牽制と妥協のさんぶんこ恋に堕ちるきっかけは、ほんの些細なことだ。
ずっと目に入っていたチョーカーの下が気になったとか、強い個性に興味がひかれたとか、追い付こうと射殺さんばかりに睨み付ける瞳が忘れられなかったとか。
そんなほんのちょっとしたことでその人物をことあるごとに思い浮かべ、目で追い、気付いたら自分の中で特別になっている。
そうしてその気になったきっかけが、誰かしらの手にも渡されそうになったとき、唐突に思うのだ。ああ、誰にもとられたくない、と。
この気持ちは一体何なのだろうか。恋なんてきらきらしたものなんかじゃ到底ない。もっと淀んでいて、汚くて重たくて、色で言ったら日が経った血だまりのようにどす黒くて赤い。
〈中略〉
遮光カーテンで日が入らずとも、体内時計はしっかりと朝を感知する。
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