幕間の楓恒㉘ 丹恒は自分の尾をじっと見ると、ぎゅ、と抱え込んだ。自分の尾はどうしても丹楓のようにしなやかで綺麗な尾のようになりたいと思うのにそんな風にはなれない。丹楓のように尾を隠すことすらできなくて、ゆるりと眉を下げてしまう。
それとなく丹楓に、どうしたら尾を綺麗に隠すことができるのか聞いたこともあるがそんなに急がずとも育てば尾を隠せるようになれると言われ、詳しく教えてはくれなかった。
丹楓自身とくに意識をして尾を隠せるようになったわけではないのだろう。
「ん、ん~~~~」
尾に意識を集中して、体の中に収納するような想像をするが尾は相も変わらずそこにある。ぷは、と息を吐き出すと跳ね上がっていた尾が呼吸と共に下がってしまった。
「丹恒」
「ふうにぃ」
「何をしている?」
務めを終えた丹楓が部屋に入り、丹恒の隣に腰を下ろす。奇妙な声をあげながら、尾を抱きしめていたのだから怪訝に思うのも不思議ではない。
丹楓のように尾を隠せるようになりたいのだと、丹恒は尾を抱きしめながら言う。僅かに視線が下を向いてしまったのは、言いだしにくかったからだ。
「そうか、それならばまずは尾に意識を向けるように」
「う?」
「抱きかかえなくて良い、意識だけ向けろ」
ぎゅ、と己の尾を抱きしめた丹恒は丹楓の顔を見ながら尾を手放すと目を閉じて意識だけを尾に向ける。
これで何が変わるのかよくわからず、丹恒は首を傾げてしまう。
「消そうと隠そうと思うのではない、己の一部が溶け込んでいると考えるのだ」
「いちぶ…?」
「そうだ、尾も其方の一部だろう?」
溶け込むという感覚がどういうものかよくわからない。だが、今ここにあるものを消したり隠したりするのではなく、意識の中に溶かしていくということなのだろうか。
「ん、ん~~~~~~」
「丹恒、そんなに緊張するものではない。楽にしていろ」
「う、う? ん、ん~」
丹恒は息を吐き出して体の力を抜いてみる。すると、薄らと開いた視界に入っていた筈の尾がす…と消えていった。
「ふうに、ふうにぃ…!」
尾が消えたのだと丹楓に伝える為に、目を開き丹楓の方を振り向くと小さく笑みを浮かべた丹楓が丹恒の頭に手を置いてくれた。
うまく尾が消せているのだと褒めてくれているのだ。それがどうしようもないほど嬉しくて、丹恒は笑みを丹楓へと向けていると丹楓の手の動きが止まる。
「ふうにぃ?」
「…ふ、嬉しかったのだな」
「? あ!」
丹楓の視線が自分ではなく己の背中の方へ向いていたので、丹恒も丹楓の視線を追って自分の背中へと視線を向ける。
そこにはゆらゆらと丹楓に頭を撫でられた嬉しさからか揺れる尾が出てしまっていて、丹恒は無意識に出てしまった尾をぎゅっと抱きしめる。どうしてか、頬も仄かに熱さを帯びている気がしていた。
「う、うー…」
「尾が出てしまうことは恥ずかしいことではないだろう?」
「…ふうにぃ」
丹楓のしなやかな指先で、髪を掬うように撫でられて丹恒はおずおずと顔を上げた。
丹恒を見ている丹楓は緩く笑みは浮かべてはいるが、それ以外の感情は見受けられない。
丹楓に呆れられたわけではないと、丹恒はほっと胸を撫でおろした。
「ん、もういちどする…!」
「そうだな、修練すれば上達するだろう」
「ん!」
丹楓は、また尾に意識を向け緊張している丹恒の緊張を和らげるように頭を撫でながら小さな笑みを向けていた。