ドラッグ中毒　新堂は伸びきったニットのポケットからくしゃくしゃの紙を数枚取り出して、それらを日野に投げ渡した。空気抵抗を受けてひらひらと踊る紙の上では、ひとりの中年男性がスーツを着て偉そうにしている。おっさんが印刷された紙っぺらに価値が宿るこの世。ファッキン・ワールド。上品ぶった顔で金を受け取る日野に中指を立てて、真っ先に口をゆすいだ。下水へと流れ込んでいくその水の中に、ちぢれた毛が一本混じっている。

「けっこうな収穫だな」
「陰毛のおまけつきだぜ、くそ」

　いい仕立てのスーツを着ていたから上客だと思ったのに、とんだ外れくじだった。この寒空の中全裸にさせられた挙句、後ろ手に縛ってのイラマチオがお好みだってんだから、ずいぶんと高尚な趣味である。新堂がこの世に生を受けてもう十八年が経ったが、喉を開くのが得意で良かった、と今日ほど思ったことは無かった。
　ふてくされて石油ストーブの前に座り込んだ新堂は、口をゆすいでなお喉の奥に残るざらつきに顔をひそめながら日野を見た。新堂の稼いだ金をビニール製のポーチの中にしまい込んで、何が楽しいのかうすら笑っている。ポーチの表面で愛嬌をふりまく猫のキャラクターと日野のアンマッチさに胃のあたりがむかついて、新堂は日野から目をそらし石油ストーブに唾を吐いた。

「ずいぶん冷えてるな」

　金を数え終わった日野は、唾が蒸発していく様を見守る新堂の隣に座り込むと、その襟口に無遠慮に腕を突っ込んでそう言った。ぬるい指先が乳首をかすめて、新堂の前髪が揺れる。視線がかちあったときにはもうお互いの粘膜は接触していて、新堂は日野の唾液を味わいながら、こいつまた薬やったな、と思った。先ほどのうすら笑いに合点がいって、おとなしく床に倒れこむ。日野はこうして、男性に凌辱された後の新堂を抱くことを普段からよく好んだ。
　街はずれの廃墟に拵えた壊れかけの城は激しい動きには適していないため、必然的にスローセックスになる。新堂の胎内に性器を納め、ゆっくり腰をひいて、同じ速度で押し入れてを繰り返す。薬局で万引きしたローションで粘る腸壁との摩擦を繰り返して、ふたりの人間が溶け合って一つになっていく感覚は、どんなドラッグよりも日野の脳を麻痺させた。
　床の軋みよりかすかな新堂の喘ぎ声と、お互いの体温と性のにおい。そのすべてが日野を生かし、日野の世界はそれらがすべてだった。新堂はそれを知っている。だから今日もこうして内臓を明け渡し、与えられる快感を素直に享受し、前立腺を抉られて果てるのだ。