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    ankounabeuktk

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    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    431話、新婚旅行にて不在説推し

    伝言ゲーム【オル相】 ふと手元のスマホで時刻を確認し、オールマイトは薄く微笑んだ。
    「そろそろ同窓会始まってるかな」
     テーブルの上に所狭しと置かれた料理の数々を眺め、どれにしようか迷ったあとで伸ばした山菜の和え物の小鉢に箸を伸ばす。
     独り言のようなオールマイトの声に対面に座っていた相澤は丁度すき焼きの肉を卵に付けて口に運ぶところで、視線でだけ聞いていますよと応じてからもぐもぐとそれを咀嚼して、気乗りのない返事をした。
    「あぁ。そういや今日でしたか」
    「折角誘ってくれたのに行けなくて残念だ」
    「あいつらが元気なことはわかってます。声が掛かるのは有り難いことですが、いつまでも担任がしゃしゃり出るもんでもないでしょう」
     相澤の言い分ももっともだ。元教え子たちは成人し今は立派にヒーローとして活躍している。探さずとも誰かしらメディアやネットで名前を見ない日はないし、相澤の職場では緑谷が教師として同僚になっているわけで、そこにまた担任と教え子という属性が強く出て酒も混じる場に入っていくのはどうにもこそばゆい気持ちで遠慮したというのもある。
     しかしながら教師としては長い活動時間ではなかったオールマイトにとってA組というのはやはり唯一であり特別で、いつまでも彼らを見守っていたいというもはや親心のような感情が理解できないわけではないが、頻度は考えるべきだと思いながら相澤は手酌で注いだビールのコップを手繰った。
    「今回は日程の都合がつかなかったけれど、次に誘われたら行こうね」
    「酔っ払いに絡まれるのがオチですよ」
    「きっと楽しいさ」
     それには同意せず相澤は黙って飯を食べる。
     窓の外に視線を遣れば、湯気立ち上る露天風呂が見えた。源泉掛け流しと謳う人里離れたところにある宿で今夜から二泊、二人はのんびりと過ごすことになっている。
     ずっとアメリカで暮らしていたオールマイトがやっと拠点を日本に移せることになった、その祝いのような旅だった。
     食事に舌鼓を打ちオールマイトは終始ご機嫌な様子だったが、通知音と共に送られてきたメッセージに目を通すと表情が強張った。
    「どうかしたんですか」
     長年の付き合いで緊急性は無さそうだなと判断しながら問い掛ける。
    「……相澤くん、みんなに、今日私達が行けないことなんて言って断ったの?」
     帰って来た答えに相澤は肩を揺らした。
     伝言ゲームは歪むことなくちゃんと回って届いたらしい。
    「何か問題でも?」
     仕掛けが狙い通りに効いて面白そうにしている相澤の向かいで急な解答者役をあてがわれたオールマイトが拗ねたようにしているのが可愛らしく見えた。
    「だって。し、し、新婚旅行楽しんでくださいって!」
     差し出されたスマホに表示されていたのは集合写真だ。送り主は緑谷のようだった。
     酔いの回った陽気な顔の幼さ残る大人達が、新婚旅行楽しんでくださいと横断幕を掲げて満面の笑みでピースサインを浮かべている。
     おそらく話を聞いたその場のノリと勢いと八百万の個性が組み合わさったに違いない。まさか参加を断った際に「予定があるんですか?」と緑谷に問われ冗談のつもりで答えたものがここまで大事になるとは思わなかった。
    「私達、結婚してたの?」
    「既成事実だけなら確定じゃないですか。足りないのはプロポーズくらいで」
     交際は八年を数え、意見の相違でぶつかることもあったが遠距離も経験し、なんだかんだで今日もまだ隣にいる。特に誓いの言葉もないが指輪すら交わしているのだから、実質的にも自覚としても生涯のパートナーで間違いはない。
    「プ」
     頭から湯気を出して真っ赤になった恋人がやはり可愛らしく、こんな少量のアルコールでは酔いのせいにするのも気が引ける。
     食器を下げに来た仲居がいなくなるのを待って、相澤は緑谷への返信をどう打ち込めばいいか座椅子に凭れてうんうんと考え込むオールマイトを置いて立ち上がった。
    「一世一代の歯の浮くようなセリフが思い浮かんだら声掛けてください」
    「ハードル上げないでよ」
    「何言ってんですか。どんな風に言われたって俺の返事は決まってるのに、迷う程のことでもないでしょう?」
     風呂に浸かって待つ気の相澤の背を、返事を後回しにしてスマホをテーブルに置いたオールマイトが数歩遅れて追いかける。
    「だから、そういうのずるいって」
    「言いたくないなら俺から言いましょうか?」
    「言いたくないわけじゃないしそれも魅力的だけど絶対に私からするから、ちょっと待って」
     風呂に向かう体を長い腕に拘束され、ぶつぶつと頭の上で繰り返されるプロポーズのシミュレーションを聞く。真剣な表情が嬉しくて、相澤は思うようにキスできない身長差に溜息を吐きながら垂れ下がる前髪に指を絡め、溢れる愛しさを髪に寄せた唇から逃した。
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    「……」
    「……」
    「……」

     春のすがすがしい夜風が流れる大広間では、少しも晴れやかでない男達が三人、円卓に向かって座していた。

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