「これから付き合う予定の二人」※現パロ土尊
尊は成人
「酷い顔だね。また高坂さんとケンカ?」
「まぁ、そんなところだ」
深夜、アパートにやって来た突然の訪問者を嫌な顔せず半助は快く迎えた。
一方の暗い顔で俯く尊奈門は、ぐっと下唇を噛む。
「中にお入りよ。温かい物でも飲む?」
「もっと強い物はないか?」
「う〜ん。あったかな」
髪を搔きながら台所へ踵を返す。尊奈門は、ゆっくりと靴を脱ぐ。いつも飲みに行く時は、会って早々仕事の愚痴や最近あった事を元気なくらいに言い出すのに今夜は様子が違った。
「まさか、雑渡さんとも揉めたの?」
半助がふと閃いて、訊ねる。尊奈門は、図星で視線を逸らした。
「雑渡さんも高坂さんも尊奈門くんがかわいい弟なんだよ」
「土井もそう言うか。邪魔したな」
「いや、待って待って」
半助は慌てて引き留め、尊奈門をリビングの空いているスペースに座らせた。
「家では飲まなくてね。冷蔵庫の奥にあったけど賞味期限切れてた」
冷蔵庫の中に頭を入れてまで探し出した物を持って半助が言った。
尊奈門は、受け取った缶の底を覗くと日付は三ヶ月前だ。プルタブを上げると気の抜けたか細い音がして、恐る恐る一口飲んだ。
「どう?」
「飲めなくはないが飲まない方がいい味がする」
「それなら飲まないほうがいいね」
半助は、他人事のように笑いながら言う。
尊奈門が、無言で缶を押し返すので半助も無言で受け取る。
飲みかけの缶の飲み口をじっと眺めて、迷う事なく一口飲んだ。レモンサワーにしては苦味が異様に強い。炭酸は後味に微かに残る程度だ。これは「不味い」と、ケラケラ笑い、缶は台所のシンクに置いた。後で捨てるつもりだ。
「週末、きり丸たちが遊びに来るからお菓子とジュースはあるんだ」
半助は、リビングの脇に置かれたスーパーの袋をガサゴソと音をたてて中を漁る。
「好きなの食べてよ」
ローテーブルにチョコレート菓子の箱や煎餅が入った大袋を置き、また台所へ消えた。戸棚から食器を出す音がしている。
リビングに残された尊奈門は、目の前の煎餅のビニール袋を裂き、小分けになった丸い醤油煎餅を噛じる。
一人暮らしらしいアパートのリビングは、テレビとソファ、ローテーブルとカラーボックスの本棚を置いたらほとんど部屋は埋まっていた。
シングルサイズのベッドは、脱ぎ散らかした衣服が洗濯済かも分からず置いてある。
尊奈門は、真向かいのベッドを眺めて先週あった事を思い出して、手に持っていた煎餅を一口で口に入れた。
「どうぞ」
半助は、不味いサワーの缶の変わりに差し出したのはマグカップだった。尊奈門は、受け取ると怪訝な顔をした。
「なんで、りんごジュースが温かいんだ?」
「まぁまぁ。飲んでみて」
「…甘い。美味い」
温めたりんごジュースにはちみつが入っている。甘み口の中に広がり、香りが良い。さらに一口飲む。
しかし、りんごジュースと醤油煎餅の相性は悪い。「これ食べていいか?」と、ビニール袋から覗くどうぶつ型のビスケットの箱を指さす。「いいよ」と、答えると箱を手に取り、開け始めた。二人で小さなビスケットを口に放り込む。
つけっぱなしのテレビからは、深夜のスポーツニュースも短いバラエティ番組も終わっている。今は色とりどりの熱帯魚が泳ぐドキュメンタリーが流れていた。
「小笠原の海だって。行ってみたいね」
半助がテレビに映るウミガメを観ながら無邪気に言う。呑気な口ぶりの男を尊奈門は横目で見る。
「泊まってきなよ。明日は昼までは暇だし」
視線に気付いた半助が微笑む。
尊奈門は、隣の男を無視してソファの縁に頭を乗せて天井を眺めた。ドキュメンタリー番組の穏やかなBGMが聞こえる。
「始発で帰る」
一言告げると、どっと疲れが襲い瞼が重くなった。
「釣れないなぁ」
半助の声が聞こえて、何か小言を言ってやろうと思ったがその前に睡魔が先にやってきた。
【終わり】