この問に応えてみせよ こんな時でも涙は一滴も出ないのだと、丹恒は誰よりも両親に近い位置に座りながら思う。数日前に旅行に行くと出かけた二人の姿が最後に見る姿になるなどあの時の丹恒は思ってもいなかった。
特別良くも悪くもない至って平凡な家族だったと思う。
小さな頃は親戚でよく集まり、従兄と遊び、家族に報告して。そんな幼少期の中でも嫌な記憶というものは一つも無く、小学校や中学校でも嫌なことなど一つもない。
なのになぜ目の前で棺の中で眠っている姿を見て涙は流れてこないのだろうか。
「……まだ、高校生らしい」
「どうしましょう、うちは難しいわ」
「俺の所だって面倒等みれないさ」
がやがやとまわりの大人たちの声が聞こえてくる。自分のことなのだろうと無意識に判断をして、丹恒は顔を歪める。
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