……その光を見た瞬間。
もう、空っぽのフリなど出来なかった。
「 ……石器時代に電気だよ。ジーマーで」
闇を切り裂く、ほんの一条の。
けれど、たまらなくまぶしいひかり。
目が、眩んでしまう。
こんなものを見せられたら、もう。
惹かれる気持ちを止めることなどできるはずもない。
こんな何もない石器時代にいきなり叩き起こされて。
望まれた役割は、死体の確認。
メンタリストとして、心理や行動を推測してある人物が確実に死んでいるか確かめてほしい。
……なんだそれ。
自分の技術は、そんなことのために身につけたものじゃない。
誰かをびっくりさせて。喜ばせて。
笑顔になってほしくて、それなのに。
こんな、誰も見てくれないなあんにもない世界で、報酬に笑顔も喝采もないお仕事。
けれど、ほかに生き延びる術もわからない。
役割に徹するしかない。……何も考えず、頭を空っぽにして。
そんなとき、ふと。
洞窟近くの木に刻まれた文字に気づいた。
『西暦5738年4月1日』。
自分より先に目覚めた、ダレカが書いた文字。目覚めるまでの間ずっとずっと、通り過ぎる時間をカウントしていたダレカ。
名前も知らない。顔も見たことない。
けれど、わかった。
彼が、司の言っていた世界一切れる男。
……『千空』。
それから十日かけて、その痕跡を追った。
どんなひとなのだろうと、興味が湧いた。
それはきっと、暗闇に灯った微かな光。
そのひとに会えたなら、何かが変わる気がした。
そうして。
……彼はあやまたず、光を見つけた。
そのひとは、とても強いひと。
まっすぐに前だけを見て、決して揺るがない。司が警戒するはずだ。
こんな強さに、意思に触れたら、誰だって影響されずにいられない。
可能性という名の、強い強いひかり。
止まっていた時間を動かす、未来への意志。
こんなものを見せられて、傍観者でなんていられなかった。
……ああ、好きだ。
出会う前から、きっと好きだった。
損得なんて関係なく、その意思の強さに、焦がれるように憧れた。
塞いでいた耳に、虹のようなメロディが溢れ出す。気がついたら、彼の作る舞台の上に飛び出していた。
「あ"ぁ?……なにニヤニヤしてやがる」
ふいに、隣から声をかけられて。
すっかり思索にふけっていたことに気づく。
怪訝な顔で覗き込むあかい双眸に、へらりと笑みを返した。
「 ……うん?千空ちゃんのこと、好きだなあって思って」
言葉に、千空はやや眉をひそめる。
「 えっなにそのリアクション、ドイヒー! 」
大袈裟に返すと、いつものようにクク、と皮肉げな笑みを浮かべて、ひとこと。
「 気持ち悪ぃ 」
口は悪いが、あたたかみのある眼差しに、知らず笑顔になった。
「 だよねー! 」
あ"ぁ、と頷いて、千空も笑顔を返してくる。
幾度となく繰り返したやりとり。
これからもこんなふうに、なにげない日々を一緒に紡いでいきたい。
それが、今の望み。
見上げると、満天の星。
星に願いを、なんて柄ではないけれど。
ふふっと笑って、彼はその光に手を伸ばした。