幕間の楓恒㉚ 最近羅浮で流行っているのだと白珠に仙人爽快茶なるものを手渡された丹恒は、丹恒の手で持つと少し大きな器に入っているそれを零さないように両手で受け取る。
甘いものがあまり得意ではない丹楓には買ってこなかったようだが、お土産だと丹恒にそれを渡すと白珠はすぐに屋敷を後にしてしまった。
「飲みたかったのか?」
「…ん」
どうやら以前白珠から其の話を聞いていて気になっていたようだ。こくり、と頷いた丹恒は横から下から観察するように色々な角度からそれを見ている。
白珠から其は飲み物であることと、冷たい方が美味しいだろうことを聞いていた丹楓は丹恒が観察している間に仙人爽快茶を落としてしまわないかを見守っていた。
「ふうにぃ」
「余のことは構うな、其方が飲んで良い」
飲み物を丹楓の方へ向けて来た丹恒は、きっと美味しいと言われているものを丹楓と共有したかったのかもしれないがどれ程甘いのかわからない丹楓は首を振ると丹恒の様子をじっと見守る。
「んぐっ…」
「丹恒」
ず、と麦稈から中身を吸い込んだ丹恒は中身を口に含んだと思しきタイミングで体の動きを止め、尾をピンッと張ると目を見開いた。
「…けほ、…」
「…どうした?」
こくりと喉を動かす前に小さな咳を繰り返している丹恒の瞳にじわじわと涙がたまっていく。何が起きていたのか丹楓には全くわからないが、どうやら驚きでむせてしまっているようでもある。
「…ふぅ、にぃ……」
涙は零れてはいないが、今にも泣きだしそうな顔で丹恒は丹楓を見上げる。そんな表情をしているのにそれでも仙人爽快茶を手放さないのは白珠からお土産としてもらったものだからなのかもしれない。
丹楓は丹恒の頭を数回優しく撫でると丹恒と視線を合わせる。
「口に合わぬか?」
「……う」
「ふむ…」
丹恒が涙目のままこくんと大きく頷くと瞳に溜まった涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。
口に合わぬものを無理に全て食せというのも難しい話ではある。
ふと丹楓が丹恒の頬へ視線を向けるといつついたのか、頬に牛乳を泡立てたようなものがついている。
頬についている其を手で拭いとろうかとも思ったが、手袋を汚してしまうだろう。
小さく息を吐き出した丹楓は丹恒の頬に顔を寄せると舌先で丹恒の頬についている其を舐めとった。
「……、…」
「ふう、に…?」
丹恒は己の頬を舐めた丹楓のことをきょとんとした顔で見つめ、己の頬に触れ首を傾げる。頬に何かがついていたことには全く気づいていないようだ。
かなり甘いだろうということは予想はしていたはずだが、想像よりもかなり甘く味も濃い。丹楓の苦手な味だといえるだろう其に、思わず顔を顰めてしまう。
普段丹楓の屋敷で丹楓の口に合った食事しか食べてこなかった丹恒にも、此の味は合わないだろう。驚きむせてしまうのも頷ける。
だが、白珠が好意から土産として丹恒に持ってきたものなのだろう。捨てさせるわけにもいかない。
丹恒も捨てるつもりはないのか、口に合わないと言ってはいるが手放す素振りは見受けられない。
は、と息を吐き出して丹恒の顔を覗き込む。
「余と共にならば、飲めるか?」
「…! ん!」