「 ……久しぶり。千空とはどう?うまくやってる?」
ふいに出かけた店先で出会った見知った顔。
懐かしくなって、ゲンは声の主に笑顔を向けた。
「 なぁに?俺の惚気に付き合ってくれるの、羽京ちゃん?」
言葉に、羽京はお手柔らかにね、とやわらかく笑顔を返した。
カララン、と音を立てて、喫茶店のドアを潜る。カウンターでコーヒーと軽食を注文して、突き当たりの大通りに面した席に座った。
羽京の近況や、かつて共に過ごした友人、仲間たちについて。
こちらの近況や、仕事について。
話題は尽きなくて、さまざまな情報を交換した。
「 それでね、一緒に暮らし始めて、俺が一番千空ちゃんにキュンとしたのはね…… 」
そこで、一拍溜めを置いて。
夢見がちな表情で、言葉を継いだ。
「 俺が瓶のフタ開けれなくて困ってたら、『貸せ』って手を出して開けてくれたことかな。意外と力が強いのにもびっくりしたし、電話中だったのに、手を止めてくれてね!
ジーマーで、ゴイスーカッコよかったぁ…… 」
うっとりと、文字通り惚気話を語るゲンは、本当に幸せそうで。
これならば、彼もきっと幸せな日々を過ごしているのだろう、と安心できた。
……彼らは、鏡合わせのような存在だから。
ゲンが笑っているのなら、きっと千空もそうなのだろう。
「 愛されてるね」
何気なくそう言うと、日に焼けない白い頬が真っ赤に染まった。
ああ、彼はもう、表情を取り繕う必要がなくなったのだと悟って。
羽京はもう一度、やわらかくわらう。
「 うん、会えてよかった」
千空にもよろしくね。
そう伝えて、席を立った。
店から出て見上げた空は、とても青くて。
この空のように、彼らがいつも晴れやかな気持ちで過ごせるよう。
そっと、胸の内でエールを送った。