■ Repeat■ Repeat
夕暮れの海を二人きりで歩いている。
娑婆で修行をし直してこいと、薬師如来から地上に降ろされたのはもう三年前だろうか。
太陽が水平線に消えていく、その様子を飽きずに眺めている。
日光の背中がいつもより小さく見えて、月光はまた同じ問いを繰り返す。
天界に帰りたいのですか。
もう帰らないと、二人で決めたはずだ。
薬師如来にも、時たま訪れる十二神将の誰にも伝えていない。
都内のマンションを借りて、ホストとして働いている。最近は日光が動画の配信を始め収益が上がり始めたので、田舎に引っ越そうかと計画をしている。
ノリで買ったキャンピングカーで、遠くの町までやってきた。夏が過ぎた季節外れの海水浴場は静かで、車中泊をしていいかと交番で聞くと、空いている小さなペンションを紹介された。
オレンジ色からだんだんと夕闇に染まっていく。そんな中でも日光は輝いていて他のことは全てどうでもよくなる。
波が打ち寄せては引いていく、静かな繰り返しの音の世界で、日光は何も答えない。
今はまだ、帰る時期ではないと、何百回目の説得をする。
日光もそれを待っているのだと、自分に言い聞かせて。
「俺は月ちゃんといられれば、それでええよ」
いつもの答えをくれる。
それだけで満足なのだから、修行の必要はないのではないか。
そろそろ夕食の時間だと、手を繋いで町へ戻る。
もう少しだけ、このままで。