ようこそ僕らのワンダーランドへ【猫】目が覚めても、そこは変わらず白い部屋の中だった。
アリスと名乗った零夜によれば、「寵愛の間」らしいけれど……その意味はよく分からない。
とりあえず死ぬ心配はなくなったと考えていいだろう。
さて、どうしようか……?
アリスを探す
白うさぎを探す
マッドハッターに会いにいく
チェシャ猫に会いにいく◀
チェシャ猫に会いに行こう。
どうしてあの時、首を指すメッセージをくれたのか気になるから……
私は誰にも見つからないよう慎重に城を抜け出し、チェシャ猫の森を目指した。
森に入り歩き続けて数分後、同じ景色が続いていることに気づく。チェシャ猫は見つからないし、何なら森を抜けれる気配もしなくなった。
迷った……?どうしよう……
「よぉお嬢ちゃん。シケた面してどうした?」
すると、木の上から声が聴こえた。見るとそこにはチェシャ猫が寝そべっていた。
挨拶をして貴方に会いに来た、と伝えると、
「はぁ?……っははは!!俺様に会いに来ただぁ!?頭おかしいんじゃねぇのかお前!」
と、チェシャ猫は手を叩いて大笑いした。そしてフッと消えたかと思うと、いつの間にか私の背後に移動していた。
「しかもアリス無しで一人で来たのか?俺様に会いに?最っ高に頭おかしいぜ、っくくく……お前やっぱおもしれぇな?」
コンパスで見るサーティーンと見た目以外変わらないはずなのに、それ以外にも何か違和感がある気がした。チェシャ猫は私を捕まえると、すりすりと頬擦りしてきた。
「お前、ちっこくてすりすりしづらいな。こっち来い」
すると景色が歪み、目を開けた時には木の上にいた。チェシャ猫に抱き込まれて、すんすんと匂いを嗅がれる。
「やっぱお前いい匂いするな〜♡ン〜……♡堪んねぇ……」
少しくすぐったいけど逃げる術も無いし、暴れると落ちるかもしれないので身を固める。彼に頬擦りされながら、私は気になっていたことを尋ねた。
「あ?何であの時首を斬られるって遠回しに教えたのか?別に意味なんてねぇよ、どうせ女王サマに目をつけられた時点で逃げられねぇし……生き残ってたらラッキーぐらいの気持ちだったな」
じゃあ、やっぱり私かなり運が良かったのかも……
別に助けたいとか、そういった意図は無いのだな……
何だろう、この国の違和感の謎に少し近づいた気がする。まだよくわかってないけど……
それにしてもくすぐったいな、いつになったら解放してくれるのだろうか。
「つーかお前、全然暴れねぇのな?いいのか?このままで」
きこうとしたら向こうからきいてきた。どういうことかと尋ねると、
「だってお前、このまま俺が匂いをつけたら、誰からも認識されなくなるんだぜ?」
え、と声が出る。
誰からも、認識されなくなる……?
「俺様の匂いは特殊でな。相手の全身につけると、俺様以外の人間に認識されなくなるんだ。どうだ?いい能力だろ?」
全然良くない!
暴れるが、彼の腕から逃れることは出来ない。
「オイオイ、暴れると落ちて頭打っちまうぜ?それでもいいなら解放してやるけどよ」
どうしよう、このままじゃこの世界を抜け出すどころか、誰からも気づかれなくなる……!
……ん?
寧ろ、その方が良いのではないか?
アリスと白うさぎは一度、協力して私を殺そうとした。見逃されたとはいえ、また殺しにくる可能性もある。
それにマッドハッター。一度会っただけでも嫌な感じがした。きっと彼もろくでもないに決まってる。
だがこのチェシャ猫は、比較的無害だ。
誰からも認識されなくなるのは少し怖いけど、完全に一人というわけではない。
彼がいる。
なら、寧ろ好都合なのでは……?
「あ?何だよ、急に大人しくなって」
覚悟を決めた私は、自分からチェシャ猫に抱き着いた。匂いが全身につくように。
「は?何してる?」
私の考えを話すと、チェシャ猫は噴き出して大笑いした。
「ははははは!!俺様の匂いを利用しようってか!?お前最高にクレイジーだぜ!!くくく……!気に入った!」
チェシャ猫は私を引き寄せると、大きな手で体をなぞる。
「いいぜ、俺様がお前を隠してやる。その代わり……退屈させるなよ?この匂いは上書きされると簡単に消える。マッドハッターに勘づかれたら終わりだ、あの臭い香水ですぐ匂いを消される」
ヒソヒソと小声で話されて耳がくすぐったい……
でもこれで、私の身の安全は保証されるはずだ。
「俺様はな、頭のおかしい奴がだーいすきなんだ……♡だから、期待してるぜ?第二のアリス♡」
こうして、彼の匂いに完全に包まれた私は、
彼以外の誰からも、認識されなくなった。