妹が生まれた日、長屋のババァが呼んでもねぇのに突然来ては赤ん坊を一瞥して、梅と名付けて帰って行った。かかぁは女の子どもは遊女にできると喜んだが、梅の髪の毛が生えそろい、その色が白いままなこと気付いた頃から目に見えて世話をしなくなった。俺はまだ乳飲み子の梅を抱えて、隣近所に住む狂女のもとを訪ねた。この女はもともとは女郎をしていたが、間夫に惚れ込み餓鬼をこさえて、そいつに逃げられた上餓鬼も流れたので狂った。どっかで客はとってるらしいが、まともに相手されちゃいない。
建て付けの悪い戸を叩きつけるように開けると、悪臭が鼻をついた。切見世特有のすえた臭いではなく、あきらかな肉が腐る臭いだった。それでも背は腹に変えられず、俺は座敷の奥に向かって声をかけた。ただでさえ小さい灯り取りには日差しが掛けられていて、えらく暗いのだ。
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