nacht ~静かなる聖夜~ 雪混じりの冷たい寒風が、クレーバーを嘲笑うかのように吹き抜ける。
     耳が千切れそうな冷たさに、帽子を忘れたことを激しく後悔する。だがクリスマスイブには店も開いていない。
     クレーバーは鼻をすすった。ふと、人前で鼻をすするのはやめなさいと博士に言われたことを思い出す。
     だが、もうここに博士はいない。
     もう一度、派手に鼻をすすると、冷たい空気が脳天を突いた。馬鹿だった。
     だが冷たい空気と一緒に、甘く香ばしい香りが鼻をくすぐった。クンクンと探る。たぶん、これは広場の方だろう。あてもなくフラフラしていた足は、突如目的をもってサクサクと雪を踏みしめた。
     街の広場には、一応クリスマスツリーが立ち、クリスマスのデコレーションがされている。見回すと匂いの元はすぐ見つかった。広場の片隅の小さな移動屋台。暖かい明かりの元、大きな銅鍋の中で、ローストアーモンドがかき混ぜられている。クレーバーは引き寄せられるようにそちらへ歩いていった。店員が、コーン型にした包み紙に、砂糖をたっぷり絡めたアーモンドを入れて客に渡している。前のカップルが嬉しそうに受け取って離れていくと、店員がクレーバーへ視線を移した。
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