二人でもパーリナイ【オル相】「なんですか、それ」
オールマイトの部屋を訪ねた相澤は、ベッドの足元に置かれた馬鹿でかい紙袋に目を遣る。ぬいぐるみや肌触りの良いタオルのような生地の物体がはみ出しており、また無駄遣いしたのかと眉を顰めているとその表情で察したらしい部屋主は違う違うとやんわり否定した。
「それ、八百万少女から貰ったんだ」
「貰った?」
一体何を、と腰を屈めて袋の中身に手を伸ばす。ふんわりと指先が沈むほどふかふかしたそれはタオルのようであったが。
「なんだこれ」
掴んで引き上げると、タオルではないことはわかった。謎の部位があるがこれは。
「ルームウェアだね」
「はあ……なんか耳とか尻尾とか付いてますけど。フードまで。邪魔じゃないですか?」
相澤が持ち上げた黄土色のルームウェアはうさぎと思しき耳と丸い尻尾、袋の中に残っている灰色のもう一着には猫の耳と長い尻尾が生えている。
「で、なんで八百万がこれを?」
そもそもの話を振ると、オールマイトは相澤の手からうさぎの方を受け取った。
「寮でパジャマパーティーをすることになったそうだよ。どうせならお揃いのウェアでやった方が盛り上がるって思って作ったんだってさ。芦戸少女が見せてくれてね。可愛いねって言ったら何故か私たちの分も作ってくれて」
「訓練……」
個性の無断使用ではと目くじらを立てる前にオールマイトの声が挟み込まれる。
「一人一人のサイズに合った衣服を創造する訓練の一環だよ。ほら、私にぴったり!」
そう言って自分の体に重ねてアピールするのを見て相澤は小言を溜息に変えた。
「君のも、君の体にぴったりさ。と言うわけで私達は女子のパジャマパーティに参加できないから、今夜これを着て二人でゆっくり過ごそうよ」
「呼びつけたのはそれが理由ですか」
今日は土曜なのにオールマイトがマンションに帰らない。仕事はいっかな減る様子がなく、相澤がオールマイトのマンションを訪ねたのも三週間前の土曜が最後だ。
学校敷地内で恋人らしい行動は慎むと取り決めてはあるが、寝間着に着替えてひとつの部屋で過ごすことは、ぎりぎり許容範囲にしても許されるだろうか。
考え込んで黙ってしまった相澤を見つめるオールマイトの不安気な表情に、恋人らしいことをあまりしてやれなくて申し訳ない気持ちが刺激される。
「……着て寝るくらいなら良いですが。それ以上のことはしませんよ」
ぱあっとオールマイトの顔が明るくなる。
「うん! 勿論! さ、着替えて着替えて。きっと似合うよ!」
その後は促されるまま着替え、何故かズボンのない灰色猫のふわもこルームウェアに身を包んだ。
「ふふ。相澤くんだぁ」
ベッドに横たわり枕に頭を乗せる。後ろから緩く腕を回して来たオールマイトは上機嫌に相澤の後頭部に鼻面を埋めて匂いを嗅いだりしていた。
オールマイトが、相澤が腕の中にいることがよっぽど嬉しいらしいというのはぱたぱたと動く爪先や体にフィットする位置を探すようにあちこちを彷徨う右手からも良くわかる。そのくせ首の隙間から上半身を抱き込む左手はオールマイトと密着するように相澤の胸に添えられたままだ。
「ふかふかだね、このルームウェア」
「……そうですね」
「いい夢が見られそうだ」
「……そうですね」
「良く似合ってるよ、猫ちゃん」
「はあ」
「眠くない?」
「すぐ寝られますけど」
オールマイトの右手は、最終的に相澤の下腹部に添えられた。もちろん性的な行為を匂わすものはない。下腹を温めるような優しい触れ方でとろけるような眠りに誘われながら、相澤はオールマイトの強固な理性を頼もしく、そして恨めしく思った。