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    mii_wannyantyu

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    mii_wannyantyu

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    実験体しのぶさんと研究員カナエさんのお話。
    だーさんの素敵すぎるイラストより。『出会い』

    『出会い』

    カナエさん視点

    「ある子供の言語訓練をしてくれないか。」

     実験を繰り返していたある日、そんなことを同僚に頼まれた。……今抱えている患者さんたちや研究はそんなに多くはないし、あと一人くらいなら大丈夫でしょう。どんな子とおしゃべりできるのかしら。仲良くなれるといいな。なんて軽い気持ちで私は彼の提案を、二つ返事で引き受けた。

     彼は、私と同じ時期に研究機関に入った、所謂同期。配属場所が違ったから、なんの研究をしてるのかは知らなかったけれど、食堂などで会った時は、話をするような仲だった。

     ◇

     彼の話によると、今回の被験者(対象者)は、六歳の子供で、知的な思考、基本的生活習慣の発達などには問題がないが、発語がないのだそう。知的な能力はむしろ優れていて、読み書きは完璧。日本語以外の言語だってお手の物なのだそうだ。しかし、言葉が出ない。器官的に問題があるのか、それとも精神的なものなのか。話を聞くだけでは全く分からない。いったいどうしてそうなったのかを、まずは知る必要があった。その子供に、会ってみなければ。

     ◇

    「ここです。ああ、気をつけて。ここにいる奴らは超能力も使えるので。」
    「超能力?……そうなんですね。」

     初めて入る棟。緊張と好奇心で、思わずきょろきょろと見回してしまう。随所に植物が置いてあったり、季節の飾り物があったりする私のいる棟とは違い、真っ白で無機質な場所。全館冷暖房完備で、快適な空調管理がされているはずなのに、なんだかここは、寒い、気がする。
     それに、棟ごとによって研究対象や目的が違うと聞いていたが、まさかこの機関が超能力にまで手を出しているなんて。……全く知らなかった。
     バンッ!!
     急に大きな音がして振り返ると、ガラス越しに小さな子供の姿が見えた。その瞳には、恐怖の色が浮かんでいた。

    「……五一二番、大人しくしていなさい。」

     同僚は、その子供に向かって、感情の宿らない瞳で冷たく言い放った。よく見るとその子には手、足、首に枷が嵌められており、鎖で繋がれていた。どうして、こんな扱いを。

    「ああ、こいつはよく暴れるので繋いでるんですよ。大丈夫。この検体での実験はそこまでうまくいかなかったから、ガラス越しで人体に影響を与えたりしませんよ。」

     私の思いを勝手に汲み取り、彼は笑顔で何かを言った。じろり、と同僚がその子を見ると、その瞳にじわじわと涙が浮かぶ。

    「……この子とは、どのような実験を?」
    「この被験体では投薬と、電流による脳への刺激とその効果についての研究を主にしています。まあそのうちダメになるでしょうね。身体改造がうまくいきませんでしたから。」
    「なにをいって」
    「ああ、そろそろつきますよ。あいつです。胡蝶さんにお願いしたいのは。」

     彼が指差す方を見ると、奥まった場所に、ここと同じような小さな部屋が並んでいるのが見えた。通路側だけがガラス張りになっており、まるで、いつか行ったペットショップのケージのよう。本当になんなの、この場所は。

    「ーーっ!?」

     突然、ふわり。と私のバインダーから、紙が浮かんで、私たちが進む先へと、飛んでいった。今のは?風じゃない。風なんて、この建物の中じゃ絶対に吹かない。だとしたら。

     何か不思議なものにつつまれている感覚になりながら、ふわりふわりと舞う紙を追いかけていく。すると、ガラス越しに、なにもない部屋の中で、一人の少女が、座っているのが見えた。

    「おい、二二四番、能力の使用は許可していない。」

     まるでその声に反応したかのようにひらり、と、それまで宙を漂っていた紙が、床に落ちる。私は蹲み込んで、廊下に散らばってしまった紙を手に取った。……確かに私に向けられている視線を感じたので、顔を上げると。

     濡れ羽色の髪に、一切の感情を映さない菫色の瞳。ここにいるのが相応しくないと思えるほどの小さな小さな少女が、私を見つめていた。

     ドクン、と心臓が、大きな音を立てる。なに、これ。彼女から目が、離せない。

     胸の内に、生まれて初めて沸き起こる感情。これがなんなのか、私には分からない。でも、ただひたすらに心地よい。そしてこの子を、自分のものにしたいと、思ってしまった。この子は、誰のものでもなく、私のものだという、独占欲すらも、私の中に生まれる。

     なに、なんなの、これ。

    「二二四番!!」

     同僚の叫ぶ声で、私は我に返った。

     よく見ると、その子は所々怪我をしているようで。この子も、枷をつけられていたのか、枷があったと思われる場所には、痛々しくも、真っ白な包帯が巻かれていた。そのほかは…殴られたあとだろうか。腕の傷は、繰り返される薬物の注入実験の跡に違いない。こんなにも、ひどく扱われている人たちがいるなんて、思いもよらなかった。

    「……あの、この子に、言語訓練をすればいいんですね?」
    「はい。よろしくお願いします。二二四番は知能が高く、超能力も使いこなせます。二二四番は、意思が薄弱なので扱いやすいとは思います。身体改造が進んでいますので、多少の無理は効きます。何かあった時は体に教え込むのが一番ですので、これを。」
    「……これは?」

     渡されたのは、なんの変哲もないスイッチのようなもの。

    「これはですね。」

     カチッ、と軽い音を立てて彼がそれを押す。すると、ガラスの向こうの彼女が、びくんと体を震わせ、無機質な床に倒れ込んだ。ぎゅうっと小さな掌を握りしめて、苦痛に耐えている。痛いだろうに、彼女から、叫び声が聞こえることはない。本当に、言葉が出ない、言葉を、話せないのだろう。

    「なっ、やめてくださいっ!!」

    思わず叫ぶと、驚いたような顔をして、彼は振り向いた。

    「なにをそんなに怖がっているのです?ただの実験体ですよ。奴らは、私たち自身にはなにもできないよう、潜在意識下にプログラムされている。私たちの言うことは絶対です。」

     ……狂っている。まさか、私がのほほんと暮らしていた場所の横で、こんなことが起こっていたなんて。

    「……訓練は、私一人でやります。一対一で行いますから、この子の部屋の中に入れてください。」
    「わかりました。鍵をお渡しします。」

     じゃらり、と音をたてて私の掌に乗ったその鍵は、見た目よりも随分と重たいものだった。それを、壁に開いている小さな穴に差し込むと、カチン、と音をたて、目の前の白い壁が変化していく。ふにょんと壁の一部が凹み、人が一人、入れるくらいの大きさの穴が空いた。

     その少女は、突然入ってきた私を、何の感情も瞳に映すこともなく、ただただじっと見つめている。

    「私は胡蝶カナエといいます。あなたのお名前は?」

     ◇

     この子供、被験体二二四番との出会いが、私たちの運命を大きく左右することになるなんて、この時はまだ、思ってもみなかった。







    しのぶさん視点

    「二二四番、時間だ。」

     今日も、あいつがやってきた。私を作り、私を育てたあいつ。

     死というものを知ってから、早く死にたいと思うようになったけれど、痛いのは嫌だから、あいつの言うことには従うことにしている。なにもない部屋の中で立ち上がり、壁の前まで行く。ふにょん、と壁の一部が歪み、出口ができた。大人しくそこから出ると、手を強く掴まれる。

     ……べつに逃げやしないのに。この施設以外で、私が生きる術など、とうに奪われているのだから。

     ◇

    「腕を出せ。」

     と言うわりに、その前に引っ張って注射をしてくるこいつは、頭と体がきちんと連動しているんだろうかと時々心配になる。つぷっと針の先が刺さる感覚と、ずずっと血管の中に薬剤が入ってくる感覚。物心つく前から続くこの習慣。いつまで経っても心地の良いものではなかった。

     いつも通りに身長、体重を測ったあと、大量の錠剤を、渡された水で流し込む。その刹那、胃が、肺が、燃えるように熱くなる。これは、きっと、痛いという感覚。

    ……ああ、いたい。のみたく、ない。

     でもこの薬がないと、私は生きられない。いつだったか、痛いのが嫌で、飲みたくないと言ったことがあった。その次の日、私ではなく、隣の部屋の子が、薬を飲ませてもらえなかった。気がついたらその子は、隣の部屋からいなくなっていた。『死』というものに、連れて行かれたのだと思う。その日から私は、薬を飲みたくないと言わなくなった。

     血液を注射器で取られ、座っておくように命令される。

    「今日は数値がいい。やはり俺の研究は、間違っていない。ははっ、これで、認められる。俺を馬鹿にした奴らを、見返してやるんだ。」

    なにやらぶつぶつと呟くそいつは、目を爛々と輝かせている。……私には、関係のないことだ。

     ◇

     鼻歌を歌っている彼を横目に見ていると、部屋に戻された。今日は、あの痛い実験はないらしい。

    「今日からお前の言語訓練を始める。」

     なんて言って、彼はガラスの前から立ち去った。言語訓練?なんのことだ。言語は、問題なく使えている。読み書きはできるし、あいつが使う言葉以外のものも、使える。これ以上なにをしろと……。

     訳がわからぬまま、私は考えを放棄した。知識があろうと、技術があろうと、自分で決めて何かを行うということが不可能な限り、私はあいつがいうことに従うほかない。『自由』というものは、私にはないのだ。

     言われた通りにものをやっておけば、あいつは声を荒げない。眉を釣り上げない。そういう状態になったあいつは、とてつもなく煩くて、私に痛いことをしてくる。それは『嫌』だから。
     
     ◇

     ぼーっと、自分のいる場所を見回す。なにもない部屋。あの白い服を着た女の人がいた頃は、この部屋にはいろんなものがあった。本や、紙、鉛筆、色鉛筆、絵具。きらきらと輝いて見えたそれらは、その人とともに消えた。必要がないものは捨てる。そんな声が聞こえた。そうであるならば、私も捨ててくれないか、と思ったけれど。

     突然、廊下の先からコツン、コツンと足音が聞こえてきた。……あいつだけじゃない。今日は二つある。他の研究者が来るなんていつぶりだろうか。正確な記憶がないから、かなり前なのだろうけれど。

    「ああ、そろそろつきますよ。あいつです。胡蝶さんにお願いしたいのは。」

     あいつの声が聞こえて、視覚に意識をやった。朝という時間に見た顔が、また現れた。こんな時間に来るなんて、珍しい。と思ったら、足音の通り、やはり、一人ではなかった。

     頭に二つの蝶、だったか。昆虫の形をした髪飾りをつけている、男と揃いの白衣を着た女。初めて見る人間だ。その人間を見た瞬間、私の胸が、どくん、と一つ強く脈打った。

     無意識のうちに、力が発動していらしい。

     突然、ふわり。と彼女のバインダーから、紙が浮かんで、私の方にやってきた。ふわりふわりと、私の目の前で踊る。なにも書いていない、真っ白な紙。久しぶりに、見た。

    「おい、二二四番、能力の使用は許可していない。」

     ……まずい。私は意識を集中させ、力の出力をオフにした。ひらり、と、それまで宙を漂っていた紙が、床に落ちる。彼女は蹲み込んで、廊下に散らばってしまった紙を手にとった。

     私の視界に入るのは、漆黒の艶やかな髪のみ。この女は、何者なのだろうか。あいつに代る、新しい担当者なのだろうか。じっと見つめていると、彼女が顔を上げた。目と目が、合う。

     濃い桃色の、目尻が少し下がった瞳。こんな顔をどこかで、見たことがある。ああ、あの人だ。私の面倒を、見てくれていたあの人。

     ドクン、と心臓が、大きな音を立てる。なに、これ。目が、離せない。

     胸の内に、生まれて初めて沸き起こる感情。これがなんなのか、私には分からない。でも、ただひたすらにあたたかい。これは、そうだ。あの頃感じていた感覚。『心地いい』だ。あの人が、教えてくれた感覚。この人間と共にいたい。戻りたい。なんて思いが、自分の中から聞こえる。なんなの、これ。

    「二二四番!!」

     あいつの叫ぶ声で、私は我に返った。視覚と聴覚に意識を戻し、脳に情報を送る。

    「……あの、この子に、言語訓練をすればいいんですね?」
    「はい。よろしくお願いします。二二四番は知能が高く、超能力も使いこなせます。身体改造が進んでいますので、多少の無理は効きます。何かあった時は体に教え込むのが一番ですので、これを。」
    「……これは?」

     女とあいつが、なにやら話している。あいつが女に渡したのは、『あの』スイッチだった。……くる。

    「これはですね。」

     カチッと軽い音を立ててそいつがそれを押す。
     いた、い。くるし、いいきが、できな

     襲いくる痛みに、座位すら保てない。座っていた場所から崩れ落ち、冷たい床に倒れ込んだ。いたい、くるしい、もう、このまま、しに

    「なっ、やめてくださいっ!!」

     大きな声が聞こえて、痛みが止まった。その隙に乱れた息を整える。
    「なにをそんなに怖がっているのです?ただの実験体ですよ。奴らは、私たち自身にはなにもできないよう、潜在意識下にプログラムされている。私たちの言うことは絶対ですから安心してくださいね。」

     そう。私は、この人間たちに逆らうことはできない。そう、規定されている。そう、刷り込まれているから。

    「……訓練は、私一人でやります。この子の部屋の中に入れてください。」
    「わかりました。鍵をお渡しします。」

     訓練……。ああ、この人間が、『言語訓練』とやらをしに来たのか。痛くないと、いいな。
     起きる気力もなく、床に倒れたままでいると、目の前の白い壁が変化していく。ふにょんと壁の一部が凹み、人が一人、入れるくらいの大きさの穴が空いた。

     その女は、突然入ってきた。そして、私の目の前にしゃがんで、声を発した。

    「私は胡蝶カナエといいます。あなたのお名前は?」

     それは確かに、私に向けられている言葉で、敵意や害意がなく、あたたかいものだった。私は初めて、自分に向けられるそれに、応えたいと思った。
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    mii_wannyantyu

    DOODLEさっきお話ししてた、モブさんに告白されて言い出せなかった💧さんとそれにもやっとしてしまう🍑さんのお話。らくがきです。まだ続くけど一旦ここまで。大丈夫!ハッピーエンド仲直りするよ!(これは僕のために言っています…)
    仲直りして!!!「どうして、言ってくれなかったの」
    ……愛莉ちゃんのこんな顔見たの、いつぶりだろう。
     私を見下ろす愛莉ちゃんを、真っ直ぐに見つめる。愛莉ちゃんの後ろには天井が見えて、ああ、私、今倒れてるんだ、なんて。
     形が良くて愛らしい眉毛がきゅっと寄って、私を映す桃色は、悲しそうに細められてる。いつもは綺麗に上がっている口元も、への字みたいに下がり切っていて。
    「えっと……」
    事の発端は、私が、この前出演したドラマの相手役の人に告白された事だった。もちろん、私には愛莉ちゃんがいるから断ったけれど、お付き合いしていることは、まだ内緒にしておこうって愛莉ちゃんと二人で決めたからちゃんと言えなかった。
     その人は愛莉ちゃんとも仲がいい人だったから、愛莉ちゃんになんとなく言い出しづらくて、切り出すタイミングを伺っていたらどんどん時間が過ぎてしまって、もう一週間。どういうルートを辿ったのか、私があの人に告白されたことが愛莉ちゃんの耳にも入っていて、おうちに帰ってきた瞬間、愛莉ちゃんに手首を少し痛いくらいに掴まれて、ソファにぐいって押し倒されてしまったの。
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    mii_wannyantyu

    MOURNING『現代鬼殺のお話①』
    前に呟いていた、現代鬼殺のお話。書きたくて書いたものの、何書いてるのかよくわからなくなったので供養。
    現代鬼殺のお話①

    「はあっ!!」

    私に向かってくる、異形のものに対し、私だけの刃を振るう。ガシャン、プシュウ。一閃。ドサリという物音と、ぶわりと巻き上がる黒い靄。ふよふよとこの場を漂うけれど、それはもう無視。なんの害もこちらには及ぼせなくなっている状態のはずだから。耳をそばだて、気配を探る。……よし。もうあいつらはいない、みたい。依頼の内容も、一体だっていう報告だったし。

    「ふう。任務、完了」
    『今の刀の振るい方、なんだか粗くありませんでした?』

    ……ああ、また始まった。

    「うるっさいなあ」
    『蟲柱たるもの、もっと美しく、軽やかにこなしてもらいませんと』
    「ふんっ。そんなことにばかり拘ってるから、この間みたいに失敗するんじゃないの?」
    『なんですって?!』
    「ほらほら、しのぶ。後は隠がやってくれるから。今日はもう帰っておやすみ」
    「社長」
    『お館様』

    急に目の前に現れた雇い主の姿に、跪く。この位置からは見えないけれど、多分もう一人の私も、同じ格好をしてる。

    「そんなにかしこまらないでおくれ。しのぶ、今日はどうだった?」
    「はい。任務は、つつがなく。相手は人型を取ってはいま 2898