二人以上【オル相】 お恥ずかしながら交際とかそういうものはどちらかというと避けて生きてきたから、経験値も全くないし至らない点ばかりだと思うけれど頑張って覚えるからどうか技術が未熟な面に関しては少し長い目で見守ってもらえたら。
俺と付き合うとなった直後に俊典さんはそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
経験があろうとなかろうと別に構いやしませんが、という俺に少しだけほっとした様子で、でもすぐに目に炎を灯して「いや絶対に君を満足させられるように頑張るよ」と闘志を燃やしていたので、俺はそれをこそばゆい気持ちで眺めていたのだが。
芯の抜けたような体がこれ以上崩れないように腰に回した手が力強くなる。足は床についているのにしっかりと立つことができなくて、俺は俊典さんの首に引っ掛けた腕を抱き直すようにしてぶら下がる。
その間にも唇はだらしなく開き、俊典さんの舌が入り込む大きさに合わせてかろうじて息をしていた。
水音は耳に聞こえるより頭の中に響き渡る。
キスもろくにしたことがないと言っていた。だから知ったかぶりをして、こうやってやるんですよと真っ白な雪原を汚す第一歩の快感で唇を重ねてその先を教えたのに。
どうして俺は、俺が教えたことをそのまま繰り返しているだけのこの人のキスにこんなにも翻弄されているのだろう。
意味がわからない。
唇を触れ合わせ、舌を差し込み、絡め、口の中全部埋めるような体積の違いに息浅く喘ぎ、唾液を注がれ、必死に飲み下しながら、歯列を、際を舌先でなぞられるだけで震えてしまうなんて、こんなこと初めてで。
意識の端が白く霞む。酸素が足りていない。
は、と無意識に顎を引いて息を吸い込むのに俊典さんはそれすら追ってきて、指で顎を掬い上げくちづけをやめない。
体感では長い時間、でもきっと時計の長針じゃほんの少しの角度にしかならない時間、俺の口を貪り尽くしてようやく濡れた唇が離れて行く。
眉を下げ、不安げな眼差しが俺を見つめる。
「……少しは上手くなったかな」
卑下でも謙遜でもない、自分の実力を一切計る物差しのない分野に足を踏み入れた男の上達を心配する純粋な問い掛けに俺は浅く息を吐く。
「そうですね。上手くなりましたよ」
途端にぱっと顔を輝かせて褒められたことを喜ぶ表情は憎らしくて可愛い。
「一人だとできないからもっと君と練習したいな、あっちで」
さりげなく場所をソファに移そうと提案する俊典さんは、俺が上手くなったと褒めそやすキスでさっさと腰砕けになるのをもうわかってるんだろう。どうせ夜が明ける頃には俺が教えることなんか何ひとつなくなるくらいに何もかも身につけてしまう人だ。
隣に座るはずの体で太腿の上に飛び乗って、驚く顔を両手で包んで斜め上から唇を触れ合わせ舌を差し込んだ。
迎え入れて歓迎してくれる生ぬるさに頬を緩める。
もう少しだけ、何も知らないあなたを染める喜びを味わっていたかった。