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    もものかんづめ

    @kmjy25

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    もものかんづめ

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    丹楓さんが育てているおしょたな丹恒くんの楓恒とお月見の話

    ##楓恒

    幕間の楓恒㊲ 丹楓は丹恒の小さな手を痛くない程度に力を入れながら握り、丹鼎司の中を歩く。
     今日は月を見て、甘味を食すべきだと白珠に諭され丹恒と共に長楽天へと赴き団子を少量手に入れた帰り道。丹楓の方をじっと見つめる丹恒に、丹楓は視線を向けた。
    「余に聞きたいことでもあるのか」
    「…ふーにぃ、いんげちゅ…?」
     おそらく白珠が丹楓のことを飲月と呼んでいるのを聞いて疑問に思ったのだろう。
     仲間の誰もが普段は丹楓のことを飲月と呼んでいるが、丹恒は今まで気にしてはいなかったはずだ。もしかすると、最近文字を習っているが故に違う言葉で呼ばれていることが気になってしまったのかもしれない。
    「そうだ、余は飲月とも呼ばれている」
    「ふーにぃ、ふーにぃちがう…?」
    「…余は丹楓でもある。其方の呼び方も誤りではない」
    「ん……ふーにぃ」
     丹楓の手を握りしめている丹恒の手にきゅっと力が籠る。何かを伝えたいのだろうと再度視線を丹恒に向けると、合わさった視線がふいっと逸らされてしまった。
     丹恒が何かを丹楓に乞いたい時によくしている仕草ではある。この小さな子龍は、自分の要望を素直に口に出すことがいつまで経っても苦手なのだ。
    「丹恒…其方の望むことは帰ってから叶えよう。直に日も暮れる」
    「ん」
     丹恒が何を求めているのか丹楓は推測の域を出ないがわかってはいた。
     初めて文字を習った時に、一番始めに丹楓の名の字を知りたいと言ってきた丹恒のことだ。飲月という名も丹楓の名だというのならば、飲月の文字も知りたいのだろう。
     丹楓がそんな推測をしているとは知らない丹恒はちらちらと何度も丹楓へと視線を向けるが、何も言えず口を噤んでしまっていた。
     そんな丹恒の手を引きながら、丹楓は帰路へとつく。
     日が暮れると同じ時間帯に屋敷へと辿り着くと丹楓は外套を脱ぎ、丹恒の外套も脱がせ部屋の中に仕舞うと月が良く見える縁側へと腰を下ろす。
     とてとてと小さな足音をたてて丹楓の傍に腰を下ろした丹恒は小さなお皿に一人分の団子を乗せたものを持ってくると、縁側に置き丹楓へと視線を向けている。
     まだ、丹楓と視線が絡むと逸らしてしまうところを見ると素直には言えないのだろう。
    「丹恒…飲月の文字を知りたいのだろう?」
    「! ん、…ふーにぃのこと、しりたい…」
    「ふむ」
     丹楓は、近くの机から一枚の紙と筆をとるとさらさらと文字を綴る。
     丹楓の漢字の隣に飲月の文字を書いたその紙を丹恒へと手渡すと、小さな手でそれをぎゅっと受け取った丹恒はきらきらとした眼差しで紙をじっと見つめた。
    「こー、このじ、しってる」
    「ほう…月の字か」
    「ん、あれのこと」
     日が暮れ、空へと浮かび上がった丸いそれを丹恒は指さし、丹楓へと視線を向ける。
     当たっているだろうと訴えかけるような視線に、丹楓は笑みを浮かべるのを堪えながら小さく頷いた。
    「そうだな、あれが月だ」
     丹恒の指さす方へと視線を向けると、今日はいつになく鮮やかで橙色にも赤色にも見受けられそうな月が見える。
     白珠が月を見ながら、甘味を食すべきだと言っていた意味が僅かにではあるがわかる気がした。
     甘味があまり得意ではない丹楓は甘味ではなく、用意していた酒へと手を伸ばし喉を潤していたが、まだ小さく酒を呑ませるわけにはいかない丹恒には甘味がちょうどよいだろう。
     小さな手を伸ばし、ぱくりと団子を口に含む丹恒の尾がゆらゆらと機嫌が良いことを表すそうに揺れているのが見える。月を見ながら、食べることが楽しいのだろうと思い丹恒の表情を伺おうと丹楓は視線を丹恒の顔へと向けたが、丹楓の予想に反して丹恒の顔は月ではなく丹楓の方を向いていた。
     なぜこちらを見ているのかわからず、丹楓はゆっくりと瞬きをしてから口を開く。
    「丹恒、今日は月を見る日なのだから空を見ろ」
    「…? ふーにぃもおつきさまと、いっしょ」
     なるほど、丹恒は丹楓の飲月という名の文字に月が入っているから丹楓を見ることも月を見ていることと同じなのだと言いたいのかもしれない。
     だが、今日は丹楓を見る日ではなく空の月をみるべきだと伝えようとしたが、頬を緩めながらお団子を口に含みじっと丹楓を見つめている丹恒の背中で尾がゆらゆらと揺れているのを見ると開いた口を閉じてしまった。
    「こー、ふーにぃみるの、すき」
    「……そうか」
     違うのだと否定することはいつでもできる。
     今すぐでも、来年でも、その先でも。丹恒は大きくなり、月見という言葉を知ってからだも遅くはないだろうと丹楓は自分に言い聞かせ目を伏せると、小さく笑みを浮かべながら再び酒を口に運んだ。
     丹楓も空に浮かんでいる月よりも、こちらをじっと見ながらお団子を食べている丹恒の方を見てしまっているのだから。
     こくんと喉を上下に動かした丹楓は酒の入った器を置くと、未だにじっと見つめてくる丹恒へと手を伸ばす。
     するするとして、柔らかな頬へと触れ緩く撫でると丹恒の喉が心地よさを示すようにくるる…と小さく鳴った。
    「…其方もいつか月になれるやもしれぬな」
     飲月の名を次に継ぐのは丹恒であるだろうと思っての言葉ではあったが、丹恒はよくわかっていないのか首を傾げながらゆらゆらと尾を揺らしながら頬を撫でる丹楓の手の動きに合わせて喉を鳴らし続けている。
     その様子にまだ先の未来ではあるだろうという気持ちを抱きながら、丹楓は丹恒の口元に団子を運び、まだ小さな小さな目の前の月を愛でていた。

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