幕間の楓恒㊹ 丹楓の背にくっつきながら丹恒は風で舞う庭先の葉を眺めていた。ひらひら、ひらひらと落ちていく其はまだ小さな丹恒から見れば風情があるというよりは動くものを目で追いかけてしまうという反射的な反応ではあったが、丹楓の背にくっついている丹恒からすれば僅かではあるが楽しさも感じていたように思う。
丹楓の務めを邪魔しないように、丹恒が庭をじっと眺めていると見覚えのある耳と尾が見えて、丹恒はぱちりと瞬きをした。
「はくじゅ…?」
ぱちぱちと瞬きをしながら名を呼べば、手を振りながら白珠が縁側に座っていた丹恒の前へとやって来て視線を合わせるように腰を下ろす。
今日は白珠が遊びに来ると丹楓は言っていただろうかと、こてんと丹恒は首を傾げたが、答えは見つからず、後ろで書類を見ている丹楓に聞くわけにもいかない。
目の前に白珠が居るのだから、きっと言っていただろうと思い直すと白珠の名をもう一度呼んだ。
「丹恒は、何をしていたんですか?」
「…はっぱ、…みていた」
「葉っぱですか?」
丹恒が見ていたものが意外だったのか、白珠はきょとりとした顔をすると立ち上がり庭へと足を向けた。
先ほどまで丹恒が目で追いかけていた地面に落ちた葉を一枚拾い上げると、其れを丹恒の前でゆらゆらと揺らす。
「見ていたのは此れですか?」
「…ん、…」
ゆらゆら、ゆらゆら。右に左に揺れ動く葉を丹恒は先ほどと同じように視線で追いかける。
だが、先ほどと違い白珠が動かしているからか同じところを行ったり来たりする葉を目で追いかけていくうちに丹恒の体もゆらゆらと揺れて、目の前もくるくるしてきたように思えて。
くらくら、ゆらゆら、ふらふら。
「…ぅ…」
「あっ、丹恒…!」
「…何をしている」
目の前がくらくらでふらふらでゆらゆらして何を目で追いかけていたのかもわからなくなった丹恒は揺れた視界に身を委ねるように体をふらぁとさせてしまう。
ぽす、と丹恒の頭が当たったのは丹楓の背中だったのか丹恒が倒れこみそうなことに気づいた丹楓が顕現させた尾だったのか、その両方だったかもしれない。
くらくらしたまま支えてくれる体に身を委ねた丹恒は、自分の体をきゅっと支えている尾の存在も、背中に感じていた温もりの触れている面積が先ほどよりも増えていることに気づかないまま、ただそのどちらも心地よいと感じながらまだくるくると回っている視界を温もりに向けようとする。
「ぅ…ふ、…にぃ…」
「無理に此方を向くな、そのまま目を閉じていろ」
「ん…」
そっと瞼に触れられ丹恒は目を閉じる。
くらくらしていたものがゆっくり、ゆっくりと正常に戻っていくようだった。
けれどそれと同じくらい、眠たさのようなものもこみあげてきて、感じる温もりも相まってうとうととしてしまう。
「…眠っても良い、疲れただろう」
「…ふ、に……」
「ごめんなさい、飲月…私がやりすぎました」
「此奴自身もまだ己の限界を認識していなかったせいもある」
「ぅ……」
ぽん、ぽんと眠りに誘うように触れてくる丹楓の尾の感触に、丹恒の意識はどんどんと薄れていく。丹楓と白珠の話をまだ聞いていたいのに、其れもできない。
「だが、楽しんでいた筈だ……また、頼む」
「…そうですね、次は丹恒が倒れないように気を付けます」
「あぁ」
丹楓の尾先がすっかり眠ってしまった丹恒の頬を撫でた。
もし、次も倒れてしまいそうになったのだとしてもまた支えれば良いと丹楓は思いながら、其れを口に出さず頬を撫で続けた。