夏の暑い日に獅郎と雪男と3人で公園で遊んでたんだけど遠くの木の下の地面に落っこちてた雀を見つけて暑いからと掬い上げて木の上に戻そうとしたら暴れたか木に登る時に握り締めちゃったかで誤って縊り殺しちゃった燐が、殺したとは思ってないけど「動かないから自分がまたなんか良くないことしちゃたのかな…」と焦って、獅郎が呼びに来るんだけど自分のしたこと知られて怒られたくないし嫌われたくないから思わず逃げて身体能力高いから普通は子供が来れないような屋根の上とかに隠れて雀がちゃんと起きてくれるように体調崩した雪男を獅郎がさするみたいに死んだ雀を優しく擦ってるんだけど、日を遮るものがないから暑いなと思ってたらふと日陰ができて見上げると見覚えの無い人がそこにいて、こんな暑い中なのに長袖着てるしヒーローみたいなマントたなびかせてそれが日陰になってるんだけど絶対暑いのになんでこんな着込んでるんだろうとか誰だろうなんでこんな所にいるんだろう、シルクハットも被ってて逆光になってるから顔もよく見えなくてなんか変な人だなと思ってたら「あらあら殺しちゃったんですか?」とか言われてあんまり意味の分かってない燐が首傾げてたら「それですよ」と自分の持ってる雀を指さされてドキッとする、「わかんない、うごかなくなっちゃった、おきないんだ」と言うと「起きないでしょうね、死んでいるのですから」とか言われてよく分からないけど自分が多分とんでも無いことしちゃったんだろうなと思って落ち込んで、「おじさん、なおせない?」と差し出すけどおじさんはクスクス笑って「無理ですねぇ」「ムリなの?どうしても?」「どうしてもです」っていうので燐はやっぱりしょんぼり落ち込むんだけどおじさんは教育に悪いおじさんだから「その雀は二度と起きませんし、動くことはありません。それが死ぬということですから」ってクスクス笑って追い打ちかけて燐は泣きそうな顔をする、「どうしよう、俺がこの子うごかなくしちゃった、ひどいことしちゃったんだ、ごめんなさい…」と言うのに、おじさんは「それが何か問題ですか?」とか言う、燐がちょっとべそかきそうになりながらよく分からなくて首を傾げてたら「命は平等ではないのですよ。名も無きこの雀は、死と隣り合わせの厳しい野生の世界に生まれ落ち生きてきて、そして貴方に捕まって死んだ。でもこの雀の死を顧みる者など殆どいないでしょう、親鳥ですらとうに見限っているかもしれない。でも人間は違いますね。人間の死は社会の中で尊厳を以て扱われる。勝手に生まれることも死ぬことも許されない。なぜなら人間の命はこの社会の中では何よりも尊ばれるからです。そして貴方には貴方を顧みる者が多くいる。そんなちっぽけな雀とは比較にもならない」とおじさんは長く愉しそうに話すけれど燐にはちんぷんかんぷん、「わかんない…」というと、おじさんはやっぱり笑って「そんな雀の命など大事ではない、ということですよ」というので、燐は慌てて頭を振って「ちがうよ、大事だよ、いのちはぜんぶ大事なんだよ。とうさんがいってた。どうぶつはたいじにしなきゃいけないんだよ。この子もだいじなんだよ」というのでおじさんは笑って「そうですか。成る程、それが貴方の倫理で価値観なのですね」というけど、燐にはおじさんの話すことが難しくてよく分からないので「わかんないよ、おじさんなにいってるの?」というと、おじさんがまた笑う。おじさんはずっと笑っていて燐には何が面白いのか分からない、面白いことなんて何一つ無いのに。燐が変なおじさんだと思っているとおじさんは「そうしたら埋めに行きますか?」と言う、燐が「うめる?」と首を傾げていると「はい、土の中に埋めるのです」「うめたら、暗くておもくてかわいそうだよ、ごはんもたべられないよ、とうさんにあえなくなっちゃうよ」と嫌そうな燐に「その雀はもはや何も分かりません。死んでいるのですから。だから暗くても重くても可哀想ではありませんし、ご飯を食べる必要もありません。"父さん"に会えなくても寂しくはないのです」とおじさんはいう。燐はそれはとても悲しいと感じたので「なんでうめるの?」と聞くと「それが人間の信仰だからです」という。おじさんは獅郎や雪男と違って分からない言葉を使うので燐にはよく分からない。燐の様子を見たおじさんは「信仰というのは、倫理感や価値観、そしてそれらが現れた行動や風習のことです。この国の人間はね、死んだ大事な命は地面の中に埋めるのですよ。それが彼らの宗教ですから」という。燐はよく分からなかったが「うめたほうがいい?」と聞くとおじさんは「貴方が人間として、その雀を大事と思うなら」と言うので、燐は「じゃあ、うめる……」という。おじさんは腰を屈めて手を差し出して「では一緒に行きましょうか」というと燐は「とうさんが、変な人にはついてっちゃだめだっていってた……」と言うのでおじさんは目をパチクリさせて笑ったあと「そうですか。では、今から3つ数えるので、その間目を瞑っててもらえますか?」と言って、燐はよく分からなくて戸惑ったけど「それなら……」と言って、目を瞑り手で目を押さえて俯いて、おじさんは「そこまでしなくても」と言って笑いながら「アインス、ツヴァイ、ドライ」とよく分からない単語を呟いて「目を開けていいですよ」という。燐が目を開けると何といつの間にか地面の上にいて、目の前には大きな木があったので驚いて隣にいるおじさんを勢いよく見ると、相変わらず逆光で顔が暗くてよく分からなかったがおじさんは口元に人差し指を当てて「しー、これは内緒ですよ」というので、燐は驚いて上げそうになった声を口に手を当てて我慢して「ナイショにする」というとおじさんは「約束ですよ」という。燐はおじさんが魔法使いなのだと思い、だから魔法を使ったのがバレると困るのかなと、前に読んだ絵本のことを思い出した。おじさんは木の根元を指して「そこの地面を手で掘って、埋めてやりなさい」というので燐は「てつだって」というけど、おじさんは「私はやりませんよ。私は、あー、ええ、貴方とは価値観が違いますから。貴方がやらないのなら、雀はそこに捨てていきましょう」というので、燐はなんてひどくて意地悪なおじさんだろうと思ってぷりぷりむくれて「ひとりでできるもん」と言って小さな手で地面を掘り始めた。りんごが1個は丸々入るくらいの穴を掘ると燐はちらちらおじさんを見て、おじさんが頷くので雀の体を穴に優しく横たえて、「ごめんね、ばいばい」と手を振った。この雀はもう父さんにも兄弟にも会えなくて、ご飯も食べられなくて、この小さな穴にずっと一人ぼっちなんだなと思うととても悲しくなってとても申し訳なくなってポロポロ泣いてしまった。おじさんは横から「ほら、土をかけてあげなさい」というので、燐は土塗れの手で涙や鼻水を手で拭いながら、穴に土をかけて、雀の体が少しずつ土に埋もれていくのを見て、より悲しくなって、またポロポロ泣いて、手で拭って、雀の体がすっかり見えなくなるまでそれを繰り返した。すっかり埋め終えて、燐が顔を土塗れにしながらしくしく泣いていると、おじさんは燐の横でしゃがんで、「最後はこうするんですよ」と言って、燐の泥と涙と鼻水塗れの手を取って広げやり、掌と掌を合わせるようにした。燐もこのポーズは知っていて、おじさんを見上げると「カミサマとやらにお祈りするんだそうですよ」というので、燐は父さんがいつもやっている様に目を瞑って俯き、神様にお祈りした。目を瞑って祈りながら燐が「この子は天国に行けるかな」と言うと、「貴方が望むなら、きっとね」とおじさんの声が返ってきた。燐はじゃあ沢山お祈りしようと思って、神様に自分が可哀想なことをしてしまったこの雀がきちんと天国へ行って、沢山楽しいことができますようにとお祈りした。神様がもう良いよというくらいもうそれは沢山お祈りして、燐が目を開けると、おじさんはどこにも居なくなっていた。変わりに、遠くから父さんの声がした。