「おはようございます、九条いる?」
テレビ局の楽屋の扉を叩いたのは三月だ。
「どうぞ。おはようございます。どうしたの?」
今日天はグループではなく単独の仕事のため、楽屋も1人で使っている。先日発売されたRe:valeが表紙を飾るファッション誌をソファで読んでいた天は、顔を上げて扉から入ってきた三月を目に捉えた。
「福岡ロケ行ったからさ、お土産。」
三月はにこっと笑って大きな紙袋を掲げてる。
「たくさんあるね、配り歩いてるの?」
「ううん、全部お前の。」
三月の答えに天は目を見開いた。
「全部?」
「九条好きそうだなー、これも好きそうだなって思ってたらたくさん買ってて。荷物になるよな、ごめん。」
なんてかわいい理由。しゅんと頭を下げる三月に天はくすりと笑った。
「帰り車だから大丈夫。何くれるの?」
三月はほっとしたように笑顔を見せて紙袋を広げる。
「良かった!まずはこれ、通り○ん。好きだろ。」
三月は全国的に人気の高い白あんの饅頭を取り出す。TRIGGERで2個ずつ食べてくれということか、それとも全部天のかは不明だが6個入り。
「好き。ていうかそれ好きじゃない人の方が珍しいじゃない。」
「はは、オレも好き!そして、博多ラーメン!棒ラーメン食べたことある?」
次に取り出したのは箱に入った博多とんこつの棒ラーメン。3食分ある。
「食べたことあるかな……わかんない。みんなで食べるよ。」
それから、これも土産物として人気の高いせんべいの箱を取り出す。明太子と海鮮が使われているという。
「それから明太子せんべい。甘口にしといた。」
「ありがとう。これ、辛口は本当に辛いらしいよね。辛口だったらボク食べられなかったかも。」
「あと、もひとつ。」
三月がそう言ったとき、天は首を傾げた。
もう紙袋は空だったからだ。
「て……」
「て?」
三月は恥ずかしさからか頬を赤く染めて、上目遣いで言った。
「て、天のこと、好いとうよ……?」
天の脳内に落雷が走った。
「じ、じゃあお疲れ……!」
脱兎のごとく。気づいたら三月は逃げるように楽屋を出て行った。
天は今の恋人の台詞を噛み締めながら、1つ1つ紙袋にお土産を詰め直した。