水も滴る【オル相】 早く下さいね。
つっけんどんな言葉を最後に切れた携帯端末を見つめたままオールマイトは途方に暮れていた。
恋人に写真が欲しいとねだったら、普通のかエロいのかと聞かれて「普通のだけ」と答えられる成人男性がどの位いると思うかの緊急アンケートを脳内で取りながら、並んだ字面に溜息が止まらない。
『まだですか?』
『俺は送りましたよ』
『早よ』
ぽこんぽこんと怒涛のような催促だ。
相澤から送られてきた自撮りはそれはもう即座に保存せざるを得ない程可愛らしく煽情的で、すぐにでも目を閉じてしばし写真を送ってくれた事実をしっかりと噛み締めた後、本来の用途に使用したくてたまらないものだったのだが、ではいざ自分の……となると全く構図が浮かばない。お茶を濁すように風景と写した写真は普通に怒られた。
(そもそも相澤くんは、私のどこらへんにエロさを見出しているんだろう?)
ホテルにチェックインして明日の服の皺伸ばしをするためにスーツケースから出してハンガーに掛ける。その頃には催促はすっかり落ち着いて静かになった真っ暗な画面の端末を手の中で弄んでいると、窓を雨の打つ音が聞こえた。
「雨かあ……」
曇天が重さに耐え切れず降らす雫を眺め、オールマイトは思いついてカーテンを閉めた。そのまま鼻歌まじりにシャワールームへと急ぐ。
「ふふ。相澤くん喜んでくれるかな」
写真を送信してすぐ既読はついた。
ついたが、返信がない。
「気に入らなかったかなあ……」
個人的には結構えっちに撮れたと思うのだけれど、とオールマイトは濡れた服を袋に入れてバスタオルで髪を拭く。しばらくして、ぽこん、と帰って来たメッセージは一文だけ。
『早よ拭いてください。風邪引いたら承知しませんよ』
エロいともエロくないとも触れて来ない写真に残念さを感じたものの、それ以来エロ自撮りの督促は形を潜めた。
(結局、アレはどうだったんだろう?)
オールマイトは相澤の画像を有難く使わせて頂いたわけだけれど、逆はどうだったのか。
本人に会ったら聞いてみようと思って週末のマンションに帰って来たオールマイトは、玄関の内側で合鍵を渡していた相澤が既に待ち構えていたことに驚いた。
「……これ、他の誰かに見せてませんよね」
シャワールームで撮った、服を着たまま濡らした写真を眼前に突きつけられる。
「えっ、あ、うん」
そのまま有無を言わさず風呂場に連れ込まれた。手際良くオールマイトの上着を脱がしワイシャツにシャワーをぶっかけ再現写真をバシャバシャ撮り始める相澤に、ああこれは気に入ってもらえたのだなあと安心する。そして、少し妬けた。
「帰って来たんだから本物を愛でなよ」
相澤の腕を掴みシャワーの中に引き入れる。
「わ」
文句をキスで塞ごう。
観念した相澤の手が防水のスマホを湯船の縁に置く。
二人で濡れてしまったから、あとはこのまま淋しさを埋めるだけでいい。