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    aneniwa

    @aneniwa
    マイハン♀ミドリさんの話しかしません

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    aneniwa

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    ツワ夢展示品

    ①アヤメさんと狩り行くものの、なんもかんも上手くいかなかったら可愛いなと思いました
    ②なんか良く分かんない会話メモ
    ③ミドリの元彼の話
    ④昔上げたやつの続き、の書きかけ
    ⑤ミドリとアヤメさんとヒバサとツリキとミハバの会話メモ
    ⑥アヤメさんの昔話を聞くミドリ
    ⑦跪いて丁寧な敬語使ってるミドリが書きたかったらしい
    ⑧ウツアヤwithミドリ
    ⑨教官の奥さんの話をする二人
    ⑩短いやつ

    【ツワ夢】アヤメさんとマイハン♀

     空は高く、雲はゆったりと流れていく。

    「すごいわね私たち!」
    「本当にすごいよ……」

    「「全ッ然息合わない!!!!」」

     2人ともが大の字になって地面に寝転び、空を見上げる。

    「いっそ清々しいくらい連携取れなかったわね」
    「お互いソロ生活が長いからね」
    「行動を声に出す癖がないのよね。先に動いちゃう」
    「分かる」

    「はーあ。教官に知れたらどやされるわこんなの」


    「一周回って面白かったわ、またやろアヤメさん」
    「そうね……楽しかった」
    「楽しかったわねー」




     アヤメが睡眠弾を打ち込み、獲物が眠った瞬間。

    「あ、やば」

     ミドリが撃ち込んでいた徹甲榴弾が破裂。睡眠による拘束時間僅か1秒。さらに怒り状態を誘発。



    「罠を仕掛けたわ!」
    「え?」
    「ん?」

     それぞれ落とし穴とシビレ罠を同時に展開。



    「ちょちょちょちょアヤメさん! 当たってる当たってる!」
    「え!?」
    「貫通弾! 貫通してる! こっち当たる!」
    「ご、ごめん!」

    「ミドリこれ、見えない」
    「ごめん、やり過ぎた」


     アヤメが翔蟲で距離を詰めているところに、ミドリが扇開移動で突っ込み、糸が絡まり大事故に。



    「足引っ張って悪かったね」
    「まさか。私の方こそ、せっかくの復帰戦めちゃくちゃにしちゃってゴメン」
    「そんなことない。あの時の粉塵助かったよ」
    「アヤメさんこそ、麻痺弾最高のタイミングだったわ」
    「鬼人の粉塵のタイミングまで一緒だったのは笑ったけど」
    「生命の粉塵も被ったわねそういえば、一回分無駄にしちゃって」
    「……アタシら思考が似過ぎてるのかもね」
    「……。そういえば大体おんなじ行動して事故ったわね。これ声に出しさえすればとんでもなく噛み合うんじゃない?」
    「次ね。次。今日は疲れた」
    「アハハ。帰って飲も」
    「うん、奢るよ。今回の報酬で」
    「ふへ。足出るまで飲むわよ」
    「いいよ。日頃のお礼だから」


    「散々な結果になっちゃったけど、無事を祝って」
    「アヤメさんのハンター復帰を祝って!」
    「「乾杯!」」




    「聞いたよ。何かゴタゴタしてたって?」
    「そうよただいまアヤメさん。すっごく面倒だったの」
    「おかえり」
    「組んでた連中が若いのばっかで、私が最年長だったから纏めないといけなくってね。もう皆んな突っかかってきて手に負えないし帰ろうかと思ってたら、拠点にしてた街の長官がグダグダ文句言ってきて、面倒で面倒で。しかも長官が太刀使いのコに手ェ出そうとしてきて」
    「あのさ、それ長くなる?」
    「長い」
    「奢れ」
    「奢る。から聞いてちょうだい。それで、そのことで何とか皆んな纏まったのよ、太刀の娘、メロちゃんって言うんだけど。メロちゃん守ろうとして。それは良かったんだけど、長官が私らの有る事無い事言い立ててまた面倒事になって。資金げ……商会が手引くって言い出して」
    「資金源ね」
    「ふふ。そう、金ヅルさんたちね。まあ私は実績あるけど、若い子ら皆んなそうではないじゃない。出来る奴らばっかりだったけど、まだ名前が立ってないから。そこを私の顔に免じてもらって、それまでのパーティの成果と依頼者たちの証言も突きつけて長官の嘘否定して、あと契約もちょっと甘めにして何とか。商会のトップは長官のこと信用してなかったから、それも助けになったの。でももう、その時抱えてる仕事こなしたら街変えるかって話になったのよ」
    「長官っていうなら、他の街にも顔きくだろ」
    「そう。拠点移す前にどうにかしないと面倒だし、ひと泡吹かしてやりたいし。何か良い方法ないかと思ってたら、たまたま私の友達が来て。その子が……アヤメさん会ったことあるかしら。マリエ」
    「ああ、前里に来てたピンクのランス使い」
    「そう。あの子すごい嗜虐趣味なの知ってる?」
    「は?」
    「ドの付くサディストなの。マリエ。で、可愛い娘に虐められたい被虐性癖持ちの男どもを下僕扱いしてるんだけど、その下僕さんたちの中に、長官の叔父上どのがいらっしゃったワケよ」
    「話についていけないんだけど。え、あの子が?」
    「そ、あのゆるふわピンクが。で叔父上どのに呼び出された先でマリエに調教されて、べたべたのでろでろになってる長官を囲んで記念撮影して念書書かせて収束したの」
    「……」
    「見ものだったわよ。厳しい面構えがゆるっゆるに締まりなくなっちゃって涎とか鼻水とかの跡も付いてて、最っ高に気持ち悪くて。最っ高にスッキリした。見る? 写真」
    「遠慮しとく」
    「そう? ……で、無事にとやかく言うやつ居なくなって、仕事終わったし次の街に行くかってところでメロちゃんの妊娠が分かって」
    「……」
    「子供の父親候補と結婚するっていうからご祝儀渡して別れて、なんかそこからなし崩しにパーティが解散したから私も帰ってきたの。男連中がもう、力抜けちゃっててね、メロちゃん狙ってるバカばっかりだったわけね」
    「……お疲れ」
    「疲れた。しばらく複数人での仕事は受けないわ」
    「しばらくゆっくりしたら」
    「うん……。うちもそろそろ子供作ろうかしら」
    「いいんじゃない」
    「妊娠出産で骨盤歪んじゃってハンター業に復帰出来ないとか聞くじゃない。ちょっと躊躇するのよね」
    「その辺は旦那と話し合いなよ」
    「そうねー。じゃあ帰るわ。ありがと愚痴聞いてくれて」
    「じゃあね」
    「オテマエさーんお勘定、アヤメさんのも……え? あっ! アヤメさん! ……あークッソ、やられた! 私奢るって言ったじゃない! このイケメン!!」










     里から1日くらいの距離にある小さな町で狩場への道中よく一泊してたんだけどうっかり祭りの前日に引っかかっちゃって宿がどこも空いてなくて、集会所の休憩スペースで休むかと思ったら男ばかりで知り合い居ないし流石にここでは寝れんなってなってどうするかなと思ってたら狩猟帰りのアヤメさんに偶然出会って、しめたと思ったらアヤメさんも宿にあぶれてて、最後の手段と知り合いが経営してる連れ込み宿に行くも部屋が一つしか空いておらず相部屋で気まずく就寝する、そんな話


    「あー! アヤメさん!! 奇遇ね、助かった……!」
    「あれ、ミドリ」
    「お願い! 宿代半分出すから置いて! 床でいいから!」
    「あ?」
    「何か明日お祭りらしくて、いつもの宿が取れなかったのよ。雨も降ってきちゃうしどうしようかと」
    「……マジ?」
    「……ん?」
    「アタシ今着いたところなんだけど」
    「……うっわー、マジ……」
    「上は?」
    「むさいのばっかりひしめいてるわよ、あんなとこで寝らんないわ。嫌な別れ方した元彼見かけたし」
    「アンタね……」
    「……仕方ない。心当たりがなくもないわ、あそこなら多分空いてる。ちょっと治安悪いとこにあるんだけどアヤメさんとなら大丈夫でしょ。この格好だし」
    「……どこ?」
    「口で説明しにくいわね……。裏通りなんだけど。知り合いがやってるのよ、中に入りゃ安全、とは思う。屋根と壁はとりあえずあるわ。最悪なとこだけど」

    「ちょっと、ここ」
    「うん。そういう宿」
    「そりゃ空いてるだろうけどさ……」
    「やめとく?」
    「いや、もういい。疲れたし寝たい」

    「久しぶりねニコ」
    「おやあ、ミドリさん! お久しぶりで。おやおや、とうとう男に飽きましたか」
    「相変わらずいらんこと言う口ね。同郷の先輩よ、揃って宿にあぶれたのよ。二部屋」
    「誠に残念ながら、残り一部屋で」
    「ああ?」
    「いやあお陰さまで盛況でして、猫の手も借りたいくらい忙しくしております」
    「下手な嘘吐かないでよ空いてんでしょ、こんなに静かなわけないじゃない」
    「明日の祭りに加えてこの雨ですしねえ、お二人のように、駆け込みのお客様がたくさんいらっしゃいまして。お疑いなら、全部屋検分して頂いても構いませんよ」
    「くそ……。どうするアヤメさん? 相部屋でいい? 狭いけど」
    「……別にいいけど」
    「ははあ、まあ迷われるのも無理はない。こういう商売ですからねえ。そこで提案なのですが、そちらの方お一人を部屋にご案内して、ミドリさんの方は、僕の部屋でお休みになるというのは」
    「絶対ヤダ」
    「つれないことで。変わられましたねえミドリさん。寂しくて僕は泣いてしまいそうですよ」
    「マジでキモいホント、さっさと案内してよ」
    「ははは。追加の布団を一組お持ちしますよ。サービスです」
    「お湯も沸かして。あと蚊帳」
    「ええ勿論」

    「どういう知り合い? 元ハンターなのは分かるけど」
    「うん、駆け出しの頃に何度か組んだの。ハンター業で小金貯めたから趣味に生きるっつって、ここ開業したのよ」
    「ふーん。趣味? 宿が?」
    「……あいつ、他人の閨事覗くのが好きでね」
    「……。……だからこの時期に蚊帳か」
    「そ。知ってる隙間は全部塞いどくし安心……出来ないだろうけど、最善は尽くすから」
    「寝れるのアンタ、ここで」
    「暗くして蚊帳張れば見えないし。アヤメさん先寝ていいわよ、もし来たら追い返しとくから。私はその後適当に寝るわ」



    『寝かせなさいよ、疲れてるのよ』
    『まあまあ。せっかくの再会じゃあないですか』
    『はあ……』
    『さて、部屋を用意出来なかったお詫びです。これは君に、こっちはお連れさまに。後ほど君からお渡ししてください』
    『……ん。貰えるモンは貰っとくわ』
    『ええ是非。いやあそれにしても、懐かしいですねえ。最後にお会いしたのはどのくらい前でしたか』
    『相変わらずじじむさいわね、そんな懐かしむほど昔じゃないでしょ。ほんの1年前じゃない』
    『ハンターを退めてからこちら、時間の流れがやけに遅くなりましてね。自分だけが取り残されたような気持ちで暮らしていますよ』
    『ふうん』
    『ところで、あの女性とは本当にそういう関係ではない?』
    『言ったでしょ先輩だって。ヘンな勘繰りしないでよ』
    『君から教官殿の話は聞けども、先輩の話というのは覚えがありませんで』
    『ああ、怪我して療養してたのよあの人』
    『ほお』
    『元は大物使いだったらしいけど、後遺症でライトボウガンに持ち替えたの。だから、ハンターとしての経験ではあっちのが上だけど、軽弩使いとしては私の方が長いのよ。お互いアドバイスし合える良い関係よ』
    『道理で。物腰の割に、使い込まれていないと思っていたところでしたよ』
    『ふ。懐かしいわねその言い方』
    『君のその、キレの良い言葉選びもまた懐かしい。いやあ、思い出しますよあの頃を。初めて会った時、君はまだ少女だった』
    『……あの時の事、まだ許してないからね』
    『おやあ、そろそろ忘れてもらえたかと、期待していたのですがね』
    『忘れるわけないじゃない、私意外に根に持つタイプなのよ。知ってるでしょ』
    『ふふ、はは、そうでしたそうでした』
    『ふん……』

    『……どうですか、近頃は。良い方に巡り会えましたか』
    『そうね……。まあぼちぼち』
    『そうですか』
    『あんたは?』
    『とんと、ご縁がありませんで。どなたかご紹介いただけませんか』
    『あんたがこんな趣味持ちでなきゃ、紹介できる口のいくつかはあるんだけどね……』
    『手厳しい』
    『マリエとかは? 年も近いでしょ』
    『いやいやいやいや』
    『必死……』
    『被虐趣味は持ち合わせませんで、僕。マリエさんは……いえ、彼女が悪いわけではないのですが、しかしその』
    『冗談よ冗談。ふふ』
    『実を言うと僕は、彼女が苦手でして』
    『うんうん知ってる知ってる』





    「……何かあったの? あの人と」
    「……んー、……お節介焼きでね、あいつ。酔わされて、言いたくないこと言わされたの」
    「……」
    「ヘンなことじゃないのよ。欲しいものの話」
    「うん」
    「……」
    「……」

    「あいつ、北国の出身でね。ほんの小さい頃に、家ごと雪崩にとられたって、……親兄弟全部」
    「……」
    「独り同士、傷の舐め合いしてた時期もあったけど。今はただの知り合い。うん、友達」
    「そう」
    「何か寂しそうだったし、たまに顔見に行ってやろうかしらね。あの頃組んでたヤツ連れて」
    「いいんじゃない」
    「うん」
    「……」
    「……」

    「あのさ」
    「ん?」
    「話したいことあったら、聞くから」
    「……アヤメさんのそういうとこ、私好きよ」
    「いつでも言いな」
    「うん」


    「……ところでね、あそこ便利だから、覚えておくと良いわよ。そのうち紹介しようとは思ってたの。だから今回はちょうど良かったわ」
    「?」
    「隠し通路とか隠し部屋とかてんこ盛りなのよ、あの建物。カムラの大工が建てたからね。ウチの技術を使う代わりに、色々便宜図ってもらってるわけ。フクズク常駐させてるし、コガラシさんの部下とも連絡付くわよ」
    「……」
    「昨日で顔も通したし。受付で『待ち合わせで後から1人来る』って言えば案内してくれるから」
    「……その隠し部屋の方に泊めてくれれば良かったのに」
    「使ってたみたい。その道の人が」
    「その道」
    「ニコの同類」
    「……。……後輩の交友関係が俄然心配になってきたよ」
    「アハハ。害はないし」


     ミドリがアヤメさんに甘えるの可愛いなあ
     里の人間にはどうしても、育ててもらった恩もあるし期待に応えたいしで背伸びしがち、教官に対しても良い女ぶろうとしてるところがある
     アヤメさんはふっと現れた先輩で怪我して落ち込んでるとはいえ年上の頼れるお姉さんで、ヒノエさん達に言えないようなちょっと悪いこともこっそり言えるし、初めて得た自分を他者として見てくれる相手だから他の皆に言えない悩み事も相談できる
     里出身者だから他人じゃないけど外から来た人でもある




     移動をさっさと諦め、シェルターで夜を過ごす段取りを組んだ判断は正解だった。まさかこれほど里に近い場所でここまでの足止めを食らうとは思っておらず、当然野宿の予定もなく、寝袋も天幕も担いでいない軽装だったのだ。天候さえ良ければ1日もかからず越えられる山のその中腹あたりで、今2人のハンターは身を寄せ合って過ごしている。

     雨は夜半を越えた今でもなお、一層勢いを強めて降り続いている。この辺りでは珍しいほどの豪雨だ。一滴一滴が大きく重い、力強い雨だった。隣で眠る後輩が言った通り、油紙だけではいずれ破れてしまっただろう。大岩が近くにあることを彼女が記憶していたのも助かった。風を防げるかどうかで随分違う。

     太い枝で作った三角形の枠組みに水を弾く油紙を被せ、その上から葉のついた枝を隙間なく被せた、即席のテントの中は狭い。女2人が這い込んで蓋をすればそれでピッタリ、身じろぎする隙間さえ無いほどだ。当然荷物も入らなかった。油紙が1枚しかなかった為、重要な荷物は昨日の狩りでたまたま剥ぎ取っていたルドロスの皮で包んで急場を凌いでいる。朝までに浸水しないことを祈るしかなかった。耐水性のある物や、ある程度諦めのつく物は、泥汚れを防ぐためにそこらの木に引っ掛けておいた。運が良ければ回収出来るだろう。火薬は惜しいが、どうにもならない。

     狭さを除けば、岩陰に建てた低いテントの中は存外快適だった。身体は既に乾いているし、グースカ寝ている熱源が真横にある。自分が蔦と弾力性のある枝を使って編んだ土台のお陰で、地面からの浸水の心配もない。孤独でなく、濡れて凍えていない夜のなんと安らかなことか。雨以外の懸念事項として、ここがジャグラスの縄張り内であることが挙げられるが、彼らは気温の低い夜間の活動が鈍い上、この雨では匂いを辿られにくい。万一に備えて交代で眠ることにしたが、今のところは何かしらの気配を感じることもなかった。

     火を焚くことも出来ず、月も星もない。灯蟲は服の中に潜り込んで眠っている。光源の無い夜、テントの中は勿論真っ暗だ。眼を閉じても開いても同じ黒を見続けさせられて、そのうち自身の存在さえあやふやになりかける。
     止まない雨がどこか近くに作りだした、即席の小さなせせらぎが聞こえる。強く風が吹く度に、大粒の雫が屋根の葉と枝を叩く。隣で眠る同胞は、健やかに寝息を立てている。

     誰も見ていないテントの中で、大きな欠伸をひとつ。雨勢はまだ弱まらない。眠気を堪え、頬杖をつき直す。肘の下で、土台に敷いた小枝がパキ、と軽い音を立てて折れた。




    「やばい、身体バキバキ」
    「解しときなよ、まだ歩くんだから」
    「組手する?」
    「やだよ。泥塗れになる」
    「はーあ。結局1日近く潰されたわね。今からだと夕方になるかしら」
    「足場が悪いからね。急がないほうがいいよ。……何か食べる物ある?」
    「えー、やっぱり携帯食料はダメになってるわ。昨日剥いだお肉くらいかしら」
    「……水筒もダメだね。風で落ちたんだろ」
    「ウッソ泥まみれ」
    「お湯沸かそう」
    「乾いた薪見つかるかしら……」
    「土台に使ったやつは?」
    「今のところ一番マシだけど、火が付くかは微妙なとこね」
    「手分けするか」
    「はーい。しかしアヤメさんで良かったわ。教官だったらミッチミチだったもの」
    「……そもそも入るの? あの人のあの肩幅で」
    「微妙なとこね。あの人暑いのよね、体温が。昔修行中似たようなことしたけど、お互い汗かいてね」
    「後で聞くから。薪」
    「アハハ。西側見てくるわ」
    「うん」




     アヤメさんとミハバとツリキとヒバサが飲んでるところに帰ってくるミドリ(男と別れた直後)

    「またぶすくれて帰ってきたね。フられでもした?」
    「フったの! こっちから!」
    「な? 3ヶ月持たなかったろ。二千な」
    「あークソ」
    「人の恋愛で賭け事するな!」
    「そう怒るなよ、せっかくの可愛い顔が台無しになるぜ」
    「あれ、ヒバ兄帰ってたの。モンジュ姉は?」
    「もう寝てるよ」
    「ふーん」
    「お前絶対理想が高すぎるんだって」
    「理想も高くなるわよ、里長に負ぶわれてヒバサ兄に遊んでもらって教官に師事して育ってきたのよ、私! 里にはゴコク様もハモンさんもいるのよ? 並の男で満足出来るワケないじゃない!!!」
    「出た」
    「はいはい」
    「じゃあ具体的に誰が理想なわけ? 里長?」
    「そこまで高望みしないわよ。私より強い人で私のこと全部理解してくれる人なら」
    「……いる? そんな奴」
    「そもそも『私より強い』に該当する独身男が滅多にいないんじゃないか?」
    「……最低ラインどこだよ」
    「少なくとも上位ハンターで私のこと全部分かろうとしてくれる人」
    「譲歩の距離が短いなー」
    「いるか?」
    「顔に拘らないなら何人かいるんじゃない?」
    「お髭が似合う伊達男系イケメンじゃないとヤダ」
    「あーそのタイプよく連れ回してたな」
    「我儘ここに極まれりって感じな」
    「ヒバサさんじゃないのそれ」
    「そりゃ、私の初恋ヒバ兄だもの」
    「お、嬉しいこと言ってくれるな」
    「気付いてて放ったらかしてたクセに……」
    「何だそこ拗れてるのか?」
    「何ワクワクしてんのよ悪趣味ね。とっくに済んでるわよ、これくらい小さい時の話よ? まだ十二とかその辺り」
    「早熟だったもんなーお前」
    「やめてよ髪が傷むじゃない。……はーあ。あー次探そ。どこ探せばいるのかしら、私より強くて私のこと何でも分かってくれてお髭の渋いイケメンで声が良くて夜上手い男」
    「条件増えたな」
    「……それさ、『私より強い』ってやつ。どういう意味で言ってる?」
    「私よりいっぱい古龍倒せる男」
    「そこ考え直したら。強さの基準にも色々あるよ」
    「基準……」
    「例えば、サポートがアンタより上手い奴もアンタより強いってことにするとか」
    「ほほお」
    「おお」
    「……なるほどね」
    「該当する奴いるだろ、弓とか笛とか」
    「そうね、何人か」
    「機会があったらアタシの知り合いも紹介してやるし」
    「ありがと。……こう言っちゃなんだけど、意外と親身になってくれるのねアヤメさん。もうちょっと突き放されるかと思ってた」
    「今のアタシは機嫌が良いの」
    「そりゃ良い気分だろうなあ……」
    「あれだけ勝ちゃあな……」
    「何してたの? 丁半?」
    「カード」
    「花札な。いや強い強い」
    「ヒバサさんには負けたけどね」
    「覚えたてであれなら大したモンだって」










     ハン♀とアヤメさんの2人で軽く遠征してる時に中継に使った町で、若い頃はヤンチャしてた風なちょっと軽薄そうな壮年のハンターにアヤメさんが声掛けられてて、空気読んで外してたハン♀が後で合流した時にはもう普通の顔してたけどなんか空気がピリついてておや? と思うハン♀
     次の晩、野営の準備を終えて2人で火を見ながらそっと「昨日の人、どういう関係?」って聞いて、アヤメさんは一瞬誤魔化そうとするけどハン♀の目を見るともう察されてるのが分かって、諦めて目を逸らして「……昔の男」って言う
    「意外だわ、ああいうタイプ苦手そうだと思ってた」「アイツで苦手になった」「……」「……アタシは若くて馬鹿だったんだよ。あんなのに引っかかるくらいにね」苦そうに眉を顰めて少し唇を尖らせる横顔がなんだか妙に幼く見える。この気高い人にも男に縋った過去があったんだなあと、なんだか新鮮に思いながら橙の光を照り返す銀髪を眺めるハン♀。今までとはちょっと違う新たな親近感を感じつつ口を開く。

    「こないだの男との顛末、私アヤメさんに言ったっけ」「……?」「私の前に4股かけててね、つまり私が5人目。集まって5人がかりでボコボコにしてやったわ! 泣いてた。ざまあみろ」
     フン、とわざとらしく鼻を鳴らすと、冷えていた気配が和らいだ。「ふ……アイツ? あの双剣使い?」「そうそれ」「アンタもよく軽い男に引っかかるよね」「そうよ、見た目ああいうのが好みなんだけど。中身が無いヤツ多いのよ! スッカスカ!」(ハン♀の好み:ちょいチャラめ伊達男系イケメン。髭があると尚良し)「分かる」「分かるぅ? アヤメさん」「分かるよ」「……ふふ。アヤメさんとこういう話してみたかったのよね」
     アヤメさんは声を出さずに笑って、フイと背中を向ける。「もう寝るか」声音が冷たくないので拒絶ではないとわかる。だからハン♀も笑ってじゃれつく。「ええーもっと聞かせてよぅ」「嫌だよ」「ヤダヤダ寝かせない」ぐらぐらと揺さぶられてもアヤメさんは笑っている。「……じゃあ一対一ね、アンタが一個言ったらアタシも一個言う」「やった」

     肩布にくるまって荷物にもたれて、いつでもそのまま寝られる体勢。時折薪を足したり白湯を飲んだりしながらぽつぽつと語られる昔話は、ハンターとしての体験談とはまた違う、ひとりの女性の苦い思い出。それを聞かせてくれるまでに信頼されていることが嬉しくて、自分もひとつ、里の誰にも言ったことのない失敗を打ち明ける。口を挟まず最後まで聞いて、「そっか」と一言。ポットを取って白湯のお代わりを注いでくれる。この人の優しさは静かで温かい。湯気を追って雲を見上げる。柔らかい夜が更けていく。


     ふとハン♀は、修行中に教官が言っていた事を思い出す。『複数で火を囲むと、不思議と同族意識が芽生えるものなんだよ。心を開きやすくなる。仲良くしたい相手には、そういう状況で話しかけてみるのも一つの手段だ。……勿論周囲の警戒は怠らないように。君はいつも慢心しがちだから尚更気をつ』……ここから先は思い出さなくていいかな。

     ハン♀の打ち明け話は『騙されて5人がかりでマワされたことある』でした。御礼参り済みだけどやっぱり辛かったし今でもたまに夢に見る。御礼参り済みだけど。首謀者2名をボコして男色家の知り合いの屋敷に預けたけど。
     それで男遊びを辞めないのがこの子のヤバいところなんだよな。

    『男に縋った過去』がアヤメさんにあるかは不明だけどハン♀はそう読み取った。私はあってもいいと思う。一回くらいはそういう失敗してて欲しい。




     しゃん、しゃん、と鈴が鳴る。出し抜けに、それもすぐ近くで鳴り始めたので、アヤメは思わずその方向を向いた。現在地は山と山の合間、谷の底から少し上がった位置であり、昨日降った雨で落ち葉と土はたっぷり水を含んでいる。人が通るような場所でなし、一体何だろうか。

    「やっば……!」

     後輩が洩らした余裕のない声を背中で聞く。あの音が何なのかを彼女に聞こうとまた体を反転させて、アヤメは驚き瞬いた。平素の横柄な態度をどこへやったのか、後輩は青ざめ狼狽えて、口元を押さえた手など細かく震えてさえいる。狩りの中、窮地に陥った時にすら見たことのない表情だった。

    「何?」
    「……今から逃げてちゃ間に合わないわね。アヤメさん、あっちに向いて平伏して、声出さないで」
    「は?」

     彼女の態度からただならぬ事態なのは察せられるが、一体それが何なのかは見当もつかない。しかし急き立てられ、取り敢えずは言う通り膝と手を地面について、頭を下げた。そうしているうちに鈴の音は大きくなっている。近付いてきていたのだった。

    (絶対目を合わせないで。声も出さないで)
    (一体なに)
    (……すぐ分かる)

     しゃんしゃんと規則的に鳴る鈴の、持ち主はやがて姿を現した。顔を地面に向けたアヤメの視界の端を裳裾が横切ったのだ。所狭しと刺繍を施された若葉色の艶やかな衣装も、周りの景色が映るほどに磨き上げられた沓も、身の丈を軽く越えるであろう引き摺られた長い黒髪も、このような道行きであるというのに泥汚れ一つ付いていない。――明らかにこの世のものではなかった。
     隣で同じく平伏している後輩にそっと目を向けると、微かに頷き、(静かに)と目線で伝えてくる。遠くからぎぎ、と何かが軋む音がした。

     世に数多いる狩人の中には、迷信深い手合いも数多い。曰く、『砂漠の真ん中に近づくと逃げる湖がある』だとか、『船の帆の上に火の玉が燈るのは沈没の前兆である』だとか。眉唾ものだと一笑に伏してきたが、では果たして眼前のこれは一体何か。
     鈴を持った女は、アヤメと後輩に目もくれず滑らかに歩き去る。その後からは、朱色の水干に身を包んだ稚児たちがぞろぞろとやってきた。彼らに踏み締められたはずの落ち葉も草も、踏まれて倒れることもせず、こそりとも音を立てない。
     稚児の後には車が続く。車輪まで漆でもって塗られた立派な車だ。大きさからして何か動物に牽かせる車であろうが、その長く伸びた軛の先には何も繋げられていない。黒い車輪が、一巡りする度にぎぃと唸る。
     ふと車に掛けられた簾の隙間から気配を感じた。こちらを認め、笑う。

    「停めよ」

     後輩の肩が、びくりと強張った。


    「良い月よなあ」
    「……まことに。ご機嫌麗しゅうございます、姫君。此度の御婚礼、カムラを代表してお祝いを申し上げます。後出立にはまことに相応しい、涼やかな良い夜でございます」
    「こうして逢い見えるは何度目であったか」
    「は。四度目にございます、姫君。幾度となく御拝謁を賜りますこと、幸甚の至りに存じます」
    「随分口が立つようになったものよの」
    「恐れ入ります」
    「よく育った。美しゅうなったものよのう。どれ、顔をお見せ」
    「……そ…そればかりはご寛恕の程を」
    「無礼者めが」
    「ほほ。赦す」
    「姫様」
    「よい。して、其方は」
    「……カムラの産まれの狩人。我が同胞にございます」


    「ご……ご機嫌が良くて助かった……」

     ひたりと後輩が、その髪や肌が泥に触れるのも厭わずに、身体中の力を抜いて地に伏せた。アヤメも一気に緊張が解け、座り込んだ。

    「……何だったの、あれ」
    「向こうのお山のヌシ様の御姫君おんひめぎみよ。何年かに一度、ああして違う山にお嫁入りなされるの。お住み替えね」
    「……訳分かんない」
    「……さて、御婚礼の儀の間、ここらは禁足地になるから。その旨、周り中の里に触れ回らなきゃいけないの。まかり間違ってあの御方々の姿を目にしようものなら命の保証がないのよ。さっきので分かるでしょ」

    「アンタ敬語使えたんだね」
    「必死で覚えたのよ。御目通りかなうのこれで四度目なの。どうしてか気に入っていただけてるみたいでね」






    「あ、アヤメさん、そのー、今夜食事でも」

     集会所のカウンター越しに、ミノトと会話していたところ。
     厨房側から聞こえた声に、この里のハンターであるミドリは弾かれたようにそちらへ顔を……向けかけ、すんでのところで思い止まった。
     見れば目の前のミノトも似たような塩梅で、切長の目を見開き、興味と遠慮の境でぷるぷると堪えている。その隣のマイドも、意味もなく口を開けて天井を見上げ、向こう側のハナモリも、何か空咳をして動揺を誤魔化している。太鼓奏者達は休憩の振りをして座り込み、茶屋勤めのアイルー達は材料を取りに行くかと声を掛け合い自然に脱出。厨房に近いところに居たオテマエは、客に注文の品を運んできたそのまま、テッカちゃんに餌をやって時間を潰しにかかった。ちなみにゴコクは不在である。

     今この時、集会所メンバーの心は以心伝心・一心同体。
     即ち微かな身振りと目配せにより、完璧に意思の疎通が図れる状態となっていた。

    (言ったーーーーーー!!!!!)
    (言いましたね!!)
    (祭りニャ!!!!)
    (誰かナカゴとコジリ呼んできて!! 気にしてたから!!!)
    (アタシが行ってくるのニャ!!)
    (やっと解放される!!)
    (ばんざーい!!!!!!)

     大盛り上がりだった。目線と身振りだけで。それ程に待ち望まれていた瞬間だったのである。極々静かに歓喜に打ち震える彼等は、しかし大事なことを忘れていたのだった。




     話は数ヶ月前に遡る。


    「……ねえ教官、いい加減そろそろウザいんだけど」

     ミドリは苛々と己の師匠を見上げた。彼は定位置の屋根の上から一艘の舟を見下ろしている。目を凝らせばその船上に、美しい銀髪が靡いているのが確認できた。ついさっきクエストに向け出発したばかりのアヤメだ。その背中をウツシは、手に持った食べかけの団子を齧ることも忘れ、ただぼんやりと見送っているのである。

    「……………………」

     弟子の言葉すら耳に入っていない様子に、自己顕示欲の高い英雄はピシリと目元を歪めた。

    「チッ……聞けよ」

     おおよそ師匠に向ける態度ではない。普段であれば速やかに教官によって関節を極められるか地面に押さえつけられるかしているが、当のウツシはまだぽややんと微かに目元を染めて舟を見ている。

    「ハァ」

     ちゃきん。とミドリが苦無をわざと鳴らした音に、ようやく反応して振り返った。これはこの師弟が仕事をする際の合図の一つである。

    「……ん? 何かな愛弟子」
    「はあ……。いい加減にしてって言ったの」
    「何を?」
    「アヤメさんよ」
    「アッ!?!?」

     アヤメの名前を出しただけで、団子を取り落としかけわたわたと手足を振り回す。化け物じみた反射神経を誇る彼のこと、すんでのところで受け止めることに成功したが、ミドリのジト目は変わらず。むしろ険が強くなっている。

    「なぬ、何の話だい、まなで」
    「マジでホント、いい加減にしなさいよね……。見てるだけでムズムズするからさっさと告って玉砕してきなさいよ、鬱陶しいったら」
    「うっ……!?」





     さて冒頭に戻る。皆が見て見ぬフリをする中、普段の快活な様子とは打って変わってあちこち目を泳がせ、汗マークを無数に飛ばす男。それを銀髪の上位ハンターはじっと眺めて、無表情に一言。

    「なんで?」

     これにウツシはぐっと詰まった。意味もなくぱちぱちと瞬きをして





    「そういえばアタシ、ウツシ教官の奥さんに会ったことないんだけど」

     アヤメは立ったまま串焼きを頬張り、まぐまぐ咀嚼しながら呟いた。里長が主催する、里守とハンター達の慰労会から「奥さんが待ってるから」とさっさと退場したウツシを見送っての言である。

    「あー、あの人シャイだから」

     アヤメに並んで立つミドリは、五本目のつくねに手を伸ばしている。好きな味を食べ続けるのが彼女の癖だった。

    「アンタはあるんだよね?」
    「そりゃまあ、師匠の奥さんだもの。それなりに付き合いあるわよ。獲物お裾分けしたり、ご飯御呼ばれしたりとか。気になるなら、今度顔見せにいく?」

     ミドリは今夜は機嫌が良い。大社跡に出没したナルガクルガを無傷で仕留めてきたそうだ。その上タダ酒・タダ飯に預かれるとあって有頂天、鼻歌まで歌いながら、瓶ごとせしめてきたなかなか上等の米酒に舌鼓を打っている。
     その酒精に蕩けた炎の色の瞳が、不意に何かに気づいてアヤメを見やった。

    「……そっか、アヤメさん知らないわよね、教官の結婚の経緯」

     悪戯っぽいような声音と、表情だった。どこかしら下世話でもある。それでなんとなく話の内容が分かる気がして、アヤメは少し渋い顔をした。噂話はあまり好きではないのだ。特に恋愛沙汰は。
     それでも気にはなり、つい聞き返してしまった。

    「なに、何かあったの」
    「略奪婚したのよあそこ」
    「は?」
    「お、あそこ空いたわね。座る?」

    「……どっちが、どっちを?」
    「そりゃもう教官がよ。結納間近の婚約者引っぺがして、奥方のこと連れて帰ってきたの」
    「へえ……」
    「……大きな声じゃ言えないけど、その元婚約者っていうのがあんまり良い相手じゃなかったのよね。お金持ちだけど評判悪い家で。それで、なんか余計燃えあがっちゃったんでしょうね。通りすがりに一目惚れした勢いもあって、もう猛烈な勢いで本人も家族も口説いて口説いて口説き落として、向こうの家への始末もつけて。一ヶ月くらいで、自分達の祝言の段取り始めてた」
    「なんか、想像つかないような、つくような……」
    「それでもまあちょっとは揉めたわ。特にハモンさんとか、怒っちゃってね」
    「それは想像できる」
    「うふふ。ま、今までの里への貢献度があの人ダンチで高かったから、結局はお目溢しってことになってね。ハモンさん達は里長が説得して、里の皆んなにも説明して、晴れて一緒になったと」





    「ねえ、あの男武器なんだと思う?」
    「ん?」
    「あそこのティガ装備の男」
    「……大剣」
    「へえ。根拠は?」
    「心眼付いてるだろ、あの装備」
    「確かに刃のあるやつなの確定だけど、太刀とかかもしれないじゃない」
    「それにしては身体が重い気がするな」
    「賭ける? 私太刀にする」
    「じゃあ負けた方が一杯奢るってことで」
    「いいわよ、じゃ答え合わせね。……ねえ、ちょっといい?」
    「何ださっきから、人のことジロジロと」
    「悪いわね。あなたが何担いでるのか気になったのよ。教えて貰える?」
    「大剣だ」
    「ホラ」
    「すごい。じゃあ奢るわ。あなたにもお詫びに一杯」
    「ふん」
    「上位よね? どこから?」
    「北だよ。ここらに出るマガイマガドって竜がやり甲斐あるって聞いて来たんだ」
    「へえ。マガイマガドなら、確か昨日あたり溶岩洞で依頼が出たはずよ」
    「ああ、受けたよ。明日出る」
    「そうなの。気をつけて」
    「お前らはこの里のハンターだろ、2人揃ってライト使ってるとかいう」
    「やっぱり噂になってるか」
    「アハハ、まあ珍しいわよね。こっちのアヤメさんの方が先輩なの」
    「ボウガン使いとしてはこのミドリが年季も力量も上。古龍をやっつけたのもコイツだよ」
    「ヘンなヤツら。分担すりゃ楽だろ」
    「あら、楽しいわよライト2台で十字砲火。硝煙で周り見えなくなるくらいぶっ放すの、最高に気持ちいいんだから!」
    「……ま、アタシ達お互いソロ派だから、滅多に同じクエストなんて受けないけど」
    「なんだそりゃ」



    「……で? なんだっていきなりあんな事言い出したワケ?」
    「この間ユクモ村に行った時、温泉で出会った奴に当てられたのよ。『軽弩使いだろ』って。そいつの言うことが面白かったから、アヤメさんともやりたいなって思って」
    「ふうん。アンタは何て言われたの?」
    「『右腕と右肩が発達している。殴る為の筋肉じゃない、衝撃を受け止めて支える為のものだ。加えて足に擦過傷が多い。スライディングを多用してるだろ』って」
    「へえ」
    「あと、目付きが遠距離武器使い特有のものだって言われたわね。なんか抽象的でよく分からなかったけど」
    「ああ、うん、何となく分かるよ」
    「そうなの?」
    「うん。特にボウガン使いは顕著だけど、確かに目付きが違うね。全体を俯瞰しつつ一点に集中する感じ……アタシも上手く言えないな。近距離武器でも、一定以上の力量があるヤツはそういう見方するんだけどね。ボウガン使いはもっと極端というか」
    「あーそんなこと言ってたわ。面白いわね」
    「あとね、狩猟帰りには硝煙の匂いが残ってることがあるよ。自分じゃ気付いてないだろうけど」
    「えっウソ!」
    「アンタは髪長いから余計にね」
    「うわー、気をつけてたのに」



    「何それ」
    「……」
    「……」
    「アヤメさんはさ、資格取る前、どの訓練が一番苦しかったなーとかある?」
    「思い出したくない」
    「私ね、寝ないやつ一番嫌いなのよね」
    「……」
    「こないだ教官に『復習だよ!!!!』って連れてかれて、寝ないで走るやつやらされたのよ、3日」
    「やっぱりスパルタなんだね、ウツシ教官」
    「元気ドリンコ隠し持ってたの秒でバレて1日増やされたのよね」
    「あーあ」
    「で、へばってたら、てかへばるに決まってるじゃない、なのに『うーん、やっぱり体力が落ちてるね愛弟子。明日から鍛錬の時間を増やそうね!!!』って言われて、コレなわけよ」
    「哀れな……」
    「ハッキリ言って死んだ方がマシ」
    「気張りな。骨は拾ってやるよ」
    「助けて……」
    「うん、順調そうだね愛弟子!! 無駄話する余裕があるなら、重りを一つずつ増やそうか!!」
    「アヤメさんの質問に答えてただけなの!!! ねえそうよねアヤメさん!!」
    「あ、アヤメさんもやってくかい?」
    「いや、アタシは仕事だから。頑張って」
    「ああああああ人でなしいいいいいぃぃぃ」



    「生きてる?」
    「死ぬ一歩手前……」
    「何、喧嘩でもした?」
    「昨夜煽りまくったらキレさせちゃって抱きつぶ、もが」
    「……それ以上言わなくていいから。ご馳走様」
    「待ってひとりにしないで、人気のないところに行くと襲われる」
    「……別れたら?」
    「ドン引きしないでよ……。最高の旦那なのよ、今は怖いけど」
    「正直に言って巻き込まれたくないんだけど」




    「アヤメさん……買い物付き合って」
    「何でアタシ。ヒノエさんは?」
    「なんか里長に着いて出かけちゃったの、ミノトさんも。ねーたまにはいいでしょ?」
    「他にもいるだろ……」
    「アヤメさんがいいのよー。浴衣仕立てに行こう? 小物見に行きましょうよー」
    「浴衣ぁ? まだ春になったばっかりなのに?」
    「遅いくらいよ。ねーいいでしょ? 奢るから! あんみつ食べに行こう? ね?」


     その後小一時間粘られ渋々出かけることを了承し、着替えまでさせられて一日中連れ回されるアヤメさん

    「拘るね……」
    「後悔したくないのよ。こんな商売してるんだもの、いつどうなるか分からないじゃない。で、生きる活力のために未来への希望ね」
    「……アンタはそれな訳ね」
    「そ。アヤメさんもある?」
    「……次の狩り。とりあえず今はゴシャハギを見たいかな」
    「いいわね! 怖いわよあいつ、初めて接敵した時漏らすかと思ったわ」
    「リーチが長いって?」
    「うん。ライトボウガンだと楽しいわよ、走り回って撃ちまくって!」


    「あ」

     魚が皿から逃げていった。

    「力任せにやるからだ」

    「下の箸は完全に固定して、上の箸だけを動かすんです。長さも揃えて」
    「……分かっては、いるんだけどね。元々そんなに小器用じゃないんだよ」


    テーブルの上に置かれているのは、大小様々な皿。それらの上には、スライスされたパンやクラッカー、切り分けたチーズ、少しの焼き菓子と、船旅を乗り越えてなお瑞々しい果実が数種類、それから小さな瓶に詰められたジャムが幾つか。その他に、割り混ぜて焼いた卵や茹でた腸詰などのごく簡単な料理も並ぶ。そして一番肝心なのは、中心に据えられた大きな金属製のティーポットだ。濃く煮出した紅茶は置き台の炭火によって保温されている。

    「おはよう」
    「おはようアヤメ殿。時間通りだね。さあ、かけたまえ。カナリーノ、チーニョ! 朝のお茶にしよう!」


    「あら、珍しい取り合わせね。おはよ」
    「おや、早いね」
    「おはよう」
    「集まって朝ごはん? 美味しそうね」
    「貴殿も如何かな?」
    「……いや、私はもう食べてきたから、うん。お気持ちだけ」
    「ふ、……この子チーズ苦手なんだよ」
    「おや」
    「言わないでって言ったのに!」
    「……気を悪くしないでね。他所の文化を貶したりするつもりじゃないのよ、ただその、ちょっとまだ食べ慣れないのよ」

    「おいしい」
    「あれ、アンタチーズ克服したの?」
    「フレッシュ・チーズだよアヤメ殿。これならば特有の風味が強く出ないからね、英雄殿も楽しめるだろうと踏んで取り寄せたのさ」
    「おいしい」
    「よく食べますニャー」
    「もう壺が空になりそうですニャ」
    「冷却袋に入れて届けさせたからね、鮮度も抜群だよ。どうかな貴殿も、午後のお茶を一杯」
    「……じゃあ、一杯だけ」

     動物の乳を利用する習慣がないこの地域では、乳製品は希少だった。






     同じ宿の別部屋に泊まってるアヤメさんが自分の荷物に紛れてたミドリの私物持って行ったら上下レースの下着姿でホイホイ扉開けてきて呆れ返るやつ
    「無いと思ったら。わざわざありがと」
    「なんでそんな格好……」
    「あーこれ? 気にしないでよ」
    「馬鹿なの? ここがどこだか分かってる? 鍵も掛けずに暮らしていけるあの里とは違うんだよ」
    「そんじょそこらの男には寝込みを襲われたって負けないし、私を押さえ込めるくらい強い男なら抱かせてやってもいい」
    「……」
    「心配してくれてありがと、アヤメさん」
    「呆れてるんだよ……。もういい。1、2回痛い目見な」
    「もう3回見た」
    「馬鹿なの?」
    「流石に複数で来られると勝てなかったわね。まああれはあれで悪くなかったんだけど、捻じ伏せられてる感が」
    「おやすみ」
    「あ」



    「冬に飲む冷酒もオツなもんだね」
    「ね、これは冷たい方が合うって言ったでしょ」
    「完璧」
    「うふふ」
    「これ作ったの?」
    「作ったわよ。朝から仕込んだんだから」
    「マメだね」
    「もっと味わって食べてよぅ」
    「うんうん」
    「聞いちゃいないんだから……」
    「そういえば、どうなの最近は」
    「え?」
    「教官とは」
    「あー、おかげさまで仲良くやってるわよ」
    「それにしちゃ、前ほどベタベタしなくなったよね」
    「お互い落ち着いたの。そっちは?」
    「ぼちぼち」
    「アヤメさんもだけど、意外とあいつも態度変わんないわよね。気付いてない人結構いるわよ」
    「触れ回るようなことでもないだろ」
    「……不安にならない?」
    「ならない」
    「……強いわね。いいなあ」
    「……」
    「……美味しいわね」
    「ああ」
    「こないだの狩りどうだった? あの、槍初心者に着いてったやつ」
    「あれか。……正直、あまり上手くはいかなかったな。お互い理解が浅くてね」
    「相手なんだっけ」
    「ビシュテンゴ」
    「あー、初見で持ったばかりの槍なら、確かにキツいのかもしれないわね」
    「アタシもあいつ初めてでさ」
    「そうだったっけ? 腹立つでしょあれ、煽ってくるの」
    「ホントうざい何あれ」
    「体型も毛並みも色合いもすごく好きだし、戦い方も器用で感心するけど、あれは許せない」
    「分かる。ババコンガに比べりゃ可愛いけど」
    「ば?」
    「ピンクの猿。糞投げてくる」
    「うっわ。逢いたくない」
    「アンタ大抵のモンスター褒めるけど、嫌いなヤツいないの?」
    「ばばなんとかはその前情報だけで嫌いね」
    「戦ったことあるヤツでは?」
    「んー、戦闘が退屈なのはバゼルギウスかしら。動きが遅くてただの的当てになってつまんないのよね。同じ理由でジュラトドスも嫌い。適当に撃ってるだけで倒れちゃうから消化不良になるのよ」
    「ふうん」
    「アヤメさんは?」
    「鉄板だけど、オロミドロ」
    「嫌いな人多いわね」
    「ああいう形で動きを制限されるのはストレスだね。狭い所で泥壁出されるとイライラする」
    「あの泥すごく肌荒れるわよねー」
    「荒れるで済ますなあんなものを」
    「逆に好きなモンスターは? 装備着てるくらいだしやっぱりナルガクルガかしら」
    「まあ、そうかな。思い入れのあるモンスターだね」
    「へえー。何かあったの?」
    「秘密。アンタはジンオウガ?」
    「……うん。あとマガイマガド。動きが速いやつが好きよ。だからナルガも好き。あと苦手だけど好きなのタマミツネ。威嚇の時に前脚をちょこっと上げて踏みしめるでしょ、あれが可愛くって。色合いも綺麗だし」
    「早口だね」
    「うふふ。大抵皆んな好きよ、格好良いもの。どいつもこいつも一生懸命精一杯生きようとするじゃない。真っ直ぐにこっちを睨んで」
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