零プレある日、眠れない私は話し相手を求めて夜中にさ迷い歩いていた。
なんとなく寂しいと思ってしまったのだ。
そして訪ねたのは零夜の居る部屋。コンコンとノックすると、部屋着を着た零夜が扉を開けてくれる。
「どうしたんだい?」
「眠れなくて。ちょっとだけ話さない?」
「あぁ。構わないよ」
零夜の部屋に入って、ベッドの端に座って話をする。私はこの時間がわりと好きだった。零夜の話は言葉は難しいけど、なんとなくわかるようなわからないような気がして。思い出話のように語られる別の世界線の私達の話には、何処か懐かしさを感じるからだ。
「やっぱり何処の世界線でも私ってそんな感じなんだ」
「あぁ、こればかりは君の変わらない所だね」
他人のことのような自分の話は聴いていて面白い。別の世界線の自分に会いたくなる気持ちがわかるような気がする。
「そういえば聞きたかったんだけどさ。別の世界線の私って、恋人いたことあった?」
「恋人?」
「うん。別の世界線の私に出来るならチャンスあるかなって……」
若干視線を逸らしながら言う。男っ気が全くなくて不安に思っていたのでどうしても聞いてみたかったのだ。それと、零夜からそういう類の話を聞いてみたかったという好奇心も少しある。
「……」
「……?」
零夜はしばしこちらを見つめると、目を閉じてため息を一つ。何かまずいことをきいてしまっただろうかと謝ろうとすれば、
「君と僕が恋人になった世界線ならあるけれど」
と。予想もしていなかった言葉に私の時が止まる。え、と間抜けな声が出てしまう。
「僕が告白して、君が受け入れてくれて。死ぬまでずっと傍にいた……そんな世界線も存在するよ」
「え、あ」
「……どう思った?」
「え?どう、って」
「これを聴いて、君はどう思ったのかな」
真っ直ぐな目で見つめられて、私は思わず視線を下げる。何でそんなこと聴いてくるんだろう。まるで……いや、やめよう。私に気があるみたいだ、なんて思っちゃったら恥ずかしくて気まずくてどうにかなっちゃいそうだ。
ここは、素直に思ったことを言ってみよう。
「……ちょっと、その世界線の私が羨ましいって思った」
「羨ましい?」
「うん。零夜みたいな素敵な人と付き合えるとか……って、何言ってんだ私!あはは……深夜テンションだから変になってるかも!今日は寝るね、おやすみ!!」
気まずくなって部屋を出ようと扉の前まで走るが、ドアノブを回しても開かない。
「え、あれ、何で!?」
鍵は開いてるのに何故か扉はビクともしない。すると後ろからトン、と扉に手がつかれ、ドアノブを掴んでいる手に後ろから伸ばされた手が重なった。
……零夜が、私の真後ろに立っている。
「れ、零夜……?まさかこれ、零夜が……?」
「君が帰ろうとするから」
「え……」
「……さっきの言葉の意味をもう少し詳しく聞かせてくれるかい」
「あ、あれ、は、えっと……」
「それとも、お世辞だった?」
「それはないっ!」
「じゃあ、聞かせて。君の口から」
そこで恥ずかしくなって下を向いてしまう。その間に、零夜は私の手の甲をなぞり、私の回答を静かに待っている。
「…………え、っと。さっきのは、その……そのまんまの、意味で」
「うん」
「零夜のこと、素敵な人だなって、私は思ってて……」
「うん」
「そ、そんな人と、付き合えてる別の世界線の私が、羨ましいな〜って……」
「……うん」
あれ?今のうん、少し嬉しそうだった……?って違う!そんなこと考えてる余裕なんか……!!とりあえずこの体勢をどうにかしないと!!
「も、もういいでしょ、扉開けてよ……!!」
「……羨ましいのなら」
「え?」
「この世界の僕と付き合えばいいじゃないか」
「……っ!?」
何言い出してるんだこの子!?
「零夜!?何言ってんの急に!?」
「急ではないよ。君が全く気づかないのがいけないんだろう」
「え……」
「僕はもうかなり前から君にアプローチしているつもりだったけれど。……でもそのおかげかな、君に素敵だと思って貰えたのは」
嬉しいよ、と抱き寄せられる体。何、これ、凄く熱い。どうしよう。こういう時ってどうしたらいいの……!?
「それで?君はどうしたい?」
「えっ」
「付き合うかい?この世界の僕とも」
あぁ、逃げ場が無い。きっと私が答えるまで彼は退いてくれはしない。YESとも、NOとも言えない複雑な心境だ。
「……耳まで赤くなってる。やはり君は変わらないね」
「へ?」
「別の世界の僕によれば、君が顔を真っ赤にして告白したところ盛大に舌を噛んで痛みに悶えたらしくてね」
「なっ!?」
「他にも僕に抱きつこうとして寸前で転んだり、人気の多いところで好きだと叫んで注目されてしまったり」
「ややややめてーーーっ!!!わかった!!付き合うから!!!!付き合うからそれ以上別の世界の私の失敗談ばっかり話さないでよっっっ!!!!!」
いたたまれなくなった私が言うと、零夜はぎゅっと後ろから私を抱き締めてくる。
……あれ?
「言ったね。付き合うって」
「え……あっ……」
「じゃあ……この世界でもよろしくね、プレイヤー」
ちゅ、と頬に口付けられる。そこで漸く気づいた。
私がどの世界でも変わらないと彼は知っていて、わざと別の世界の私の失敗談を話した……
まんまと策略に嵌められてしまったというわけだ。
(うっそ〜〜〜…………!!!!)
でも、なんとなくだけど。
付き合っても、後悔はしなさそうだなって……別の世界線の私の話を聞いていて、思ったりはする。
おまけ(既に付き合ってるルート)(書きたかったのこっち)
鍵は開いてるのに何故か扉はビクともしない。すると後ろからトン、と扉に手がつかれ、ドアノブを掴んでいる手に後ろから伸ばされた手が重なった。
……零夜が、私の真後ろに立っている。
「れ、零夜……?まさかこれ、零夜が……?」
「君が帰ろうとするから」
「え……ひゃっ!?」
ビク、と体が跳ねる。突然零夜が耳にキスしてきたのだ。
「や、零夜っ、待って」
「好きって8回言ってくれたら待ってあげる」
零夜の手が、私の視界を覆う。そのまま耳を食まれれば、視界が見えない分意識が耳に集中してしまって、零夜が舌で私の耳をなぞる感覚と唾液の音をより鮮明に感じてしまう。なんとかそれに耐えながら、必死に言葉を絞り出す。
「っ、ん、す、きっ、すきっ……ひゃっ……!?」
「どうしたんだい?あと6回だよ」
「うっ……すき、す……き……すきっ……!!」
嫌だ、この状況凄く恥ずかしいんだけど……!!ただでさえ耳弱いのに……!!
「もうっ、いいでしょっ……!!」
「どうして?あと3回じゃないか。……それとも、この先をご所望かい?」
「わ、わかった!!言うからっ!!零夜好き!大好き!愛してる!!」
「……まぁ、よしとしよう」
「うぅ……」
零夜って後ろから抱き締めてこういうことしてきそうだよねっていう供養です。