……今日から毎日、キスをしよう。
どちらからでもいい。ただし場所は頭の天辺から、爪先まで順番通りに。
まるでアドベントカレンダーだとわらって、同居人の男はその提案を受け入れた。
一日目は、隣に眠るたいせつなひとの髪に、くちづけを。
起きている時にはなかなか伝えられない、思慕を込めて。
二日目は、論文が賞を獲得したと言う君の額に、キスをした。精いっぱいの、俺からの祝福。
三日目は、そっと閉ざされた瞼に、くちづけを。たかだか四歳の差だと言うのに、こちらばかり面倒を見られている気がする。軽口を叩いていても、自分の仕事にだけは確固たるプライドを持っている、彼への憧憬。
四日目は、レポートに夢中でせっかくのオフなのに芸能人様のコイビトをほったらかしにしているお仕置きに、耳にキス。
……さて、誘惑に乗ってくれるだろうかとワクワクしていたらやり返されて散々泣かされた。耳が弱いのはテメーの方だろ。はい。
五日目は、続けて俺から。この前のアフターで携帯を忘れたのをまだ怒ってるみたい。GPSですぐに見つかったのは、千空ちゃんのおかげだよ。そう言って鼻の頭にキスをした。愛玩動物(ペット)扱いすんな、とまたやり返される。懲りないね、俺も。
六日目は、残業でギリギリ日付が変わる直前に帰ってきたゲンの、頬にくちづける。親愛と、労いの気持ちをこめて。
七日目は、お互い久しぶりにベッドで戯れながら、何度も交わしたくちびるへのキス。
大好きで大切な/ いとおしくて必要な
君に/テメーに、愛を込めて。
八日目は、お互い意識がトんで目を覚ました。腕の中でしどけなく眠る姿に、つい唆られてしまって。
もっとテメーがほしい、と喉に噛み痕を残した。
九日目は、大学に向かう君のネクタイを締めながら、首筋の、襟から見えないギリギリの位置にキスマークを残した。……執着してるのが自分だけだなんて、思い上がらないでね?
十日目は、浴室で。
背中を流してやったあと、肩甲骨の下にそっとくちづけた。とくん、とくんと鼓動が速くなって。今日も、この男が腕の中にいることを確認する。……同時にどれだけ愛されてるかを確認できるんだから、効率的なこった。
十一日目は、だいすきな君の温かな胸に。
ずっとずっと君のものでいるから、ずっとずっと俺のものでいて。
十二日目は、すらりとした腕に。
手に取ると、びっくりするほど細くてどきりとする。この細い腕で、ずっと支えてくれた恋しくて慕わしい相棒に。今度は支えられるだけではいないと誓いを込めて。
十三日目は、ゴツゴツと骨太に成長した、君の手首に。キスをして、煽るように見上げる。……ねぇ、ほら。俺を奪いにきて。
十四日目は、手の甲に。忠誠を誓う騎士のように、あるいは愛を誓う伴侶のように。
あなたを敬い愛することを誓います。なんて、素面で口にできるような言葉ではないから、ただこのかすかな温度に乗せて。
十五日目は、手のひらに。対する君は渋い顔。デートと仕事のブッキング。
お願い許してマイダーリン。あとでサービスするからさ。そしてそして、その日から。彼に首輪で繋がれました。
十六日目は、指先に。
大盛況に終わったマジックショー。終始飄々としていたけれど、俺は知ってる。
寝る間も惜しんでコツコツと、研鑽を重ねた大嘘吐き。
プロフェッショナルに賞賛を込めて。
十七日目は、お腹に。
ヒョロガリなどと言われたのは昔の話で、今ではくっきり6パック。夜の有酸素運動に付き合いながら、それでも結局話していると、あの頃の話題になっていく。きっとあそこが、俺たちの心の帰る場所なんだろうね。
十八日目は腿の付け根に。
俺のモノだと証みたいにくちづけた。白い内腿に、あかい花びらを散らしたみたいなその色が、夜目にもひどく鮮やかだった。
十九日目は骨張った脛に。
ちゃあんと、俺は君のモノだから心配しないで。服従の証に、お腹でも見せたらいいのかな?
二十日目は足の甲に。
手のひらで大切に包みこんで、くちづける。
テメーが一生俺のモノだって言うなら、俺も一生テメーのモノだろ。
二十一日目。最後のキスは爪先に。
君を英雄や神にはさせないけれど。君は俺にとって一番とうといひと。
「 ……おう、んじゃ結婚すんぞ」