おしょたのお話② お昼寝から目が覚めた丹恒くん。いつもは傍に居るはずの丹楓さんが居なくて、丹楓さんを探しているみたい。
ひょっこり扉から顔を出しては丹楓さんが居なくて、尾をしょぼんってさせて次のお部屋に。また、丹楓さんが居なくて尾がしょぼんってしながら、最後の部屋に辿り着きました。
「ふーにぃ」
「起きたのか」
恐る恐る覗き込んだ部屋の中で、小さな箱を抱えた丹楓さんの姿があって丹恒くんは嬉しそうに頬を少しだけ緩めると、とてとてと小さな足音を響かせながら丹楓さんに近寄りました。
見たことのない、小さな白い箱。
なんだか可愛い龍のマークが入っている小さな箱。
この箱を今まで見たことのない丹恒くんは丹楓さんが持っている箱に興味があるみたいで、丹楓さんの傍にくると首を傾げながら丹楓さんの袖をきゅっと握りしめました。
丹恒くんをじっと見つめた丹楓さんは、部屋の中にあった机の上に小さなその箱を置くとかさこそと箱を開けて、丹恒くんが見えるように中身を見せてくれます。
「ふーにぃ?」
小さな箱の中には透明なカップに入った薄い黄色の何かが二つ。
初めて見るそれに丹恒くんはお目目をぱちぱちとさせて、丹楓さんの方を見つめてしまいます。
「此れは『プリン』という食べ物だそうだ」
「ぷいん…?」
「…皿に盛り食べるものだと、聞いている」
いつから準備されていたのか、机の上にはお皿と匙が一つずつ。
丹楓さんがそのお皿の上に『プリン』と言われたそれを、うつ伏せに置いて背中をトンッと叩くと震えながら中の薄い黄色のものがお皿の上に溢れ出してきました。
ぷる…ぷるるん…。
見たことのない動きをしているそれに丹恒くんは尾をぴんっと動かして、耳をふるふる震わせちゃった。
「たべもの…?」
「そうだ、匙で掬って食べる」
丹楓さんは匙を手に取って、プリンにつんっと触れるとプリンがまたぷるっと震えちゃう。それに合わせて丹恒くんの尾もゆらりと揺れてお耳がぷるって震えちゃうね。
匙でプリンを掬うと、お皿に残ったプリンが大きくぷるるんっ。
丹恒くん、今度は体を大きくふるるっと震わせちゃった。
「口を開けよ」
「あー…」
丹恒くんのお口の中に丹楓さんが匙で掬ったプリンが転がり落ちてきました。
舌の上で、ぷるぷる、ふるふる。
蕩けちゃうプリンに丹恒くんは最初はびっくりしてお目目をまん丸にしてたけど、仄かにあまぁいそれに頬がゆっくりゆっくり緩んでいってる。
「ふーにぃ」
「口に合うようだな」
「ん! おいし…」
「そうか」
「んむっ」
丹楓さんが差し出したもう一口をぱくりっと含んで丹恒くんの頬はゆるゆるになっちゃってる。
でも、二口食べた丹恒くんお皿をじっと見つめて何かを考えているみたい。
丹恒くんが何を考えているのか丹楓さんにはわかっちゃうのか、匙を机の上に戻した丹楓さんは丹恒くんにプリンの乗ったお皿を渡してくれました。
「良いか、粗雑に扱えばすぐに崩れてしまう」
「ん」
「其方ならば丁寧に運べるな?」
「ん!」
大きくこくんと頷いた丹恒くん、食べかけのプリンを持って何処に行くんだろう。
とてとてと歩き出した丹恒くん。駆け足よりはゆっくりだけど普通に歩いているにしては少し早く足を動かして真っすぐに何処かへ向かっている。
迷うことなく辿りついたお部屋は…いつもお手紙を出すお部屋だね。
今日は丹楓さんに言ってきたから、きょろきょろ見渡さないでお部屋の中に入っていつもお手紙を入れている小さな箱の前に辿り着きました。
色々なお手紙の入った小さな箱に、丹恒くんは手に持った食べかけのプリンをゆっくりゆっくり入れて崩れないようにそーっと置くと小さなおててで崩さないようにゆっくりゆっくり手を箱から抜きました。
丹恒くん、プリンを箱に差し入れしたかったんだね。
プリンを崩すことなく箱の中に入れることのできた丹恒くん、上手にできたことが嬉しかったのか尾をゆらゆら揺らして両手で箱の縁をきゅっと掴んで中を覗き込んでる。
すごく嬉しかったのか、揺れている尾が箱にちょっと当たっちゃいそう。
「丹恒」
「っ!」
じーっと箱を眺めてた丹恒くんは後ろから抱き上げられちゃった。
「ふーにぃ」
「崩さずに運べたようだな」
「ん!」
丹楓さんにも綺麗に入れられたプリンを見てもらえて丹恒くんの頬はさっきみたいにゆるゆるになっちゃう。
嬉しくて尾を揺らしてる丹恒くんを抱き上げながら、丹楓さんは小さな箱へ一瞬だけ視線を向けたけどそれ以上は何も言わないで丹恒くんを抱っこしてまたお部屋まで戻っていきました。
「ふーに」
抱き上げられた丹恒くんがじっと丹楓さんの方を見つめます。そんな丹恒くんへと視線を向けてそっと隣に下ろした丹楓さんは、まだ箱に入っていたもう一つのプリンを丹恒くんの目の前に置きました。
ぱちぱちと瞬きをした丹恒くんが丹楓さんへと視線を向けて、こてんと首を傾げました。
これは丹楓さんの分のプリンなのにどうして目の前に置かれたのか丹恒くんはわからないみたい。
「其方が食べろ」
「? …ふーにぃの、ぷいん……」
「余は甘いものは好かん」
「う…」
「丹恒」
プリンを再度匙で掬った丹楓さんが丹恒くんの口元にプリンを運ぶと丹恒くんはおずおずと唇を開いてぱくりと食べました。
とろとろで舌の上で蕩けていくそれに丹恒の頬もゆるゆるになっていくけど、すぐにへちょ…と尾が下がっちゃった。
「…こー、ふーにぃと…いっしょ…」
視線を落としてしまった丹恒くんはどうしてもプリンを丹楓さんと一緒に食べたいみたい。
そんな丹恒くんをじっと見つめていた丹楓さんは、小さく息を吐き出した後にプリンを一匙掬うと口元へと運びました。
「……、甘いな…」
「! ふーに」
「丹恒、次は其方が食べる番だ」
「ん!」
あー、とお口を開ける丹恒くんの口元へプリンを運んで食べさせるとまた丹楓さんはプリンを一口ぱくりと食べて。
大きくはないプリンが無くなるまで二人でプリンを食べ続けました。
大好きな丹楓さんと一緒にプリンが食べれて嬉しかったのか丹恒くんの尾がゆらゆらと揺れています。
苦手なものを食べた丹楓さん。眉間にいつもより深い皺が刻まれているけど嬉しそうな丹恒くんを見てため息を一つ吐きながら、ゆるりと頭を撫でました。